1あね様の家燃える!
お久しぶりです。
林真由美改め、日下真佑と申します。
本日から隔日連載(予定)です。
どうぞよろしくお願いします!.
時は寛政、平和な江戸の世を皆が謳歌していた頃。
とある田舎の村に、おさきという娘がおりました。
おさきは今年で十二歳。
ふっくらした顔と、愛らしい目、そして饅頭職人である祖父母に溺愛されて育ったことから、すっかりぷくぷくしたぽっちゃりお腹が魅力的な、それは可愛らしい娘に育ちました。
そんなおさきの母は、鍛冶屋の妻のおはな。
実家のある紅葉山村では、紅葉山小町と評判の美人で、幼馴染の米問屋の一人息子、平次と恋仲でしたが、とある事情から母親の「金があれば幸せ」と言った妄想により、無理矢理ここいらで一番の鍛冶屋の女房として、嫁がされてしまったのです。
その鍛冶屋は先代が殿様ご用達の名刀を打った立派な刀鍛冶だったことから、一代で財を成した成金です。
しかし、おはなの夫はクズで、仕事はするけれど、芸者遊びが止められない、放蕩息子でした。しかもそんな息子を甘やかす姑によって、おはなは苦労の絶えない、我慢に我慢を重ねた結婚生活を余儀なくされていました。
一人娘のおさきは、いつもクズ父や祖母の意地悪から最愛の母親を庇うことから、家族だけでなく、使用人からも意地悪をされる日々を過ごしていました。が、明るくてたくましいおさきには、そんな些細な意地悪は、ものの数ではありません。
意地悪を笑えるいたずらで跳ね返し、ストレス解消に、隣村にある母の実家のじいちゃんの饅頭の失敗作を食べまくり、元気で逞しく暮らしていました。
ところがある日、隆盛を極めて分不相応な贅沢な暮らしをしていたクズ父は、ならず者に騙されて、多額の借金をしてしまいました。
あっという間に傾く鍛冶屋の財政。
そして、家が潰れかけたのにまだ芸者遊びを止めないクズ父はついに拉致られ、そのままならず者に痛ぶられて、亡くなってしまいました。
目の中に入れても痛くない息子をを失った祖母は、従業員を全て解雇した挙句、一家心中を計画しました。計画を実行する日の昼、祖母は神妙な顔で言いました。
「今夜、屋敷に火を放つよ。これ以上先代の名に泥を塗るわけにはいかない。おはなもおさきも一緒に死んでくれるね?」
「…お母さん」
おはなはしおらしく悲しそうな顔をすると、そのまま両手で顔を覆って、台所の片付けを始めました。
「母さん?」
おさきが心配して顔を覗き込むと、おはなは一変、不適な笑みを浮かべました。
「誰が一家心中なんてするもんですか。馬鹿馬鹿しい!おさき、茶碗を片付けたら、買い物に行くふりをして逃げますよ」
小声で囁かれて、おさきもこっそり不適な笑みを浮かべます。
「分かりました。母さん、じゃあ荷物作って裏口に置いておきます」
「頼みましたよ」
おさきは頷くと、そっと台所を抜け出して、荷造りを始めました。
荷物と言っても僅かな着物と身の回りのものが少しの、質素なものです。
二人分の風呂敷包みを裏口の物置の中に隠すと、おさきは洗い物を済ませて買い物へ出かけるおはなを息を潜めて待ちます。すると台所から、
「最後の夕餉はお母さんに少しでも美味しいものを召し上がって頂きたくて…買い物へ行って参ります」
と上品で今にも泣き出しそうなおはなの声が聞こえてきました。祖母も「行っておいで」と珍しく優しい声で言いました。
普段着の着物のまま裏口へ来たおはなは、おさきと目を合わせると、荷物を持って一目散に鍛冶屋の家を後にしました。
その夜、鍛冶屋が業火に包まれたことは、言うまでもありません。
結局戻らなかったおさきとおはなを待つことなく、祖母は家屋敷もろとも炎に呑まれて、二度とおさき達に意地悪をすることはありませんでした。
燃え盛る鍛冶屋の屋敷はあっという間に火消しと野次馬に囲まれました。そんな野次馬のずっと遠くから、おさきはおはなとともに、燃え落ちる実家を冷ややかに見つめていました。
「散々、母さんや私をイジメた天罰です。ざまあです」
さて、おさきはおはなと共に、紅葉山村にあるおはなの実家、饅頭職人のじいちゃんの家に戻りました。
これからお話する物語は、そんなおさきが大胆にも可愛く、痛快な仲間達とともに過ごしていく、紅葉山村での物語です。
読んでくださいまして、本当にありがとうございます!
次話もどうぞ、お付き合いください!
これからもよろしくお願い致します。