その45
「青葉……」
「やっとそう呼んでくれた」
◇◇◇
あ、あれ、なんだ? 俺なんでこんなとこで寝てるんだ?? 体中が痛いし動かないしなんか長い夢見てたみたいだ。
酷く傷む頭を動かしながら辺りを確認する、辺りは真っ暗で俺の近くにはバイクとその近くには血が付いている電柱、バイクは壊れてるみたいだ。
なんでこんなことに? モヤが掛かる意識の中静かに考えていると思い出してきた。
宗方と斉藤がけんかした後病院に行って斉藤の家まで送って斉藤の奴騒ぐ両親に転んだとか嘘バレバレの言い訳して押し倒してその帰り道バイクでボーッと青葉のこと考えていたら電柱に突っ込んだんだっけ?
思い出すとズキっと下腹部が傷んだ。 くそ…… あの電柱なんでネジがあんな下に飛び出てんだよ? ぶつかった時に俺の腹に刺さったんだ。
よく目が覚めたな俺。 悪夢だったからか? 俺のことを恨んだ宗方にこれからされることなんだろうか? でも俺もう死にかけてるし残念だったな。 …… ごめんな宗方。
俺やっぱりお前の友達には相応しくなかったみたいだ、お前が考えてること思ってること、見えてるようで見えてなかった。 いいや、深く関わることが怖くてもうどうにもならない時に気付いて宗方と斉藤を傷つけ合わせてしまった。
ド田舎だったのが災いしてか周りは田んぼ、人通りもないこの時間帯に動けなくなるほどの事故を起こした。
これは罰が当たったかもな、こうなったのは全部俺のせい…… 俺の。
そんな時遠くから人影が見えた。 そいつは俺のことに気付いたみたいで走って来た。
なんだ…… 死ぬかと思ったのに助かっちゃうのか俺? 別にこのまま死んでもいいかなって思ってたのに。
「…… 君」
「??」
「世那君ッ!!」
「あ、青…… 葉??」
「ッ!! なんで…… なんで事故って死に掛けてんのよ!?」
宗方は俺を見て涙を流しながら慌てていた。 あいつ今帰ってる最中なのか?
「えっと、そうじゃない! きゅ、救急車ッ!!」
「お、おい……」
宗方の携帯を持つ腕を押さえた。
「世那君待ってて、今救急車呼ぶから」
「な…… んで?」
「え?」
そう聞く俺に宗方はキョトンとする。 俺は宗方にもう嫌われたと思っていた、そして宗方のことだからこんな俺を見つけてざまぁみろと嘲笑うかと。
「てっきり…… いい気味なんだと」
「…… 私もあんたのことに失望してそう思うと思ってたんだけど。 バカじゃないの世那君は! 今そんなこと言うとこ!?」
「はは、は…… お前にこうされるはずだったけど、こんなしっぺ返しくるなんてな、ごめん」
「私は出来なかった…… 凄く許せなかったのに今だってこんなに悲しい気持ちなのに出来るはずない! もう世那君は黙ってて」
宗方は病院に電話を掛け終わりまた慌て始めた。
どうしていいかわからないよな、俺も逆の立場ならそうなってるわ。
「青葉……」
「こんな時だけ名前で呼ばないでよ! やっと呼んでくれたと思ったら死に掛けなんて冗談じゃないわ、最後のお別れみたいじゃない」
「なあ、斉藤と仲良くしてやってくれないか?」
「今あいつのことなんて考えたくないッ! どうしてこんな時に……」
「こんな時だからだ、伝えられなくなったら後悔しそうだからさ」
「仲良くなんてなれるはずない、見たでしょ? 私あいつボコボコにした」
「ああ」
「だったらわかるでしょ、いくらあいつがバカでも無理だって」
「斉藤はあの怪我お前にやられたなんて病院でも両親にも言ってないんだ」
「え? …… バカじゃないの」
「だよな、バカみたいに優しい奴だ。 だからきっとお前でも仲良くなれる」
ヤバい、モヤが掛かってもう目の前の宗方も見えなくなってきた。
「青葉……」
「世那君!? 世那君ッ!!」
「あ、お…… は」
「わかった、わかったから死なないで!! しっかりして世那君!!」
俺の意識はそこでなくなった。 ああ、これもうダメだ。
◇◇◇
知らない天井…… あれ? これはベッド? 俺は死んでない?? 手が動く?
なんだ? 両手に感覚がと思ったら誰かに握られている。
「世那君!!」
「新庄君!!」
あれ、宗方と斉藤?? やっぱり俺生きてるんだな…… ってここ病院か!?
起き上がろうとしたがへにゃっと身体に力が入らなかった。
「ようやく目が覚めたみたいでよかったよ世那君」
横から聞き覚えのある声が聞こえたので顔を向けると橘さんだった、この高校入学に際して俺の担当になってくれた施設の人だ。
「橘さん、俺……」
「いいよそのままで。 それよりも彼女達にお礼を言っときなよ、しょっちゅう来てくれてたんだから」
「青葉、斉藤……」
2人に話し掛けようとすると宗方は泣きそうになるのを我慢していて斉藤はウルウルと涙を流していてなんて話し掛けたらいいかと思っていると……
「あんた1週間も寝てたのよバカ世那!!」
「良かった、本当に良かった新庄君」
「ありがとな2人とも」
1週間経ったとあって斉藤の顔の傷も大分良くなっているようだった。 2人でここに居るってことは仲直りしたのか?
俺のそんな考えを宗方が察したのか……
「勘違いしないでよ!! 別にこの子とはそこまで仲良くないわ」
「あ、あはは。 でもね新庄君、あの後宗方さんちゃんと私に」
「あーー! 言うなバカ!」
「ははは、そっか」
「楽しそうにやっているようだね世那君、僕も少し安心したよ」
俺らのそんなやり取りを見て橘さんは微笑ましそうにこちらを見ていた。
「あの…… 今回はご迷惑をお掛けして本当にすみません。 ここの入院代だってバイクのこととか高校のこと」
「いや気にすることはないよ、バイクで事故ったのはいただけないけど世那君以前はずっとつまらなそうにしていたからこうやってちゃんと笑うんだな楽しそうにしてるんだなってところを見れて良かったよ、後のことはこっちに任せてもらっていいからさ」
「………… ありがとうございます」
「ん、後はゆっくり療養してるといい、僕は友達? 彼女さんかな? 2人と話してるといいよ」
橘さんはそう言って病室を出て行った、すると斉藤が何か言いたげだった。
「新庄君そういうことだったんだね、なんとなくそんな感じはしてたんだけど聞いちゃいけないのかなって。 宗方さんもだけど」
「あー、そういうことだ。 そのうち言おうと思ってたんだけどな、悪い」
「ううん、新庄君がこうして無事なだけで十分」
「はッ! 出たよこのぶりっ子」
「違うよ私は真剣に新庄君のことが」
「ここまで来て喧嘩なんてするなよ、いててッ」
「するわけないじゃない、世那君が自責の念でまた死に掛けたら洒落になんないし」
「あのなぁ……」
それからもう1週間する頃には退院するまて俺は回復した。