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マヒルちゃん大地に立つ スーパーヒロインは恥ずかしい

作者: 絶滅種

初めての短編作品です。ものは試しで書いているので短期後悔・・・いや公開しています。気が向けば第2話を書くかも知れません。


夏の日差しがまだ残り、うだるような暑さが残る八月の終わり。微かに秋の気配が漂い始めてはいるが、台風は来襲するし入道雲はもくもくと空に掛かっている。アブラゼミは相変わらずシャワシャワと辺りに鳴き声を響かせている夏のある日の夕方4時。


街の中央街公園に面した古い二階建てビル、ドレミ銀行浜田山南支店はパトカーと警察官そして野次馬に十重二十重と囲まれて騒然としていた。


「犯人に告ぐ!大人しく武器を捨てて出てきなさい。人質を解放しなさい!君達の御両親も泣いているぞ!」


拡声器を構えた背広の警官が、パトカーの蔭からドレミ銀行に向かって呼び掛けるが、犯人からの反応は無かった。


「聞いているか?人質を解放して・・・」

「うるせえ!」


銀行の正面ドアが僅かに開くと銃身が突き出された。


「待避ぃ!」


忽ちばらまかれた弾丸はパトカーや辺りの店舗の硝子を砕き、野次馬達に悲鳴を上げさせた。テレビ中継のレポーターが興奮して何やらカメラに向かって喚き、警官に怒鳴られる。銃声が辺りに再び響き渡りレポーターは慌ててしゃがみ込む。


報道と警察のヘリコプターか飛び交うその遥か上空に巨大な卵のような奇妙な物体が浮かんでいた。表面は周りの風景を写し、一見すると何も無い様に見える。光学迷彩を纏った一人乗りドローン『スカイ・エッグワン』である。その卵の中身は一人の少女であった。

その様子を観ていた少女は、インカムでモニターしている相手に連絡を取る。


「叔父様、どうしましょ、やっぱりやめませんか。銀行強盗止めるなんて、警察のお仕事ですよ」

『いや、どうやら人質もいるみたいだし、早めに解決したほうが街の平和に貢献できると思うんだけどね~』

「本音は何なんですの?」

『面白いし愉しいから』

「面白いだけで姪っ子を学校から拉致しますか!」

『その言い方誤解されるから止めて』

「私、帰って良いですか」

『この事件を安全に解決するにはマヒルちゃんしか出来ないと思うんだけど』

「私に何のメリットが」

『銀座○○亭のケーキ三点セット』

「赤坂の▲▲▲屋のロシアンケーキもお願いします」

『・・・善処しよう。それ、前日から並ばないと買えない奴だよね』

「お・ね・が・い・し・ま・す」

『・・・わかった』


ふうっと溜め息を付いて下界をみおろす。


「はなはだ不本意なんですが・・・」

『うん、飛び降りても大丈夫!』

「何が“大丈夫!”なんですか!普通死にますよ!」

『死なないから、躯にかかるショックは全部吸収分散するし』

「やっぱり、あの時パラシュート無しで突き落とされてから何となく分かってました」

『バンジージャンプと同じだよ、いや、もっと安全かな?』

「それ、絶対嘘です」


少し高度を落とす。


報道のヘリコプターがドローンを掠めていくが気が付かない。光学迷彩を纏うドローンは視認されなかった。『スカイエッグ・ワン』の自動操縦AIが巧みに衝突を回避していく。


マヒルはガルウイングとなっている前部ドアを開くと十メートルほどの高度から意を決して飛び降りた。凄まじい勢いで見事に銀行の屋上に突き刺さる。本来はきれいに着地するつもりだったのだが、間違って激突した。衝撃で爆音が轟き、ドレミ銀行浜田山南支店の天井は直径一メートルの穴を開けて崩れ落ちた。盛大ながれきを作った元凶である少女は、エントランスホールのカウンター前で頭を抱えて蹲った。ショートカットの髪の毛に積もった埃をバタバタと叩いて落としながら、悲鳴を上げていた。


