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24将軍さまの逆襲3

昨日は休んでしまい、すみませんでした。

藤七とおさき、初恋っぽい物語です。どうぞお楽しみください。

「大丈夫ですか?藤七さん?」

奉行所の休憩室の一室で、おさきは藤七の枕元に座っていました。

あれから意識を失った藤七は、倉持屋の大八車に乗せられて、奉行所へと運ばれました。

おさきとおはな、おみねと平次も一緒に奉行所で事情徴収を受けましたが、平次とおみねはすぐに家に帰ることが許され、おはなはおさきの保護者として、奉行所の一室で待っているように言われました。

おさきは藤七の口元に時折手を当てると、息をしているかを確認してほっとします。

顔を見た時にはすぐには思い出せませんでしたが、名前を聞いて藤七と一度だけ会った昔のことを思い出しました。


 まだ、城下町の鍛冶屋で暮らしていた頃、おはなと一緒に紅葉山村のじいちゃんちへ行った時、おはなから一度だけ、

「あずき屋さんのかぼちゃのおやきを二つ、買って来てください」

とお願されたことがありました。

あずき屋さんは近くだし、昔から馴染みの店なら自分で行けばいいのに、とおさきは思うのですが、おはなは絶対に自分では行かず、どうしてもおさき買いに行けと言って譲りません。

「ごめんください」

小さなおさきが緊張しながら暖簾をくぐると、人の良さそうな主人の隣で、まだ幼さの残る男の子がかぼちゃの皮を剥く手伝いをしています。

「あ、あの…かぼちゃのおやきを二つ、ください」

緊張しながら言うと、主人はほかほかのおやきを手早く紙に包み、「あのお嬢ちゃんに渡して」と男の子に言います。

すると男の子はどきどきしながら、おさきの手におやきの包みを渡して、はにかんだ笑顔で微笑みました。

「名前は何て言うの?」

「え?あ、おさきです」

初めて会ったのにいきなり名前を聞かれて、びっくりしながら返事をすると、その男の子は、

「ふーん、おさきちゃんて言うのか。僕は藤七っていうんだ。今度良かったら一緒に遊ぼうよ」

と言ってきました。

すると店の奥から藤七の話し声を聞きつけた主人が、ちょっと怖い顔をして、

「こら、藤七!油売ってないで、さっさと仕事に戻れ!!」

と怒鳴ったので、藤七はびくっとすると、ぺこりとおさきに頭を下げて、自分の持ち場へ戻って行きました。

変なの、とおさきはいきなり名前を聞いてきた少し年上の少年を怪訝に思いながら、店を後にするのでした。

 家に帰ると、おはなはおさきの買ってきたかぼちゃのおやきを見て、愛おしそうに目を細めます。

「これはこうして、半分こにして、大切な人と食べるのがいいのですよ」

と言いながら、誰かを想像しているらしく、一人幸せそうにおやきを頬張っています。

おさきはさっき会ったばかりの藤七が何故か気になって、おやきを食べ終わると、もう一度あずき屋へと出かけました。店の中を覗くと、主人が一生懸命おやきをこしらえているところです。

はぁ、やっぱり仕事中でいないですよね。

おさきが諦めて家へ帰ろとした時、後ろから

「おさきちゃんだよね?どうしたの?」

と言って、藤七が現れました。

「あ、あの…おやきがとっても美味しかったので……すみません」

しどろもどろになりながら、おさきが言い訳していると、藤七はそんなおさきがおかしかったのか、にっこり微笑んで寄ってきました。

「そんなにうちのおやきが気に入ったの?」

「はい…こんなに美味しいおやき、初めてだったから」

おさきが恥ずかしそうに言うと、藤七は嬉しそうに相好を崩して、

「ありがとう!ちょっとここで待ってて」

と言って走って店の中へ入り、しばらくしてお皿にいくつも潰れたり破れたおやきを乗せて出てきました。

「これ、失敗作だから。良かったら食べてよ」

手のひらサイズのお皿に、かぼちゃに野沢菜に、小豆、そして珍しい切り干し大根のおやきが、所狭しとたっぷりのっています。

「いえ、そんな申し訳ないこと」

いくら失敗作でも、こんなにたくさん図々しく頂くことはできないとおさきが遠慮していると、藤七は大丈夫と力強く微笑み、おさきの手に強引にお皿を押し付けます。

「いいから、父ちゃんもおさきちゃんにって言ってるから。だから遠慮なく食べて行けよ」

「でも…」

「本当にいいから!遠慮なく食べてってば」

「いいんですか?じゃあ、ありがとうございます」

おさきは何度もお礼を言うと、遠慮なく藤七の好意に甘えることにしました。失敗作とは言え、どのおやきも絶品で、おさきは夢中になって頬張ります。

するとそんなおさきを嬉しそうに眺めながら、藤七はおさきにまるで尋問するみたいに、色々なことを根ほり葉ほり聞いてきました。

歳はいくつか?家はどこなの?何故このあずき屋へ来たのか?おさきが全て正直に答えると、今度は自分のことを話してきます。

「歳はおさきちゃんより三つ年上の十三歳で、家はここだよ。今は父ちゃんの下で修業中の身なんだ」

「そうなんですね」

おさきはどう返事をしたらいいのか困って、藤七の手を見ました。まだ幼さの残る顔とは裏腹に、手は毎日かぼちゃの皮剥きをしているせいか、ごつごつして、切り傷がいっぱいです。おやき屋の修行も大変なんですね、と思ったその時、奥から主人が藤七を呼ぶ声が聞こえてきました。

「やばい、そろそろ、仕事に戻らないとまた父ちゃんにどやされる。じゃあな、おさきちゃん。また来てね」

そう言うと、藤七は店の中へと戻って行きました。








いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話も続きますので、どうぞお付き合いください。

これからもよろしくお願いいたします!

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