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22将軍さまの逆襲1

いつもありがとうございます。

将軍さまこと、惣兵衛が、おみねさんに振られた逆襲に出ますが…。

まさか、被害はあね様こと、おさきに!!

どうぞお楽しみください。

 その夜、惣兵衛は眠れませんでした。

「くっそー、あのおなごめ、よくも某に恥をかかせてくれたな」

何度も思い出しては、惣兵衛は悔しさと悲しさに悶絶します。

ぱっちりした美しい瞳、艶やかな黒髪と透き通るような色白のうりざね顔、どっからどう見ても、まるでひな人形みたいに美しい女なのに、性格は男勝りで、よりによって武士たる某に向かって、「馬鹿」と言いおった。

いや、本当に馬鹿と言ったかどうかは忘れたけれど、馬鹿にした態度をしたことは間違いない、と惣兵衛は薄い唇を噛み締めます。

しかも、おなごの夫は殿様の信頼厚い家臣とのこと。

リストラ同然に故郷を追い出されて、食い詰め浪人になった惣兵衛とは、天と地ほども違う境遇です。

「おのれ…このまま引き下がる惣兵衛様ではないぞ」

と、惣兵衛は思案に思案を重ねて、あることを思いつきました。

実はこのところ、紅葉山村周辺では日照りが続いていて、今年は米はおろか、作物全般の出来が怪しいと専らの噂です。

そうだ、雨乞いと言えば、あれしかない。あの、可愛らしい方の娘はどうも曲者っぽくて苦手なので、素直そうなぽっちゃりした方を使わせてもらうか。

そう思いつくと、一人廃墟のような屋敷で、ふふふふ、と不気味な笑みを浮かべるのでした。


 翌日、惣兵衛は村の男達を集めて、早速雨乞いの提案をしました。男達は最初、惣兵衛の小汚い身なりに警戒していましたが、故郷では宮司をしていて、日照りを何とかできると話すと、皆ほいほいと着いてきました。惣兵衛は寺の境内に男達を集めると、胸を張って江戸の大将軍から密命を受けた家臣であるから、将軍さまと呼んでくれと、臆面もなく名乗ります。

「このままでは紅葉山村は今年は大凶作になり、皆食うに困ることになるだろう?そこで、故郷で宮司として雨乞いをしてきた某が、無料で皆さんのお役に立ちたいと思うわけなのだが、どうだろうか?」

すると男達は目を見開いて、

「本当でございますか?将軍さまがそうおっしゃるなら、是非、助けていただきたいです」

「そうだ、そうだ。よろしくお願いします。将軍さま」

と口々に言います。

そんな皆の反応を気分良く眺めながら、惣兵衛はゆっくり頷くと、

「承知した。では早速、今夜雨乞いを執り行うゆえ、雨が降るのを待っていてくだされ」

と自信満々に胸を張りました。


 その日も、いつも通りおさきとおきくは、寺子屋の帰りに惣兵衛のぼろ屋敷の前にいました。

「おきくちゃん、ここには行ってはいけないって、おみねさんに言われたでしょ?お寺に帰りましょ?」

と何度もおさきが説得したのですが、おきくは何がいいのか、あのぼろ雑巾みたいに小汚い惣兵衛の洗濯物が気に入ったらしく、

「いいえ、あね様。今日だけだから。最後に将軍さまのふんどしを眺めたら、明日からは行きませんから」

と言ってききません。

「あんなふんどし、何がいいの?全く…叱られても知らないんだから!」

はぁ、とため息をつくと、おさきはそっぽを向いて、おきくがふんどし観察に飽きるのを、ただひたすら待っていました。するといきなり右肩に鋭い衝撃が走り、目の前が真っ暗になります。

「やだ、あね様!!誰か、助けて!!!」

おきくの悲鳴のような声を遠くで聞きながら、おさきはがくんと気を失って倒れました。

 お寺の方へと助けを求めて走り出したおきくを確認すると、惣兵衛はおさきを担ぎ上げて、屋敷の中へと入ります。

「ふふふ、雨乞いには人柱が必要。ちょっとぽっちゃりしていて、美人とはいい難いが、あの女の姪であればそれで充分」

そう言うと、惣兵衛は勝ち誇ったように笑いながら、おさきを縄で縛りあげて、隣の部屋に寝かせるのでした。

 それからすぐ、おきくから話を聞いた寺の住職は、迎えに来たおみねとともに、惣兵衛の屋敷に乗り込んで来ました。しかし、雨乞いに人柱が必要と惣兵衛が言うと、住職は「それならば、いたしかたないかもしれぬな。おさきには可哀そうだが、村を救うと思って諦めておくれ」と言いました。

「馬鹿言うんじゃないわよ!絶対におさきちゃんを助けるんだから!」と息巻くおみねは、倉持屋へ帰ると、早速平次とおはなにこのことを話しました。

おはなは大切な一人娘のおさきが人柱として連れ去られたと知って、目の前が真っ暗になりました。

しかし、倒れている場合ではありません。

鬼の形相で起き上がると、すぐに惣兵衛の屋敷へ乗り込みに行くと言って、下駄を履きます。

「いや、落ち着いてください。おはなさん。このまま丸腰で乗り込んだら、おはなさんだって危ないかもしれない。ここはひとつ、私の策を聞いてください」

何とかおはなを止めた平次は、奉行所へ通報してから乗り込むことを提案します。

「聞けばただの食い詰め浪人か何かの、怪しい男でしょう?雨乞いなんて嘘で、おさきを気に入ったか、それとも何かうちに恨みがあるのか、どちらかに決まっていますよ。おみね、寺子屋の帰りに何か無かったか?」

「嘘!……まさか…私のせい?」

ふと、昨日惣兵衛をコケにしたことを思い出して、おみねは真っ青な顔になります。

もしそうだとしたら、何てクズなの?

怒り心頭のおみねは、颯爽と腕まくりすると、おはなを見ます。

「おはなちゃん、一緒におさきちゃんを助けに行きましょう。私がいれば大丈夫!」

「ええ、よろしくおみねちゃん」

おはなも不適な笑みを浮かべます。

「平次さん。私落ち着きました。その男、おみねちゃんと一緒に地獄へ叩き落してきます」

「おみねがいるから大丈夫だろうけど、気を付けて。私は奉行所へ通報してきます」

そう言うと、三人は下駄を履いて、それぞれの場所へと急ぎました。




 

いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

次話も続きますので、どうぞお付き合いください。

これからも、よろしくお願い致します!

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