「しまったぁ!壊しちゃったぁ!叔父様の馬鹿ぁ!」


しかもその少女の姿は殆ど裸に見えた。見事なまでの裸女である。もとい、痴女である。(作者注釈)見事なまでのパッツンパッツンである。マスクに隠れているとはいえ、ほっぺたは真っ赤っか。躯のラインのみならず、大事な部分まで透き通る気がして荒弥田(アラミタ)摩緋琉(マヒル) 12歳 中一はがっくりと崩れ落ちた。尤も、身体のサイズはまだ“ぺったん”である。作者が後で鉄パイプでぶん殴られるぐらいの“つるつるぺったん”である。思春期の嵐はこれからの、未来有る少女である。


「あ~、なんだ。おまえ大丈夫か?」


眼出帽を被った銀行強盗その一は、AK47アサルトをマヒルに向けた。唖然として穴のあいた天井を見上げ、うずくまったマヒルに声を掛ける。


「ええ、大丈夫です。ちょっと精神にショックを受けただけですので」

「そうか、痴女は大変だな!」

「違います!痴女じゃありません!ぶっ飛ばしますよ!」


マヒルは思わず立ち上がって胸と股間を隠した。


「なに二人で漫才やってる」


カウンターの陰に隠れて見えなかった銀行強盗その二が、立ち上がって声を荒げた。人質の銀行員を丁度縛り上げたところだった。天井崩壊とバカなせりふを吐いた銀行強盗その一に気が付いて慌てる。マヒルに自動小銃を突きつけると怒鳴った。


「手を挙げて跪け!」

「そんな事したら、恥ずかしいじゃないですか!」


マヒルは盛大に逆らった。乙女の危機である。


「何を言ってやがる!痴女ならばそれらしくしやがれ」

「こんな格好しているけど違いますから!」


ますます真っ赤になって怒鳴る。ほぼ涙目である。だか、銀行強盗の二人が彼女を痴女と言うのも致し方ない。ほとんど裸に見えそうな姿だからだ。肌色に近い真珠色で、テカる姿は体中にローションを塗りたくったように思える。ショートヘアーに銀色のヘアバンド。銀色の首輪(リング)は真ん中にエメラルド色のラインが光っている。耳には特徴的なヘッドフォン。目の周りには黒に近い真珠色のマスクをしている。背はまだ低く135cmである。実は、マヒルの躯はミクロン単位のナノマシンによって全身覆われている。云わば、ミクロン単位で構成された防弾着と宇宙服を何重にも重ね着している状態の様なもの。しかも光が透けている。全裸とあまり変わらないが、本質的には肌は見えていない。光をナノマシン複合材が体表面で乱反射しているために、そう見えるのだ。


「け○こう仮面か?」

「違います!永○豪先生に謝って下さい!」



銀行強盗その二が怒鳴った。


「漫才は良いからさっさと跪け」


マヒルは腰に手を当てて無い胸を張る、ちょっと痛々しい。


「実は銀行強盗を止めにきたのですが」


銀行強盗その二は目を剥いた、こいつ何を言いやがる。


「ぐだぐだ言ってないで跪け!」


銀行強盗その一がちゃちゃを入れる。


「じゃあまぼろ○パンテ○」


益々涙目になったマヒルが嘆いた。


「話を聞いてくださ~い!」


銀行強盗その一はそっとマヒルの胸から目を逸らす。


「つるぺたは◯っこう仮面じゃないぞ」

「◯井豪先生から離れて頂けないでしょうか」

「そう言えば、お前の歳で何故けっこう◯面を知っているんだ」

「話を聞いてくださ~い!!」


銀行強盗その二がだんだん激高し始めた。


「うるさい!黙って跪け!」


マヒルはぼそぼそと呟き始めた。いい訳らしい。


「何故か家の書棚に全集が揃っていて・・・」

「ロ◯コン大喜びだな」


うんうんと頷く銀行強盗その一。

その様子を見て銀行強盗その二は益々激高する。おそらくマスクの下の顔面は真っ赤になっているに違いない。


「黙って跪け!殺すぞ!」

「◯リコンって何ですか」

「知識偏っているなぁ、ナヴォコフ知らないか」

「ハンバートなんか知りません!」

「跪けぇ、もう二度は言わねぇ!」

「知ってんじゃねーか!」

「何故か家の書棚に全集が揃っていてって、何言わせんですか!ロリ○ンってなんだと思っているんです?」

「裸でうろうろする幼女に、懸想する紳士の事だ」

「そもそも私、裸じゃ有りません!違うって言ってるのに」

「黙れぇ!」


激昂した銀行強盗その二が思わず銃を振り回した瞬間、間違って引き金を引いた。暴発した弾丸はマヒルの頭部に直撃し、凄まじい音を立てて天井に突き刺さった。銀行強盗その二は呆然としてその光景を眺めていた。血の気が引いて銃を取り落としてしまう。意外と銀行強盗その二は良い人であった。勢いで銀行強盗をしているが、人殺しまでして金を奪おうとはこれっぽっちも思っていない良い人であった。何が良い人なのか良くわからないが。


