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10おさきの味方、おみねさん2

倉持屋に嫁入りしたおはな。

幼馴染で最愛の夫、平次との子ども時代のエピソードです。

平次の妹、おみねさんも登場します。

どうぞお楽しみください。

 それは今から十五年くらい前のことです。

十一になったばかりのおはなは、店の届物をするために、おやきを売るあずき屋の前に立っていました。

赤い鼻緒の小さな下駄によく似合う着物を身に着け、緩いくせのある髪を結い上げて颯爽と歩くおはなは、その美貌から村の人々に「紅葉山小町」と言われていたことを既に知っていたので、時折感じる羨望の眼差しが当たり前のように、堂々と暖簾をくぐりました。

「ごめんくださいませ」

大人びた口調で店の中に声をかけると、ふと目の前に一人の少年が座っています。

年は同じくらい。細面で背の高い少年で、伏目がちの目から伸びる睫毛は長く、見たことの無い端正な顔立ちにおはなは思わず息を呑みます。

綺麗な人、どこの人のかしら?

少年の顔を見ながら、思案にくれていると、おやきを頬張っていたその少年も、おはなの視線を感じて、恥ずかしそうに目を逸らします。

「お!おはなちゃん。来てくれたのかい?」

店の奥へかぼちゃを取りに行っていた主人が戻って来ると、おはなは立ち上がって、ペコリと頭を下げました。

「おじさん、こんにちは。母さんから頼まれたお菓子、持って参りました」

「おや、ありがとう。重かったろうに、ご苦労さんだね。ちょうどいい、おはなちゃんも一服していきなさい」

主人はそう言うと、おやきの失敗作を四等分にしたものとお茶を、おはなのところへ運びます。一生懸命平静を装っておやきを頬張る美しい少年の横にわざと腰を下ろすと、おはなは主人が運んでくれたお茶とおやきを笑顔で受け取りました。

「ありがとうございます。頂きます」

そう言って上品に湯呑に口をつけながら、大きな目を動かして、少年をちらっと見ます。少年はそんなおはなに気づかないふりをしながら、美味しそうにかぼちゃのおやきを少しずつ口に運んでいます。

「あの、かぼちゃのおやき、好きなんですか?」

勇気を出して、おはなが声をかけると、少年はちょっとびっくりしたように目を見開いて、

「好きですよ。しょっちゅう通っています」

と答えます。するとおはなも嬉しそうに顔を綻ばせて、

「私も、かぼちゃのおやきが大好きです!しょっちゅう通っているなんて、羨ましいこと。お家が近いのですか?」

「はい、川沿いの倉持屋です。あなたも近くに住んでいるのですか?」

「私の家は直ぐ近くのゆきの屋という和菓子屋です。私も毎日、あずき屋さんに通おうかしら?」

「なら、私も毎日ここへ来ましょう。ここのかぼちゃのおやきは絶品ですから」

と、あっという間にかぼちゃのおやきをネタに、二人は意気投合してしまいました。そして、世間話をあれこれしながらすっかり仲良くなると、少年は恥ずかしそうに、

「私は平次と言います。あなたの名前はなんて言うのですか?」

とおはなに尋ねました。おはなは笑顔のまま頬を赤らめると、

「おはなです」

と、恥ずかしそうに答えました。


 それから毎日、平次とおはなはあずき屋で会うようになりました。時間は仕事がひと段落して、皆が一服する未の刻と決めました。二人はまだ子供で、毎日おやきを買うお金は持っていなかったので、おやきを一つ買って、半分こして食べました。お金は一日おきに、交代で払いました。

 そんなある日、いつものようにおはながあずき屋の前で待っていると、平次が同い年くらいの女の子を連れてやってきました。

「平次さん?」

おはなが怪訝に思って大きな目を見開くと、女の子はぺこりと頭を下げて、おはなに挨拶しました。

「はじめまして、私、おみねって言います。いつも兄さんと仲良くしてくれる、おはなさんですか?」

「はい、そうですけど」

おはなが答えると、おみねはニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべて、隣に立つ平次を肘でつつきます。

「兄さん、美人さんじゃない!兄さんも隅に置けないなぁ。ずっと夕刻になると、こっそり店を抜け出して嬉しそうに出かけていくから、どこへ行くのだろうと昨日後を着けたの。そしたら、綺麗なお姉さんと楽しそうにあずき屋に入っていくのを見たから、着いてきちゃった。ごめんなさい」

「というわけで、妹が着いて来ました。ごめんなさい、おはなさん」

申し訳なさそうに平次が謝るのを見て、おみねは怒ったように頬を膨らませます。

「馬鹿ね。二人の恋路を邪魔する程、私は野暮じゃありませんよ。もう二度と来ないから安心して。でも、兄さんがおはなさんを泣かしたら、その時はすぐやって来るから。いつでも言ってね、おはなさん!」

そう言うと、かぼちゃと小豆のおやきを一つずつ買って、おみねはさっさと帰っていきました。

どうやら平次の年子の妹らしく、雰囲気も何となく似ています。

「さ、おはなさん、今日は私の番ですね?いつものでいいですか?」

「はい」

おはなが頷くと、平次は懐からお金を出して、かぼちゃのおやきを二つ買いました。いつもは一つを半分こなのに、今日は一つずつなのにびっくりして、おはなは平次を見上げます。

「おはなさん、実は今日から若旦那として、倉持屋を任されることになりました」

「まあ、おめでとうございます」

おはなが笑顔になると、平次は真面目な顔でおはなを見つめます。

「で、今日は節目なので、おやきを奮発しました。私が若旦那として三年、ちゃんと倉持屋でやっていくことができたら、私のお嫁さんになってくれますか?」

そう言って、頭を下げる平次に、おはなは思わず涙ぐみます。

「いいんですか?私で」

「当たり前です。私のお嫁さんなって欲しい人は、おはなさんだけです」

「嬉しい!ありがとうございます」

おはなは、大きな目からぽろぽろ涙を流しながら、人目も憚らず、平次の胸に顔を埋めるのでした。















いつも本当にありがとうございます。

次話も続きますので、お楽しみください!

これからもどうぞ、よろしくお願い致します!

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