プロローグ
勇者の活躍する物語が好きだった。
旅をして国を救い、魔王を倒して世界を救う。
筋書きとしてはありきたりで、だけど、そこにしかない物語に胸を躍らせた。
いつかきっと物語の勇者のように、広い世界を見て回って旅がしたい――と憧れたのだろう。
狭い世界の中、孤高に孤立し孤独であったわたしには、それを知る術がなかったから。
剣と魔法の世界『リューテモア』に、勇者と魔王が現れてから二百年。
時代は流れ、生ける伝説となった勇者の力は、人々の間で受け継がれ続けた。
その力を継ぐ者を人は皆――『勇者候補生』と呼ぶ。
今やおとぎ話ではなくなった『勇者』の存在に、少女の想いも叶うときがきた。
灯りが消えた部屋の中、窓から差し込む薄い光だけが部屋の主を照らし出す。
頭からコートのフードまで被って正体を隠すようにした少女は、何やら魔法の詠唱をはじめた。
「――、――――」
魔素――魔法の源を集めて、門――渦巻く転移の門を造り出す。
「いってきます!」
誰に挨拶するわけでもなく口にして、少女はそれに飛び込んだ。
形を失う魔法は光の残滓となりとけだして、部屋の中から人の気配が消えた。
星のよう数多にある物語の数の中から、この一ページを開いていただきありがとうございます。
長い旅路の物語となりました。
ふたりの旅をぜひ見守っていただけたら嬉しいです。よろしくお願いいたします。