幕間 ~復興へ、帝国の希望~
後の世で、勇者候補生たちの軌跡の一つ、英雄譚として語られることになる『覇王征伐帝国奪還戦』はそうして成された。
エリンスたち勇者候補生が去った後、残された人々はラーデスア帝国の復興を祈った。
その願いにこたえるべく指揮を取ったのは、帝国最後の希望と謳われた男、ラーデスア騎士団師団長カンバルクだった。
遺された希望――シルメリナ皇女殿下の下に、生き残ったラーデスアの人々は力を合わせ手を取り合って、帝都、果ては城塞都市と黒鉄の王城の復興を目指した。
シドゥの想いは結局、そうした形で叶えられることになった。
受け継がれた新たなる希望として、兄である彼の想いを背負って、妹である彼女は、皆の前に立つことを決心したという。
帝都へと侵入したカンバルク率いた部隊は、勇者候補生エノルの協力の下、無事生存していたラーデスア国民を救出し、勇者協会の協力で集められた魔導船にて一早く戦場を脱出したという。ファーラス王国側の協力もあって、難民の受け入れや避難民のその後の生活も保証され、帝国は今度こそ正しく、その息吹を取り戻すこととなる。
エリンスたちが王城へ突入している最中、前線であるラーデスア雪原を抑えたディムルたち傭兵団とファーラス騎士団。
戦死者は出て被害は免れなかったものの、彼らの活躍があったからこそ勇者候補生が思う存分に戦えたのは間違いない。
傭兵団も勇者協会、ファーラス騎士団、ラーデスア騎士団の三方から表彰されることとなった。無事、ラーデスア雪原の戦線を守り抜き、魔族軍を殲滅した功績は大きいだろう。
大傭兵団を率いた団長ディムル・オーンズバンの名は、その酒豪っぷりと並んで、後の世にも伝説の傭兵として名が残る。
裏切り者の勇者候補生として名が広がってしまったシドゥの処遇は、エリンスも後々に知ることとなるのだが、きちんとリィナーサが約束を果たした。
玉座の間で意識を失った彼のことを秘密裏に救出治療したリィナーサは、勇者協会から彼の行方を隠すため、その後身柄をディムルたち傭兵団に預けて、傭兵団が責任を持って見守ることになった。
エリンスの想いは届いたのだろう。目を覚ました彼は現状を受け入れて、特に暴れたり反抗したりすることもなく、素直にディムルの言うことを聞いたという。その顔にはぐるぐると包帯が巻かれ、密かにラーデスア山脈どこかにある集落で、その後罪を償う機会を待っているという。
勇者協会側では、シドゥ・ラースア・レンムドルは行方不明者として記録された。
ラーデスア帝国を巡る戦いの中で、行方不明者も多数出た。
一時行方がわからなくなっていた黒の管理者ネムリナは帰ってきたものの、他の者は未だ見つかっていない。
ファーラス王国の王子でもある勇者候補生第二位、メルトシスも行方不明のまま。
結局、アーキスもザージアズからは彼の行方を聞き出すことはできなかった。
次元の狭間に呑まれたという曖昧な情報だけでは断定できない。アーキスも、エリンスも、メルトシスが死んだわけがないと信じていた。
また、ラーデスア帝国に幻英が現れた一報を聞いて、一足先に出向いていたはずのシスターマリーとも連絡が取れなくなっている。彼女もまた、行方不明者の一人として数えられていた。
魔王五刃将として魔王に仕える彼女が勇者協会に所属していたわけも、エリンスはまだ聞くことができていない。
そこには二百年前から続く真実に隠された因果が関係しているのだろう――。
エリンスたちの目的地であった黒の軌跡は、戦いが終息したその日から復興作業がはじまった。
ファーラス騎士団の協力を得る形で、勇者協会が全力で復興作業に当たることとなる。
黒の軌跡復興にかかるとされた目安は、七日間。
勇者候補生たちもまた、その間休息を要求されることになるかと思ったのだが、世界はそう優しく巡ってはいなかった。
人界と魔界との流れが絶たれた影響は、人々が思っていたよりも大きかった。
あの地震と耳鳴りが、幻英によって世界が分かたれたことによるものであることは、エリンスの口からマースレンへ、勇者協会へと報告された。
それと同時に、世界各地で巡廻地と呼ばれた場所に異常が見られ、魔物も凶暴化しているという事案が報告されはじめることとなった。
魔物を統べる立場にいる魔竜にも、その制御はつかなくなってしまったようだ。
結界装置があるはずの街へと近づく魔物の姿も目撃されるようになりはじめ、各自治体、騎士団や自警団、世界を旅している勇者候補生たちの仕事も増えたという。
世界は、幻英の手のうちにある。
エリンスとアグルエの旅路が終わっていないのと同様に、全ては〝悲劇の幕開け〟から続く惨劇の上に、破滅への道は続いている。
幻英の真意、その狙い。二百年前の真実に隠された更なる真相。勇者と魔王が何を想ったのか。
思惑は渦巻き、やがて世界を巡る大いなる流れの中で一つの結末へと集束していくのだろう。
その戦いがまだ序章に過ぎなかったということを、勇者候補生たちもまた、思い知ることとなる――。




