表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

3忘れられない初恋1

昨日はいきなりお休みしてしまい、すみません。

今日からあね様復活です!

どうぞよろしくお願いします!!

「おはなさん…!どうしたんです?」

平次は綺麗な顔をぱっと一瞬輝かせるも、嬉しい気持ち押し殺して、おはなの身を案じます。

何故なら、今や村一番の大店である米問屋の主人を務める平次は、少し前からおはなの嫁ぎ先の鍛冶屋の経営が危ないことを噂で聞いていたからです。

するとおはなも、美しい顔に悲しそうな表情を浮かべて、平次を見ます。

「実は…先日家の者が殺され、今夜姑からおさき共々心中しようと持ち掛けられたものですから…離縁して里に戻って来たのです」

「そうだったんですか」

平次は優しい笑みを浮かべると、おはなの隣に腰を下ろしました。

図々しい男!

と、おさきは心の中で思うものの、この平次という色男がおはなとただならぬ関係にあったことは、一目瞭然です。おやきを頬張りながら、じっと横目で平次を観察します。

「平次さん、今日もかぼちゃでいいかい?」

「ああ、すみません。お願いします」

慣れた調子で主人に返事をして、平次はおはなを見つめます。懐かしい面影。くっきり大きな目に長い睫毛が影を落とし、すっと通った鼻筋は高過ぎず低すぎず、小さくて可愛らしい唇に薄っすら引かれた紅が、おはなの上品な顔立ちを引き立てています。

「…昔と何も変わらないですね。おはなさん」

「やだ。私はもう子どものいる母親です。変わらないのは平次さんの方ですよ」

「いえ、私もいい年です。おはなさんは、若くて綺麗なままです」

「平次さんこそ!あの頃と何も変わらない素敵なまま。きっと可愛らしい奥様がいるのでしょう」

「いえ…私はずっと独り身です」

一人蚊帳の外になってしまったおさきは、そんな年甲斐もなく頬を赤らめる二人を冷ややかに見ながら、何とも言えない気持ちになっていました。

何ですか?この男…私の母さんを取らないでください。さて、どうやって邪魔してやりましょうか?あれこれ思案を巡らせて、おさきは一番王道の方法を実行することにしました。名付けて、小さな子ども作戦です。本当はあと数年で嫁入りするいい年の娘ですが、構いません!とおさきは意を決しました。

「母さん?」

わざと声鼻にかかった可愛らしい声で、おはなに話しかけます。するとおはなは、平次と見つめ合っていた目線を、はっとしたように逸らして、おさきを見ます。勝った!とおさきは心の中でこっそりガッツポーズをしました。しかし、

「あ、ああ、おさき。平次さん、こちらは一人娘のおさきです。歳は十二」

「可愛いなぁ、おさきちゃんか。……おさきちゃん、良かったらおはなさんと一緒におじさんと暮らさない?」

「はあっ?!!!」

おさきが思わず素っ頓狂な声を上げるも、平次はおさきの返事を待たず、真面目な顔でおはなを見つめています。形の良い黒目がちな目に射抜かれて、おはなもうっとりして平次を見つめ返します。

「おはなさん。私はずっとおはなさんだけを思っていました。どうか、私の妻になってくれませんか?」

「…平次さん、でも私は…」

「構いません。おはなさんは、無理矢理鍛冶屋に嫁がされたのでしょう?あの日、何度祝言に乗り込んで、おはなさんを連れ去ろうと思ったか…しかし相手は殿様の息のかかった名のある鍛冶屋、当時貧乏な米問屋だった私ではとても歯が立たないと諦めたのです。でも、神様がちゃんと鍛冶屋からおはなさんを逃がしてくださった。今は私の商いも大きくなったので、決して不自由はさせません。おはなさん、ぜひ私と一緒になってください」

「平次さん…私もずっと平次さんだけを思っていました。まさか、こんな日が来るなんて。嬉しい、ありがとうございます。ふつつか者ですが、末永くよろしくお願い致します」

「こちらこそ、無骨者ですが、おはなさんを一生大切にします。よろしくお願いします」

「平次さん」

平次に抱き寄せられて、おはなは愛おしそうに目を閉じます。

「おはなさん」

すっかり二人の世界に入ってしまったおはなと平次は、おさきの視線を全く無視して、ぴったりくっついたまま離れません。

ちっ!失敗しました…手ごわいやつ、平次…!!

横目で抱き合う平次とおはなを忌々しそうに睨みながら、おさきは心の中で呟きました。

途中まで上手くいきそうだった小さな子ども作戦は、二人のお互いを一番に思う強い気持ちに負けて、あっけなく失敗してしまいました。






いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話も続きますので、どうぞお付き合いください。

これからも、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