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その39


「世那君、描いてた絵完成したんだね」

「そうだな」



ある日ようやく俺の絵は完成した、もうこんなのどうでもいいと思っていたけど完成すれば少し達成感みたいなのが湧くと思ったんだけど……



そして完成したことでふと気になった、今まで俺と一緒に描いていた宗方の絵を。 完成するまで微塵も気にならなかったのに。



「お前の絵は?」

「世那君さぁ……」

「ん?」

「今の今までちっとも私が描いてるもの気にならなかったくせに自分が終わったら思い出したように気になり出したの?」

「は?」

「ほーんとそうなんだよね、私ばっかり。 でも良いも悪いも含めてだもんね。 はいはい、わかってますよ」



宗方は淡々と喋る、んなこと言ったって…… その通りなんだが。



宗方はキャンバスを俺に向けた。 



「お前それって……」

「私の作品だよ?」



真っ暗だった、ただ真っ暗。 こいつはずっと俺と居る時筆を走らせていた時に全部黒で塗り重ねてたってのか? なんてな……



「私を何も見てない、少し観察すれば何描いてるんだってなるのに何も見てない。 あのビッチのことは見ているくせに」

「なんのことだよ?」

「世那君あの女は庇うよね、私が押した時だって物を落とした時だって。 それって気に掛けてるんだよね? 私のことはろくに見てないくせに友達のくせに」



宗方は自分のキャンバスを蹴り捨て俺の足元に転がった。



「それ…… 私の気持ち。 真っ暗だよ、友達なら私の気持ちを分かち合ってくれるんだよね?」

「何言って…… おい!」

「何よこれ、前から言いたかったけど世那君の寂しい気持ちを絵に表してみました的な?」



俺のキャンバスを取り上げ描いた絵を俺に向けて宗方は笑ってみせた、嘲笑するかのように。



「さすが世那君、自分のことしか考えてない。 他人のことなんて眼中なし、あのビッチも自分の正当化するためのオナニーなんでしょ!? あははッ」

「いい加減にしろよお前! 俺だってなッ」

「気付いてたんでしょ?」

「ッ!!」



そう気付いていた、こいつが真っ黒な絵をひたすら描いていることも。 来ていたのは俺と宗方だけ、そして宗方が描いてるものが目に入らないはずがなかった。



俺は宗方が少しおかしな奴だってわかっていた、わかってたのになあなあでここまで付き合ってエスカレートする斉藤へのヘイトにウンザリしてだんだんこいつが嫌になってきて……



なのに友達になんて慣れない響きで惑わされて。 俺はこいつに共感なんて出来ないしこいつだって斉藤だって俺なんかに共感出来るわけない、何が良いも悪いもだよ、お前なんだかんだでそんな俺にイラついてんだろ?



「そうだ」

「?」

「気付いてたよ、お前の絵をあえて知らんぷりしてたことも。 そんでもってお前が傷の舐め合いを求めてるってことにも」

「は?」

「お前も所詮ただ強がってるだけだろ? たまたま似た境遇の俺が居て友達ごっこして」

「あんたッ!!」

「いいから聞けよ、両親の写真見つけた時だって自分で捨てるのが嫌だからって俺に処分を頼んでさ」

「言うなッ!」

「笑えるよな? 結局お前もフラストレーションの捌け口を俺と斉藤にぶちかましてるだけの寂しい奴だってだけで下らないとか友達とかって」



その瞬間頭からバリッと俺の描いたキャンバスが叩き付けられた。



「言うなって言ってんだろ!!」

「うるせぇこの迷惑女ッ!!」

「私を…… 私をバカにするな! クズのくせに!!」

「そうだよクズだよ俺は。 ハッキリ言ってお前のことなんか知ったこっちゃない、お前だけじゃなくて斉藤も…… 友達なんて最初からいらなかったんだよ、俺に共感出来るのは俺だけだ。 なのに最近お前らのせいで自分が何したいのか何言ってるのかもわかんねぇ、お前ら俺を困らせたいのか!?」

「うるさいッ! うるさいうるさいうるさい!!」



ダメだ聞く耳持たない……



「あんたがあの女となかよくするならこうしてやる!」

「おまッ!? それどっから?」



宗方の手に握られていた物は彫刻刀だった。 こいつ俺を刺す気か?! だが宗方は自分の顔に彫刻刀を向ける。



「宗方?」

「これで私の顔に傷付けたら全部世那君のせいだからッ。 世那君は私の顔見るたびに後悔させてやる!!」

「やめろ! そんなことしてなんの意味が」

「やめさせたいならこっちに来て」



それで近付いたところをズブリ…… なんてことないよな? 俺は恐る恐る宗方に近付いた。 いつ彫刻刀を向けられても防げるように慎重に。



あと一歩と近付くと宗方は彫刻刀を落として俺の体に飛び付いた、そして宗方の額がゴチンと俺の唇に当たり唇が切れたような気がした。



「いっつッ…… お前何を」

「世那君…… 血が出てる」

「お前のせいだろ」



宗方の顔が俺を見上げる。 なんでこいつこのままくっついてるんだ? と思って離れようとしても宗方はガッチリ俺の背中に腕を回して離れようとしない。



「私を選んでくれたんだね」

「は?」



そう言われた瞬間宗方が俺に唇を重ねていた。



「なッ!? 宗方!」

「動かないで」



2人だけの美術室はさっきまでの言い合いが嘘のような静けさだった。





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