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7倉持屋のおきく現る!3

いよいよ倉持屋での挨拶を終えて、ゆきの屋へ挨拶へ向かう平次。

しかしそこにはじいちゃんこと佐助の奇妙な行動が・・・・。

どうぞお楽しみくください!

それから中庭の花を相手に、可愛らしい声でおきくが歌うのを聞きながら、おさきは一人悶々としていました。

来週から、この家でこの生意気な妹と暮らさなければなりません。

しかも、いくら姉妹とは言え、後妻の連れ子であるおさきが、倉持屋の血を引くおきくにあまり強い態度に出ることはできません。

まあ、おそのさんは良い人だし、あの平次とかいう親父もそこそこまともそうなので、こんな小娘一人何とかなるでしょう。

と、かつて鍛冶屋の家で母以外の全ての人達から意地悪をされて暮らしていた日々を思い出し、おさきは覚悟を決めるのでした。

 しばらくすると大人の話し合いが終わったらしく、おそのが呼びに来ました。

「おさきちゃん、おきく、お菓子をあげますからこちらへいらっしゃい」

「はい、おばあさん」

さっきまでの不遜で嫌味な態度はどこへやら、おきくは可愛らしい仕草でぴょんと縁側へ上がると、

「あね様、いっしょに行きましょう」

と上目遣いでおさきにくっついてきます。

そんな様子を見たおそのは、心底嬉しそうに目を細めて、

「まあまあ、もうすっかりおさきちゃんに懐いて。優しいあね様ができて良かったわね、おきく」

と言い、おきくも、

「はい、とっても優しくてかわいいあね様で、おきくも嬉しいです」

と心にも無いことを言って微笑むのでした。


「では、母さん、行って参ります」

客間でしばらく話しをした後、平次はおはなやおさきと共に、ゆきの屋へ祝言の挨拶に向かいます。

「気を付けて。くれぐれも失礼の無いように、ちゃんとご挨拶するんだよ」

「はい、任せてください」

そう言いながら、あらかじめ用意しておいた一番良い米とお酒を手に、平次はにっこり微笑んで玄関を出ます。

おはなが優雅に挨拶する後ろで、ぺこりと頭を下げると、複雑な気持ちでおさきは二人についていきました。倉持屋からゆきの屋までは、歩いてニ十分、その間、まるで恋仲だった頃と変わらず二人の世界にどっぷりな平次とおはなに呆れながら、おさきはこれからのことを考えていました。

平次と母さんがこんな調子だと、私は下手したら倉持屋で独りぼっちになってしまいます。さて、誰を味方につけましょうか?おそのさん?それとも、他に誰かいるでしょうか?

あれこれ思案していると、あっという間に見慣れたゆきの屋の暖簾の下に立っていました。

「ごめんください」

と平次が声をかけると、ばっちり余所行きの着物に着替えて待ち構えていた佐助とおはるが、満面の笑みで出迎えます。

「これはこれは、平次さん。お待ちしていましたよ」

二人は三人を客間に通すと、佐助自慢の栗の実がごろっと一粒入った上品な羊羹とお茶を、おはるが運んできました。

平次は佐助とおそのが前に揃うのを待って、座布団から降りると、正座したまま姿勢を正します。

「どうか、おはなさんと夫婦になることを、お許しください」

そう言って深々と頭を下げる平次に、佐助はいつになく機嫌の良い声で、

「こちらこそ、ふつつかな娘ですが、末永くよろしくお願いします」

と頭を下げました。

「さ、平次さん。昔から知っている仲なのだから、挨拶はこれくらいにして、ゆっくり寛いでくださいな。平次さんは昔から、甘いものが大好きでしょう?たくさんおあがりなさいよ」

おはるはそう言うと、栗羊羹の他に、大福やきんつばをどっさり菓子器に盛って平次の前に置きます。甘いものに目の無い平次は、ぱっと顔を輝かせると、では遠慮なく頂きますと言って、佐助の和菓子を幸せそうに頬張り始めました。

おさきは和菓子をぱくぱくと美味しそうに食べる平次を横目で見ながら、ふぅ、とため息を漏らします。

母さんと同じ年のおじさんなのに、まあよく食べること。

でもこの人なら母さんは大切にしてくれそうだし、意地悪もしなさそうですね。まずは一安心。と無邪気に和菓子を頬張る平次を見て、ちょっぴり安堵するのでした。

 しばらく四人で最近の倉持屋のことや、おさきのことを話していると、ふと佐助が立ち上がりました。

「ちょっと御用聞きに行って来る」

「ちょっと、せっかく平次さんがいらしているというのに、今行かなくてもいいでしょう?」

「いや、どうしても行かなければならないから。平次さん、悪いですねぇ」

と、余程大切なお得意先でもあるのか、真剣な顔の佐助を見て、平次も首を横に振ります。

「いえ、私は大丈夫です。こちらこそお忙しいのに、お邪魔してすみません」

「いえいえ、ゆっくりして行ってください。平次さん、これからは親子なんだから、どうか気兼ねなくいつでも遊びに来てくださいね。甘いものを用意して待っていますよ」

佐助はそう言うと、いそいそと饅頭の入った箱をいくつも抱えて、店を出て行きました。

「全く、言い出したら聞かなくて、すみませんねぇ」

おはるが平次に笑顔で謝るのを聞きながら、おさきはこっそり佐助が抱えている箱を見て、目を細めます。

じいちゃん、嘘はだめですよ。鈍感なばあちゃんは気づかないかもしれないけれど、その箱は失敗饅頭の入っている箱でしょう?私は小さい頃からたらふく食べて来たからすぐ分かりましたよ。そんな売り物にもならない饅頭を持って、どこへ御用聞きに行くのですか?

これは絶対に怪しい!!

「母さん、私もちょっと席を外していいですか?」

「いいですよ。好きなところで遊んでらっしゃい」

ご機嫌のおはなの許可を得ると、おさきは平次に挨拶をして、玄関へ向かいます。

そっと下駄を履くと、足音を立てないように注意しながら、鼻歌交じりに御用聞きへ行く佐助の後をつけるのでした。









いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話も続きますので、どうぞお付き合いください。

これからも、基本隔日更新で書いていきますので、よろしくお願いいたします!

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