その30
宗方の家から持って来た写真を宗方に発見されてしまった。 俺自身そこに置いていたのを宗方がベッドの下を見るまで忘れていた。
「ねぇ、これ……」
「…………」
「なんでここにあるの?」
「いや、なんかストーブ運ぶ時に落ちてて後で返そうと思ってたんだけど」
「でも持って帰ってそのままだよね?」
「ああ……」
………… これは地雷だったか? そう思ったんだが。
「まぁいっか、世那君だし」
「怒ってないのか?」
「ちょっとビックリしたけど世那君は友達だしねー。 でも罰として世那君のこと聞かせてよ?」
「俺のこと?」
「そう、世那君が今までどんな風にしていたのかって。 生い立ちみたいな? これまでのお話、代わりに私のも教えてあげる」
「そんなんでいいのか、大して面白くないぞ?」
「大体はわかってる」
まぁそうだろうな、俺もこいつならいいかと今までのことを話し始めた。 俺は産まれながら親の顔を知らず赤ちゃんポストに放置されていたこと、施設で育って屈折した性格でろくに友達も出来なかったこと援助されて今こうして学校に通っていることなどだ。
「へぇ〜、親の顔を知らないか」
「そう、まぁだから親が居ないのなんて当然だし寂しいとも今更思わない」
「ふぅん」
こいつは途中から親が居なくなったんだっけな、それは少し堪えるかもな。 当たり前だったのが当たり前でなくなるのだから。
「私はね……」
宗方の両親は宗方が幼稚園児が終わり小学生に入学する直前に居なくなったそうだ、優しかった大好きな父親が仕事をリストラされ宗方の母親に当たるようになっていった、そして宗方にも。
宗方はそんな大好きだった父親に怒鳴られ怒られることに酷く恐怖を感じて時には暴力まで振るわれた、そのことが今でもトラウマなようだ。
ある日いつものより激しく暴力を振るわれた次の日の朝、宗方が母親の悲鳴で目を覚ました時、父親は居間で首を吊って死んでいたそうだ。
それから母親の様子がおかしくなり今度は宗方の母親から宗方は暴力を受けるようになった。 お前が居るせいでと母親は宗方に憎しみをぶつけるようになった。 それから程なくして母親は忽然と姿を消した、所謂蒸発だ。
その後宗方はしばらく母親の祖父母のもとで暮らし宗方自身の性格も歪んでいった。 ほぼ家出状態で帰ってくるのは夜遅く。 夜遊びしていたわけではなかったが公園や夜道をフラフラしていて警察に補導されることも少なくなかったという。
祖父母はそんな宗方でも孫なので可愛がってはいたが宗方は父親や母親のせいで祖父母のことも信用出来なくなって中学生の頃離れて暮らしたいと言い出した。
仕方なく宗方のために少し離れた田舎に借家を見つけたのでそこを借りた。 ざっくりと言えばこんな感じだ。
「そういうこと」
「そうだったのか」
「何か言うことは?」
「何か言って欲しいのか?」
「ううん、聞いてもらってちょっと満足。 世那君は?」
「まぁ俺もこんなこと誰かに話そうなんて思わなかったけどお前ならいいかって」
そう言うと宗方はニパッと弾けるような笑顔になった。
「ふふッ、もしや友達としての絆が強まっちゃったかな」
「はぁ? そういうもんなのか?」
「よくわかんないけどそういうもんなんじゃない? 秘密の共有〜!」
「どうでもいいけどお前何時まで居るんだよ? もう23時過ぎてんだろ、明日も学校あるっていうのに」
「まだ余裕じゃん」
「俺はとっとと寝たいんだ、俺の家にも来たしもういいだろ?」
「もぉー、友達とはいえ女の子が来てるのにその反応、男らしくないわねぇ」
「そこで男らしさ出したら友達じゃなくなるだろ」
「………… そうだね。 ただね、恵まれた奴が私のものを奪おうとするのは死ぬほど腹が立つ」
軽快に話していた宗方が少し遅れてそれに声のトーンが下がり不穏な返事をしたので携帯の時計の秒針を見ていた俺は宗方の顔を覗き込むと親指の爪をかじり目が座っていた。
「おい?」
「…… んッ!? 何?」
「いや別に。 てなわけで帰れよ」
「じゃあ送ってってよ?」
「言うと思った。 あ、じゃあこれ返すよ」
写真を宗方に渡すと宗方はグシャッと潰してゴミ箱に捨てた。
「いいのかよ?」
「あんま見たいもんじゃないしね、捨てといて」
宗方にとってもう両親は思い出したくないのだろうか? まぁだから捨てたんだろうけど。
宗方を送って帰ってきた後俺はゴミ箱に捨てられた写真を拾って押し入れに入れておいた。 両親の顔を知らない俺からしてみればそれは唯一の一緒に居たという事実であり捨てるなんてことはありえない。
宗方には今更寂しいなんて思わないと言った俺だが矛盾してるよな。