「あ、痛くない」


マヒルは無事であった。彼女のまとっているナノマシンスキンは、外部からの急激な衝撃を外側にはじき返す機能を持つ。ナノマシンを破壊できるエネルギーは、核爆発でも足りない。放射能すら防いでしまう。中性子もどんとこいである。このナノマシンスキンはオーバーテクノロジーの化け物だった。唯一の致命的欠点は別にある。


「無事なのか・・」


へなへなと腰砕けに膝をつく銀行強盗その二。


「あ、ひざまずいちゃった」


余分な突っ込みをする銀行強盗その一。既にやる気は喪失している。


「ちょうど良いから大人しくして下さいね」


マヒルが左手で胸を隠しながら右手に握ったワイヤーを放り投げる。某スパイダーウエッブの要領である。ナノマシンの一部から作られたワイヤーは、器用に銀行強盗達を亀甲縛りで縛り上げた。何故亀甲縛りなのかは謎である。マヒルはカウンターの後ろに回る。7名の銀行員が縛られていた。ロープと口に貼られたガムテープを外す。


「皆さんご無事ですか」

「ありがとう、まぼ◯しパ◯ティ」

「お願いだから永◯豪先生から離れて」


がっくりと肩を落とす。もうぐだぐだである。やる気がだだ漏れで、何時帰ろうか考え始めていた。


『銀行強盗二人捕まえたから良いよね』

「支店長は?」

「えっ?」

「銀行強盗は三人だ」


若い銀行員がマヒルの身体から目をそらせながら声をかける。恥ずかしそうである。だが恥ずかしいのはマヒルの方なのだ。年配の銀行員が怒鳴った。


「金庫室だ!」

「何処ですか、そこ」


若い女性銀行員が答えた。


「この銀行の地下です」

「不味いかな?」


立ち上がって呟く。


「警察だぁ!」

「大人しくしろ!」

「人質は無事か?」


警察が駆け込んできた。どうやら密かにモニターしていたらしい。そう言えばさっきも超小型ドローンが犯人達に気づかれないように飛んでいたことを思い出したマヒルだった。当然ながら自分は自動的に電子ステルス能力を発揮してモニターから自分の姿だけ“消して”いた。


「今頃来てどうするんですか」


溜め息を付いて落ち込むマヒル。だか、初めて警察はマヒルの姿を見て愕然とする。


「痴女だ!」

「痴女が居る!」

「違うって言ってるのにー」

「痴女止まれぇ」

「手を上げろ」

「いやですぅ」


突入してきた五人の警官を横目に、銀行ホール後方にある階段室に急ぐ。飛び交うスタンガンは巧みに避けた。回転拳銃は発射されなかった。銃撃戦に発展したら警察署内で始末書もの、それとも暴発を怖れたか。


「あの痴女を捕まえろ」

「猥褻物陳列罪で逮捕だ」


それだけは絶対いやだったのでひたすら逃げる。床を蹴ると壁に足を着け壁走りを披露した。昭和三十年代に作られた古い銀行なので色々な部分が大仰に作られている。階段室に続くドアはかなり頑丈な作りだったが難なく蹴破る。破壊行為その二である。賠償金等を考えていたら、スーパーヒロインはやってられないのだ。地下室に続く階段を駆け下りる。そこには銀行強盗その三が待ち構えているはずだった。薄暗い廊下を抜けると突き当たりに格子状のドアがあった。マヒルは其れを掴むと力任せにこじ開けた。まるでゴムのように鋼鉄の格子が曲がる。通り抜けると通路は右に曲がりその正面に巨大な金庫があらわれた。営業時間中には開いているはずの金庫室が今は閉まっている。時間が来て自動的に閉まったのか、それとも。マヒルが頭を捻っていると、中からかすかに銃声が聞こえた。マヒルのヘッドフォンが金庫室内部の音声を拾い、拡大して伝えてきた。


