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2和菓子ゆきの屋

こんにちは。

いよいよ火事と放蕩で潰れた鍛冶屋を後にしたおさきは、母おはなの実家の饅頭屋へ行きます。

おさきの年齢を15歳から12歳に変更します。すみません!

どうぞお楽しみください!

 和菓子ゆきの屋は、紅葉山村でたった一つの饅頭屋です。

夫婦でやっている小さな店ですが、主の佐助は城下町で修業をした腕の良い饅頭職人で、御代官様や町の料亭に出す和菓子を作り、手広く商いをしていました。

「ただいま帰りました」

鈴を転がすような声でおはなが言うと、おさきは元気よく敷居を跨ぎます。

「ばあちゃん!」

「おさきちゃん?!」

店番をしていたばあちゃんこと、おはるが顔を上げると、おさきはおはるの胸に飛び込みます。

「ばあちゃん、帰って来ました!」

「えっ?おはな…これはいったい、どいういうことなの?」

何が何だか分からず、首を傾げるおはるに、おはなは悠然と微笑みます。

「鍛冶屋が潰れたので、戻ってきました。母さん、また看板娘としてよろしく」

「えっ、よろしくって言ってもねぇ…いくらおはなでも、子連れの看板娘はねぇ…」

おはるが眉をしかめて困惑していると、外回りから帰って来た佐助が二人を見て、目を見開きます。

「おはな、これはいったい!!」

風呂敷包みと二人を交互に見て事情を察した佐助は、動揺を隠せません。

しかしおはなは、

「父さん、しばらくお世話になります」

そう言って風呂敷包みを持つと、にっこり微笑んで家の中へと入っていきました。

「じいちゃん、いつもの失敗饅頭、ありますか?」

昼ご飯を食べてすぐ鍛冶屋を飛び出してきたのに、おさきはもう腹ペコです。

すると佐助は、とりあえず二人の事情を勘ぐるのを止めて、おさきに微笑みます。

「ああ、あるよ。たんとお食べ」

「はい!ありがとうございます!!」

潰れたのや、曲がったのなど、何故か腕の良い職人のはずなのに、失敗饅頭を量産する佐助には、ちょっとした訳があるのですが、それは今は置いておいて、おさきはじいちゃんの失敗饅頭に目を輝かせます。

 失敗饅頭を頬張りながら、おさきは鍛冶屋の顛末を佐助とおはるに話しました。

すると二人は涙を流しながら、

「ならば仕方ない。おはなとおさきの命が助かっただけでも儲けものか。おはなは器用だから、髪結いの修行でもすれば、何とか親子二人食べて行けるだろう」

そう言うと、佐助は再び饅頭の入った箱を手に、配達に出かけて行きました。

 夕方、おさきはおはなと共に、懐かしいおやき屋さんへ行くことになりました。

どこに隠してあったのか、おはなは鍛冶屋で着ていた色褪せた着物から、顔によくうつる華やかな着物に着替えて、髪に一番良いかんざしを挿しています。形の良い唇には、嫁入りの時に持たせてもらった紅を薄っすら引いて、まるで紅葉山小町と言われた娘時代のようです。

「母さん、そんな綺麗な着物、どこにあったのですか?」

おさきが目を見開くと、おはなはにっこり微笑みます。

「これは大切な方との思い出の着物なのでね、鍛冶屋には持って行かずに実家にしまっておいたのです。今から行くお店で、もしかするとその方に逢えるかもしれませんから、おさきも一緒に行きますよ」

 大切な方っていったい誰?

おさきは一人ひとり、紅葉山村の人の顔を思い浮かべながら、おはなに着いて行くのでした。


 すっかり日が傾く頃、村のあちらこちらの店では、暖簾を片付けて店を閉める時間です。

しかし、おやきを売っているあずき屋は、夕暮れに毎日来るあるお客のために、まだ店を開けていました。幼い頃から病で寝込んだ時以外、一日欠かさずやって来るその客を待ちながら、ちらちらと店の外を見ていると、華やかな着物を着た女と、ぽっちゃりした年頃の娘の二人連れが、遠慮がちに店の中を覗いています。

おや?あの綺麗な女性はもしかして…?と主人が記憶を辿っていると、

「おじさん、お久しぶりです。まだ、よろしいですか?」

と、おはなが微笑みかけました。その笑顔を見た主人は、一瞬声を失う程びっくりして、

「まさか、おはなちゃん?!」

と、嬉しそうな顔になりました。

何が何だか分からないけれど、美味しそうな匂いが堪らないおさきも、「こんにちは」と言っておはなに続きます。

「いや、びっくりしたよ!まさか、おはなちゃんが来てくれるなんて!こちらは、娘さんかい?」

「はい、一人娘のおさきです」

紹介されておさきがぺこりと頭を下げると、主人は更に嬉しそうに相好を崩します。

「いやー、可愛い娘さんだこと。さあさあ、良かったら、おじさんのおやきを召し上がれ」

そう言うと、主人はねぎ味噌と小豆の入った熱々のおやき二つを皿に並べて、二人の前に出しました。

「そう言えば、あの方はまだ通って来ているのですか?」

おやきを美味しそうに頬張るおさきを尻目に、おはなは上品にお茶をすすりながら、主人を見ます。

「ああ、毎日来てくれているよ。おはなちゃんが嫁いだ後も、元気な時は一日欠かさず…もうそろそろ来る頃かな?」

「まあ」

主人の言葉を聞いて、おはなは少女のように頬を赤らめます。

おさきはそんな母の様子を見ながら、怪訝な顔をしました。

いったい、母さんにこんな顔をさせるのは、どこのどいつでしょう?母さんはもう母親だというのに、場合によっては、許すわけにはいきません。

すると店の暖簾をくぐり、背の高い男が入って来ました。

歳はおはなと同じくらいで、決して若いわけではありませんが、粋だけど嫌味じゃない、よく似合う着物を着こなし、二枚目の歌舞伎役者も真っ青の細面な色男です。

男は店に入ると、おはなの姿を見て目を見開きます。

「…おはなさん?」

その声に、おはなも茶碗を置いて顔を上げます。大きな瞳を潤ませて、紅を引いた口元をゆっくり開くと、

「平次さん」

と呟き立ち上がりました。














いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます!

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これからも基本隔日で続けていきますので、どうぞよろしくお願い致します。

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