その28
「んッん〜ん♬」
「今日は随分機嫌が良いのね沙優奈」
「あ、舞おはよーッ」
「おはよーッてあんたそれ2回目だけど?」
「あれ、そうだっけ? 何かいいことあったぁ? 話しなさいよー!」
「んふふ、内緒!」
「友達に内緒事かぁー!?」
前の席の斉藤と藤岡がうるさい。 せっかく朝の仮眠の時間が……
「まったくこの男は朝起きて学校来てまた寝てるよ」
「いいじゃん、寝かせといてあげなよ」
「はい、ちょいちょーいッ!」
「木戸、何よ?」
俺が顔を突っ伏してるからよくわからんが木戸が割って入って来たようだ。 こいつ来ると更にうるさくなるんだよな。
「質問なんだけど」
「何さ?」
「斉藤って新庄といい感じなん?」
「え!?」
は? 何言い出してんだこのアホは。
「ち、違う! 違うよ!」
「いやだって最近いつも新庄と仲良さそうにしてるじゃん?」
「それは後ろの席だから話す頻度が多いだけで」
「それだけ?」
「それだけだよー」
ほれ見ろ、そりゃそうだろう。
「じゃあさ〜、斉藤が好きなのってどんなタイプよ?」
「わ、私のタイプ? え〜……」
「なんで木戸に沙優奈がそんなこと言わないといけないの?」
「いやぁだって斉藤結構可愛いし」
「口説いてんのかよそれで。 残念ながら沙優奈の友達としてあんたはタイプじゃないと思うわ」
「ひでぇー、じゃあ友達からスタートってことで」
「勝手に決めんなよ、沙優奈の友達の私
らにも許可取れよー?」
なんだ木戸は斉藤がタイプなのか。 まぁこのクラスで斉藤は結構顔がいい方だとは思う。
「そこ邪魔なんだけど?」
「お、おう……」
「おはよう宗方さん」
「…… はよ」
どうやら宗方が通ったらしい。 何故わざわざこんなところを通る? と思ったけど。
「ひょえ〜、相変わらずおっかねぇ目付き。 斉藤の挨拶にも冷徹な返事だし無愛想なのはそこの寝てる奴にそっくりだな。 宗方目付きが悪いだけで顔は美人だけど」
「うわぁー、結局顔で判断するのかよ。 サイテー」
まぁそれも学校ではだけどな。 結構喜怒哀楽…… 情緒が不安定かとこもあるけど。 本性はそんな冷徹なわけでもないのかもしんないし表情豊かだった。
「宗方みたいなのももし付き合ったら彼氏にデレデレとかなんでも尽くしちゃう〜みたいな感じだったりしてな?」
「あんたそういうのにデレデレされたい願望なんでしょ?」
「それもあるし斉藤みたいな女にデレデレされてみたくもある、な? 斉藤」
「私を強引にねじ込まないでよ。 でも好きな人にはデレちゃうかも」
「俺とか!?」
「…… ない」
「ガーーーンッ!!」
「あははッ、友達になる以前にフラれてやんの」
なんか下らねぇ…… おめでたい奴らだな。
「あ、でも今日は女子と男子で合同体育だったよな? 俺の運動神経の良さに惚れる奴続出じゃね!?」
「あー、運動できる奴はモテるって小中学生じゃあるまいし」
そういやそうだったな、まぁ俺には関係ないけど。
「あ、先生来た」
「新庄君先生来たよ?」
斉藤に机をコンコンと突かれた。 結局全然寝れなかった……
「おはよう」
「おはよ…… ってさっきも言った」
「ふふ、そうだね」
HRが終わって俺はトイレに行こうとして廊下に出ると斉藤達3人も廊下に出ていた、そこに先生が3人に話し掛けている。 山梨が手招きで俺を呼んだ。
「なんだよ?」
「これ先生に資料室に持って行ってくれって頼まれたの、沙優奈と一緒に行ってくれない?」
「なんだ、新庄が行ってくれるのか? お前が珍しいな」
「あ、いや俺は……」
余計な誘いしやがって、俺だってトイレに行こうとしてたのに。 まぁ教室から出たかっただけだが。
「いいよそんなの頼まなくて。 新庄君どこか行こうとしてたでしょ? 環奈達がついてくればいいから」
「いやいや男手があった方が助かるでしょ? てなわけで新庄君が居れば私ら不要だね!」
「じゃあ新庄頼んだぞー」
ドサっとなんかの資料を持たせられた。
「ふざけんな、くそ……」
「ごめんね、環奈のバカが余計なこと頼んで。 何か用事あったんじゃない?」
「あったけどな」
「そっか。 じゃあ私それ持って行くからいいよ?」
「教室から出てくって用事だ」
「え?」
斉藤はそれを聞くと目を丸くして小さくクスクスと笑った。
「なんかおかしいかよ?」
「う、ううん、ごめん。 新庄君らしいなぁって。 変な意味で笑ったんじゃないからね」
「もうどっちでもいいよ、さっさとこれ片付けようぜ」
資料室に行くとカビ臭いんだか埃っぽいんだか汚いな。 掃除くらいしとけよな。
「なんか埃っぽいね」
斉藤が資料を棚に置いた時上の棚にあった荷物がグラッと揺らぎ落ちそうになった、流石にあれ直撃したらヤバそうだと思った俺は斉藤の肩を掴んでこっちに引き寄せた。
「ひゃッ!? し、新庄君!?」
「あ、落ちなかったか」
「え?」
斉藤が俺の目線の先にある物に目をやる。 グラグラと揺れるカゴ、すんでのところでバランスを保っていた。
「あ、危ないねあれ……」
「ああ、落ちると思ったんだけどな」
「…………」
そのまま揺れる荷物に目をやっていると斉藤の肩を掴んでいる手に感触が。 俺の手に斉藤が手を重ねていた。
「悪い、痛かったか?」
「あ! え!? ええと、ううん全然!!」
何故か慌てた斉藤は棚にガンと背中をぶつけてあろうことか今度こそバランスを崩したカゴが大きく動いてヤバいと思った斉藤が腕を頭に回したところでカゴが落下し埃が舞った。