6倉持屋のおきく現る!2
あね様になりそうなおさき。
いよいよステップファミリーの倉持屋の、永遠のライバルおきく登場です。
どうぞお楽しみください!
二人は真新しい廊下を緊張しながら歩くと、質素だけれど品の良い客間に通されました。
「どうぞ、母が待っています」
何でも平次の父は倉持屋の繁栄を見届けた後、三年前に他界し、今は母親だけとのことでした。
廊下にきちんと座って待っていると、「入ってらっしゃい」という優しい声が聞こえてきます。
「ご無沙汰しております。おはなでございます」
客間の下座で三つ指をついて深々と頭を下げると、平次の母おそのは、そんなおはなを見て相好を崩しました。
「まあ、おはなちゃん。懐かしい声。堅い挨拶は抜きで、さあ、顔を上げてちょうだい」
「はい」
返事をして、ゆっくり顔を上げると、おはなはその美しい顔でゆったりおそのに微笑みます。するとおそのは、そんなおはなの様子に感心したらしく、うっとりため息を漏らします。
「まあ、相変わらず、綺麗だこと。紅葉山小町健在ってところね」
「いいえ、私もとうに娘時代は終わってしまいました。こちらは娘のおさきでございます」
「お、お初にお目にかかります。おはなの娘のおさきでございます。どうぞよろしくお願い申します」
「まあ、おさきちゃんっていうの!十二なのにしっかりしてるのね、それにぽっちゃりして可愛らしいお嬢さんだこと!」
おさきが緊張しながら挨拶すると、おそのはおさきが気に入ったらしく、満面の笑みを向けます。
「ああ、平次が突然おはなちゃんをお嫁さんにするって言いだすから、どうしたものかと心配したけれど、これなら案ずることは何も無いわね。お互い里もよく知った家同士だし、安心しました」
おそのは心底ほっとしたように、ふう、と息を一つ吐きました。そして、
「じゃあ、今度はこちらがご挨拶する番ね。おきく、入ってらっしゃい」
と言うと、
「はい、おばあさん」
とまだあどけなさの残る声が返事をして、作法通りふすまを開けて、さっきの女の子が入ってきました。
「この子はね、おきくといって、今年十になったばかりなの。平次がなかなか嫁を貰わないから、先月平次の兄の家から養女に来てもらったの。おきく、ご挨拶なさい」
「はい、おきくと申します。母さん、あね様、どうぞ仲良くしてください」
「まあ、母さんだなんて…いいのかしら?」
平次似の美少女にいきなり母さんと呼ばれて、頬を赤らめるおはなを横目で見ていると、おそのも嬉しそうに、
「いいんだよ。おはなちゃんはもううちの嫁なんだから。この後家まで送りがてら、佐助さんとおはるさんの所へ平次にご挨拶に行かせるからね。あとは来週初めの祝言のことで、ちょっと大人同士話をしたいから、おきく、おさきちゃんと遊んでおいで」
「はい、行きましょう、あね様」
「は、はい」
おきくの白魚のような小さな指で手を握られて、おさきはびっくりしながら、ぺこりを頭を下げて客間を後にします。
「あね様、こっち、こっち!」
長い廊下を小走りで走りながら、おきくは中庭に出ます。足袋のまま、ぴょんぴょんと石畳を歩く姿を見ながら、おさきは中庭の見える縁側にそっと腰かけました。
すると、おきくは綺麗な顔に不適な笑みを浮かべて、おさきのところへ戻って来ます。
「ねえ、あね様。あね様は何で母さんに似てないのですか?」
「えっ?それは…」
そんなこと、知るもんですか。誰に似ているか知らないけれど、私は母さんにも、クズ父にも似ていないのだから。
どう答えたらいいものかと、口ごもっていると、おきくは意地悪そうな笑みを浮かべて、そんなおさきを見ています。
「じゃあ、何で、そんなにお腹がぽっちゃりしているのですか?」
「そ、それは、祖父が和菓子屋さんで…」
家のストレスで失敗饅頭をやけ食いしていたなどと、この生意気な子に言いたくありません。するとおきくは、そんなおさきの心中を読んだかのように、わざと大げさにため息を漏らすと、
「あーあ。せっかく美人な母さんが手に入ったのなら、どうせなら美人なあね様が欲しかったなぁ。まあ、いいんですけどね」
と十歳のくせに、痛烈な嫌味を言ってきました。
「何ですか?私だって、どうせ妹ができるなら、もっと可愛げのある子が良かったですよ」
思わずおさきが言い返すも、そんなおさきを歯牙にもかけず、おきくはまたぴょんぴょんと中庭に下りていきます。
「まあ、そういうことなので、私は顔の美醜は気にしませんから、これから末永く仲良くしましょうね。あね様」
くっそー!!何て性格の悪い子なんでしょう。
苦虫を潰すような心地で、おさきはぎゅっと拳を握り締めました。
いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。
次話も続きますので、どうぞお付き合いください。
これからも、よろしくお願い致します!