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【本編完結】勇者と魔王の歪んだ世界~落ちこぼれ勇者候補生が救ったはらぺこは最強の魔王候補生!?二人はリバースワールドの果てに真実を探究する~【ぺこリバ】  作者: よるか
第11章、魔界編――紡ぐ未来へ、託す想い

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幕間 騒がしい大聖堂


 アーキスは一人、薄暗い階段を上っていた。

 頭痛がするのは魔法の後遺症なのだろうか。ややズキズキと痛む頭を押さえながら首を振る。

 エリンスを見送る際、彼には情けない姿を見せてしまうことになった。

 それがたとえアーキスの本心だったとしても、蓋をして閉じ込めておいたはずの想いは、強引にこじ開けられたように溢れ出してしまった。

 その元凶たるは、ネムリナ・エルシャルズ。勇者協会に所属する幹部の一人で、黒の管理者を任されるほどの実力者だったはずだ。

 エリンスに「こちらのことは任せろ」と言ってしまった手前もある。早急に手を打つべきだろう、とアーキスも考えてはいたのだが――。


 階上が近づいてくるにつれ、何やら人の走る足音や騒がしい声が聞こえはじめた。時間にして零時(れいのとき)を回った頃合いだとも言うのに、だ。


――何事だ?


 階段を上り切り大聖堂へと戻ってみれば、また人がばたばたと数人走って大聖堂を横切っていく。

 宿舎から総本部のほうへ続く廊下へと。その形相は眠気も忘れたのか、皆一様に慌ただしそうだ。


「すみません、一体どうしたんですか」


 再び駆けて行く職員を見かけて、アーキスは慌てて呼び止めた。

「え?」とそこにアーキスが立っていたことにも気づいていなかったらしい女性の職員は、寝癖で跳ねる頭を押さえながらもアーキスにこたえてくれた。


「そ、それが……」


 言い澱むような素振りに、アーキスの疑心感が増す。

 動いている人数を見るに、ただ事ではない何かがあったのは明白だ。


「言っていいのか、でも……」


 悩む女性職員にアーキスは一歩詰め寄った。


「俺は勇者候補生です。何かあったなら動けるうちに動くべきだ」


 早急に手を打たなければいけない案件はもう一つあるが。

 ただそう思いを据えたアーキスとは裏腹に、女性職員はあわあわと視線を泳がせて、未だ戸惑いが隠せない様子だった。


「……ま、マースレン様が、殺害されたと」


 女性職員自身も人伝ひとづてで聞いた話ではあるのだろう。目は「信じられないけれど」と語っている。

 アーキスにしても話を理解するのに一瞬遅れがあった。


「……なんだって?」


 マースレン・ヒーリックと言えば勇者協会最高責任者で、勇者協会を統括する立場にある人間だ。

 夕刻まではラーデスア帝国での一件のその後の調査や報告のために、アーキス自身も顔を合わせていた男だ。


「すみません! わたしは急ぐので!」


 協会職員たちにも何らかの命令が下っているようだ。

 女性職員は慌てたように手を合わせて頭を下げると、総本部のほうへと駆けて行った。

 アーキスも話に聞いただけでは信じることができなくて、慌ててその後を追った。



◇◇◇



 大聖堂から協会総本部となる建物の廊下へ、そして階段を駆けて最高責任者執務室のある四階まで上がった。

 途中、すれ違う協会職員たちは慌てたように制服も着崩したままで、皆一様にして事態を呑み込めていない様子だった。

 執務室の前まで辿り着いたところでそれは変わらない。

 やや開けた廊下の広間では、重鎮だろう老紳士たちが三人ほど顔を合わせて、何やら話をし相談をしている。皆眠そうな目元を擦りながらもその眼差しは真剣そのもので、執務室のほうは既に剣を抜いた協会職員によって固く封鎖されていた。


 アーキスは現場となる執務室へ立ち入ることも、そうして話し合いが続けられている大人たちへ口を挟むこともできなかった。

 ただそこにあったのは、既に事が起きてしまったという結果だけだ。

 話に聞いただけでは信じられなかったことだとしても、それはまさしく今起きていることなのだろう。


 このタイミングで、勇者協会最高責任者が殺された。

 職員の女性も「死んだ」ではなく、「殺害された」とはっきりと口にしていたことを顧みるに、ひと目して事件性があったのだろうことは想像がつく。

 何故このタイミングなのかということに関しても、アーキスにとっては推察がつく。

 裏切り者は内側にいた。

 ラーデスア帝国の陥落を先導したのは裏切りの勇者候補生ではあったが、その裏でずっと、もう一人の裏切り者は暗躍を続けていたのだろう。まるで堂々と姿を見せていたシドゥのことを隠れ蓑にするようにして、したたかに、確実に。


 マースレンの殺害もネムリナ・エルシャルズの仕業に他ならない、とアーキスは結論づける。

 だとしたら、今何をするべきなのか。

 そう思い返して、見送ったエリンスの背中を思い出し――アーキスは一人頷くと、きびすを返した。

 事態を相談するにふさわしい相手は、エリンスの父、レイナルだろう、と。


 大聖堂にてエリンスとレイナルの話を盗み聞きしてしまったアーキスではあったのだが、だとしても、あのときもタイミングは良すぎた。ネムリナ自身も、二人の会話を盗み聞きしていたのだろう。


