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8佐助の秘密の御用聞き

いよいよチャラいじいちゃん、佐助の登場です!

どうぞよろしくお願いします!!

 紅葉山村は長閑な田舎の村ですが、西隣にはお殿様の住む城下町があります。そのため、紅葉山村の西のはずれには、芸者の置屋や遊郭などの店が連なる、華やかな色街がありました。

「女子供は立ち入り禁止」と大人達から言われている場所ですが、佐助はふんふん、と鼻歌を歌いながら、慣れた足取りで色街の門をくぐります。

後をつけてきたおさきは、じいちゃんがあまりにも軽やかに色街へ入って行くのを見て、思わず門の前で立ち止まってしまいました。

どうしましょう?若い娘が一人で入っていい場所ではないことは、十分理解しています。でも、このまま不審な行動をするじいちゃんを、野放しにするわけにはいきません。

ごくんと唾を飲み込み、勇気を出して門をくぐると、そのまま距離を置いて佐助の後をつけます。すると佐助は、人目も憚らず、ある芸者の置屋へいそいそと入っていきました。

こんなところで、いったい何をするつもりでしょう?失敗饅頭でも売りさばくつもりなんでしょうか?

しばらく垣根の裏に潜んで息を殺して耳をそばだてていると、置屋から「キャー」と嬉しそうな声が上がりました。

いったい何事?

おさきが更に耳に意識を集中させて、置屋の中の様子を伺っていると、入口から五人の芸者と共に、じいちゃんが出てきました。

「じいちゃん…」

置屋から出てきたじいちゃんの顔を見て、おさきは愕然とします。しかし佐助はそんな孫娘の視線に気づくわけもなく、若い芸者達と両腕を組みながら、鼻の下を伸ばしています。

「佐助さぁん!今日もお饅頭美味しかった!」

「良かった!お清ちゃんのためなら、またいつでも持ってくるよ。ところお清ちゃん、この子美人さんだねぇ…お嬢さん、お名前は?」

お清と呼ばれた芸者の横に、まだあどけなさの残る少女が必死で作り笑顔を浮かべています。

「ああ、この子は新入りなの。名前はおたつだったっけ?先週ここへ来たばかりなんだよね」

お清に紹介されて、おたつは佐助にぺこりと頭を下げます。

「おたつさんか…いやぁ、本当に綺麗なお嬢さんですね。きっといい芸者になるんだろうな。おたつさん、良かったら今度、私と二人で茶屋へ行きませんか?」

「こら、佐助さん。この子はまだダメよ。茶屋なら私が行ってあげるから」

佐助の左腕に腕を絡ませる芸者が割り込むと、佐助は家では見たことの無い爽やかな笑みを浮かべて、頭を横に振ります。

「いやいや、おきぬさんと茶屋へ行ったら、色気にやられて家に帰れなくなるよ。まずはおたつさんと健全に茶屋へ行かないとね。ね?おたつさん。それとも、私のような男と二人では恥ずかしいですか?」

何が恥ずかしいですか?だ、とおさきはだんだん腹が立ってきました。

このスケベジジイ。前から怪しいとは思っていたけれど、よりによって失敗饅頭を手に、色街でナンパしていたとは…!

本当は城下町で厳しい修行を終えた腕の良い菓子職人なのに、やたら失敗饅頭が多いのはこのためだったのですね。

許しません!!ばあちゃんが必死でやりくりして捻出している材料費を、自分の欲のために無駄遣いするなんて!!!

「じいちゃん!」

両手にも前後にも花の状態で、浮かれまくっている佐助の背後から声をかけると、佐助は背中をびくりとさせて、立ち止まりました。

「おさき……!!!」

丸い目をこれ以上無いくらい大きく丸く見開いて、息を呑みます。さっきまで鼻の下を伸ばしてでれでれしていた顔は、気の毒なくらい真っ青です。

「おさき、これには訳があるんだ…その、御用聞きな、御用聞き!これも大切な仕事なんだ」

「おなごをたくさん引き連れて、口説きながら茶屋へ行くのが御用聞きですか?ふーん、よく分かりました。ばあちゃんに伝えておきます!」

「ま、ま、待ってくれ!!これから毎日、失敗饅頭を腹いっぱい食べていいから、ちょっと話をしよう」

「いいですよ」

 結局佐助はおさきと茶屋へ行くことになり、毎日失敗饅頭十五個を嫁に行く日まで食べさせるという約束をして、今日のことは家族には黙っておくことになりました。

 帰り道、饅頭の入っていた木箱を抱えて、佐助とおさきは村へと歩きました。さっきまでしょげていた佐助もすっかり元気になり、道行く女性をちらちら横目で物色しています。

 後日、ある人から聞いた話によれば、佐助は色街だけでなく、城下町へ行く度に、女性に声をかけては茶屋へ誘っていたようです。時々帰りが遅いのは、茶屋で女性を口説いていたからだとか。

「だからね、佐助おじさんのは病気みたいなものだから、おさきちゃん諦めた方がいいよ」そう言って、さっぱりした顔で微笑むその女性と再会するのは、あと少し、母さんの祝言の朝のことでした。







いつもお話やブログを読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話、また倉持屋に戻り、いよいよ祝言になります。どうぞお付き合いください。

これからも、よろしくお願い致します!


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