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恋にならなかった恋についての出来事

作者: 森のウサ子

高校生になってすぐ、夏になる前に僕は恋をしていた。


それは部活の先輩だった。

高校時代の学年差は、どんなに先輩後輩の壁が低いフランクな部活動でも日本海溝より深くて富士山より高い。

2学年上で美しくて頭が良くて部長を務めるほど人望のあるあの人は、ハッキリ言って高嶺の花だ。


別に初恋じゃない。

中学生の頃だって、カノジョではないけど仲の良いガールフレンドくらいいたし。

しかし、どうにかして後輩以上に見てもらいたいと不器用にグルグルする僕の片思いに気づいた人がいた。

あの人の同期の先輩だ。


読書家で皮肉屋の彼女は、女子部員たちより僕らと距離が近かったから当然かもしれない。

ニヤリと笑って、

キミ、あの子のことが好きでしょ。同期の私から見ても高嶺の花だよね。ムリ目にいくねー。ま、頑張れ。

と言った先輩と、その日から何かと話す機会が増えた。


あの人が今読んでる本とか見てるドラマとか、あの人の誕生日は先輩の誕生日と一日違いだとか、そんな他愛もない話だったけれど、どれも後輩の僕では知ることができない情報で、ドキドキしながら聞いていた。

そんな話をする中で、僕のことや先輩自身のことを話したり聞いたりするうちにどんどん仲良くなった。


そんなある日、

「キミと話してると楽しいなあ。最近、図書館に行って本を選んでると、この本キミは読んだかな?どんな感想かな?って頭をよぎるんだよねー。

もし、キミがあの子を好きって知る前だったら、キミを好きになってたかもね。」

と、先輩が言った。


ハッとしてる僕を見ながら例のニヤリと笑った顔で

「ま、わたしは今、カレがいるし。キミにアタックしてるわけじゃないから気にすんなよ。

恋ってタイミングだからさ。おこらなかった恋について話しても不毛だよな」

と、付け加えた。


なんてことだ!

先輩にそう言われて、初めて僕はあの人ではなく先輩に恋をしている自分に気づいた。

恋に気づいた途端に失恋したのだった。


結局、当然ながら憧れていたあの人とどうなることもなく、皮肉屋の先輩とも何かあるわけもなく、彼女たちが卒業してから会う機会も無いまま中年になった。

あれから何十年も経って結婚もしたのに先輩の誕生日だけは忘れられず、毎年その日がくると心の中でそっとお祝いをしている。


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