「助けてくれぇ、死にたくない!酸素が足りなくなる!」

「馬鹿野郎!閉めやがって!俺たちを殺すつもりか」


どうやら間違って金庫ドアを閉めてしまったらしい。銀行強盗その三と銀行の支店長の二人は、閉じ込められてパニック状態の様だ。慌てて金庫扉を蹴破ろうとするが、さすがにびくともしなかった。一メートル近い厚みの鋼鉄で整形された金庫扉は、簡単にはこじ開けられない。プラズマトーチを使えば開けられるかも知れないが、時間も安全性も担保できない。


「ど、どうしよう!叔父様どうしましょう!」


頭を抱えたマヒルは彼女をモニターしているはずの”叔父様”に助けを求めた。


『あ~どうしようかねぇ』


脳天気な声がヘッドフォンから響く。


「人ごとのように呟かないで下さい!元はと言えば叔父様の我儘(シュミ)から始まった事ですよ」

『あはは、マヒルちゃんは厳しいねぇ』

「この金庫室開けないと死んじゃいそうです」

『とても古い金庫だけど、一応ドレミ銀行本店のネットワークと繋がっていそうだね。ハッキングして鍵が外れるかやってみよう。其れよりナノマシンスキンの具合はどうかな』

「もの凄く恥ずかしいです。もう2度と着ません」

『そう言わず頼むよ。検証レポートが必要なんだ』

「断固・オ・コ・ト・ワ・リ・します」

『困ったな。おっ、開いたよ』


金庫室のロックが外れる音がして、丸いハンドルが回り出した。金庫室のドアがゆっくりと開くと内部に空気が吸い込まれる音がする。


「助かったのか?」

「おお、開いていく、良かったぁ!神よー」


涙でぐちゃぐちゃになった白髪の支店長らしき人物が両手を挙げて祈りを捧げている。イ◯ラ◯教徒か。マヒルが頭を捻っていると拳銃(グロック17)を握っている目出し帽の男が銃口を向けた。懲りない面々その三である。


「痴女?痴女か!◯ぼろしパンティだな」

「だから永井◯先生から離れて下さいとあれほど」

「そんな話は聞いていない」


一階ホールの会話がここで聞こえるわけも無かった。

銀行強盗その三は金庫の奥からボストンバック状のキャンバス地の鞄を蹴り出してくる。かなり重たそうである。


「黙ってこの鞄を担げ!早くしろ」


支店長の頭にグロック17を突きつける。


「あ~はいはい」

「私もですか」

「支店長だろうが関係ない。死にたくなければ担げ」


債券と札束が詰まったキャンバス地の鞄を支店長に渡す。五キロ近くある鞄を両手で担ぎ上げた支店長が呻き声を上げた。


「腰が!」


ぎっくり腰を再発したらしい、脆弱なことである。ばったりと倒れ、腰に手をやると盛大に呻いた。


「おい!代わりにおまえが担げ」


マヒルは片手で鞄を軽く持ち上げると小首をかしげた。


「たったこれだけ?」

「これだけで悪かったな!今時現金取引は少ないんだ」


支店長が怒鳴が、真実は単純に経営不振で、三ヶ月後には隣町の支店と合併するのだが、其れはまた別の話。


「今時でしたら、コンビニのバイトでもこれぐらい稼げそうですが」


マヒルが良く買い物しているコンビニの時給は950円。大人ならそれなりに稼げそうに思える。マヒルがジトメで銀行強盗その三を見た。


「銀行強盗は男のロマンだ!」


言い切る銀行強盗その三。ドヤ顔である。


「大抵捕まるか、怪我をして死んじゃったりしてしまいますが?」


先日テレビで放送していたミステリー番組の顛末を思い出す。確か犯人の両親が喚ばれて、恥ずかしいやり取りを描いていたなと、ぼんやりと思い出す。ろくなもんじゃなかいと頭を振る。