――だとすると、まずい。


 これもそれも全て、このタイミングで動いているということは幻英ファントムの手のうちだということだ。

 階段を駆け下りながらも考え続けるアーキスは来た道を駆け戻る。

 レイナルの居場所もわからないが、ひとまず大聖堂を横切って、未だ慌ただしく起きてくる職員たちとは真逆に走り、宿舎のほうへと向かう。

 渡り廊下を通って、そのまま階段を駆け上がったところで、アーキスは見知った顔とすれ違った。

 真剣な顔つきで考え事をしていたアーキスよりも早く、向こうが先に気がついた。


「アーキス!」


 マリネッタだ。いつもは結っている青い髪を下したまま、薄い寝間着の上から水色のローブを羽織る。

 彼女は大きな杖を片手にし、走ってくるところだった。


「マリネッタ、無事だったか」

「えぇ、わたしも今、何があったのか話を聞いたところよ」


 マリネッタの横に控えていた女性職員も慌てたように階段を駆け下りて行った。


「あぁ、俺もさっき聞いた」

「こんな夜中に……一体」

「こんな夜中だからこそ、だろうが」


 アーキスは暗殺だと断定している。事が露見している以上、秘密裏に動くつもりもないことなのかもしれないが。


「アーキスは、またどうして?」


 マリネッタにそう聞かれて、こたえたいことは山ほどあった。エリンスが魔界へ向けて発った話はマリネッタにもしておくべきだろう。だが、今はその余裕もない。


「それはまた、後だ。今は犯人の行方を突き止めなければ」

「犯人? わかっているの?」

「おそらく、黒の管理者ネムリナの仕業だ」


 アーキスがそう口にしたところでマリネッタは驚いたように目を見開く。


「黒の管理者……? 協会にも裏切り者がいたと?」

「あぁ、事情はわからないが、彼女は最初から向こう側だったのかもしれない。そのことも含めて相談したくて、エリンスの父上を探している」

「レイナルさん? どこかしら?」


 マリネッタにしてもその行方はわからないのだろう。

 しかし、こうして足を止めて話している時間も今は惜しい。

 アーキスはそのタイミングで聞き返した。


「きみこそ、どうして一人で部屋から出てきた?」


 犯人は未だサークリア大聖堂内部にいる可能性もある。そういった危険性があるにせよ、マリネッタが騒ぎを聞きつけて、居ても立っても居られなかったのだろう。それはなんとなくアーキスもわかってはいた。


「胸騒ぎがするの。メイルムはまだ目を覚ましていないでしょう。だから彼女のところへ様子を見に行こうかと思って」


 マリネッタは落ち着かなさそうに眼差しを揺すらせる。

 彼女がそう言った言葉に、アーキスも顎に手を当てて考えた。


「胸騒ぎ、か」


 直感というものも馬鹿にしてはいけない。

「うん」と頷いたマリネッタは、アーキスを避けて階段を下りはじめた。アーキスもすかさずその後を追う。


「わかった、一緒に行こう」


 ネムリナの狙いがわからない以上、単独行動は危険だ。共に動ける人がいるというのならば、一緒に行動するべきだろう、とアーキスは判断した。

 アーキスの返事を聞いて、マリネッタも迷いなく「えぇ」と頷く。

 そうして二人は宿舎部一階の外れにある治療室を目指して廊下を駆けた。


 協会職員も出払っているのか、治療室周辺は静かなものだった。

 そこまでは息も荒げて走った二人だったが、顔を見合わせて息を落ち着けるようにひと息吐く。

 静かに横引きのドアを開けたマリネッタに続いて、アーキスも足を踏み入れた。

 常務の職員も事件現場のほうへ出払っているのだろう。事務室はもぬけの殻で、その先に続くもう一枚のドアを開けて、二人は治療室へと踏み入った。


 左右に十台ずつベッドが並ぶ大部屋だ。

 カーテンを引いて区分けすることができるような仕組みになっており、しかし、今は利用者も一人を除いていないため、カーテンは全て開け放たれている。

 メイルムは入り口から向かって窓際にある一番奥のベッドに眠っているようだ。そこだけベッドが膨らんでいる。

 だが、それよりもまず目に飛び込んできたのは、がらんと開け放たれている治療室の中で立ち尽くしている人影だった。


 月明かりも差し込まない薄暗い部屋の中、わずかに灯った魔素光マナ・ライトに、白い異様な肌を晒す魔族が照らされる。

 青白い長い髪は暗闇の中でも煌いて、透き通る白い氷でできた陶器のようなつるんとした頬に、真っ赤なルージュが引いた口元が横顔からものぞいている。妖艶な雰囲気を纏う女性に薄暗闇はふさわしく、雰囲気を作っているようでもあった。


「なんで、あんたがここに!」


 マリネッタは静けさを打ち破るようにして、焦るように大声を上げた。

 杖を構える彼女を横目に、アーキスも腰に差した天剣の柄へと手を添える。


 青白いドレスに身を包む魔族は、そこでちらりとアーキスとマリネッタのことを一瞥して、「ふっ」と小さく笑った。

 氷血の君臨ミカシプロルは、眠るメイルムを見下ろすようにして静かに佇んでいる。



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