「俺は絶対捕まらない!」


遅ればせながらマヒルは銀行強盗その三がバイト出来ない原因に思い当たる。典型的自己中、つまり中二病だ。嘆息してマヒルは天井を見上げた。


「銀行強盗さん、既に上には警察が来ていますが」

「人質がいるから大丈夫だ」

「楽観的ですね」

「痴女!お前いったい何者だ」

「最近スーパーヒロインやらせてもらってます」

「はぁ?」

「訳がわからないのは私も同じです。何でこんな格好しなくちゃいけないんだか」

「そうだな、恥ずかしくないのか」

「恥ずかしいです!もの凄く!なんとかして欲しいです」

「俺に言われても困るが、まあ頑張れ」

「頑張ります」


意外な人からエールを送られてガッツポーズするマヒル、単純である。


「早くロビーにでるぞ、鞄を持って来い!」

「はいはい、でも無理だと思いますが、お巡りさん達来てますよ」

「何っ!」


マヒルのセンサーには既に地下に降りてくる警官達の足音が聞こえていた。熱感知センサーにもその影が映っている。廊下を曲がるとすぐに警察官とぶつかる事になる。


「おい!女!」

「それセクシャルハラスメントに抵触しますよ」

「銀行強盗にそれを言うか」

「いけませんか?」


マヒルの頭にグロック17の銃口がねじ込まれる。


「黙って言う事を聞け。スーパーヒロインと言うなら警官を蹂躙しろ。しなければ支店長を殺すぞ」

「困りましたね、其れはとてもイヤです」


男の顔を真っ直ぐ見てマヒルは答える。


「投降して下さい。今ならまだ間に合います」

「ふざけるな餓鬼が!」


銃口をマヒルの顔に突きつける。


「死にたいようだな」


銀行強盗その三は品の無い笑いを唇に浮かべて凄む。マヒルは男に向かって静かに言い放つ。


「お断りします」


次の瞬間、男の躯は二メートル近く飛ばされた。壁に叩きつけられ、脳震盪を起こして崩れ落ちる。マヒルの右手にはひしゃげたグロックが、左手は掌底の形を取り、残心している。一瞬にしてマヒルは銀行強盗その三を無力化した。ナノマシンスキンの能力がもたらす力だった。支店長は腰砕けに座り込み唖然とした表情で二人の姿を見ていた。


「手を上げろ」


その時、警察官が飛び込んできた。


「大人しく縛に就け」

「支店長!大丈夫ですか?」


マヒルは警察官に見つからないように逃げ出す事にする。ナノマシンスキンの表面を保護色化し、ファンデルワールス力を利用して天井に張り付く。古い銀行は天井も高く薄暗いので視覚外に簡単に逃げ出せた。なだれ込んできた警察官の目に飛び込んだ景色は、倒れている銀行強盗と唖然として座り込んでいた支店長の姿だった。


「何があった」

「それが、何が何だか、小学生みたいな痴女が助けてくれたのですが・・・」

「小学生痴女?」


『それ、違いますから。そもそも中学生ですから』


地獄耳のマヒルは涙目で脱出する。恥ずかしくて顔は真っ赤である。誰も観ていないのが幸いであった。銀行周りを包囲しているパトカー群を抜け、路地裏に出た時、“叔父様”から声が掛かった。


『マヒルちゃん、大変申し訳ないんだけれど』

「何ですか!逃げるのに大変なんですけど」

『あと三十秒でバッテリーが切れる』

「それって・・・」

『ナノマシンスキンの活動限界でスキンがバラバラになる、痴女確定だね!』


ナノマシンスキンの致命的欠点とは電源喪失による活動限界の事である。スーパーヒロインは三十分で問題を解決しなければならない。ウル○ラマンよりは十倍動けるのだが、ワ○ダーウーマンには負けるのだ。


「いやぁ~!」


路地に不幸な少女(マヒル)の悲鳴が響いた。


・・・・


宇宙科学未来研究所という怪しいロゴが付いた真っ赤な色のアメ(ダッジラム)がマヒルを拾ったのはその一分後であった。直後、派手な平手打ちの音が路地に鳴り響いた。


「叔父様の馬鹿ぁ!!!!!!」


ナノマシンスキンの効力が切れていて幸いだった。でなければ叔父の首が無事ではなかっただろう。


こうしてマヒルの初めての出動は幕を下ろした。


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