屑病
あるところに、どうしようもない男がいたらしい。
酒を飲むわ、煙草を吸うわ、女好きだわで、ろくでもない男だったらしい。
ある日、彼の友人は彼に言った。
「クリフ、お前は狂ってるんだ。医者は看てもらえ」
あんまりな言い様だったが、明け透けなその言葉は紛れもない事実だったので、男は頷いておとなしく病院へ向かった。
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「朗報ですよ、クリフさん。あなたの病気は発見が早かったので、ちょいと手術すれば治ります」
医者によると、男の病は”屑病”と言うらしい。
数百年前は病だとすら思われていなかった病だが、最近では一日の入院と手術だけで治るようになったと言う。
だが。
「後遺症が残るので、寿命が半分くらい縮むかも知れません。すると、あんたの寿命はせいぜい百年ポッキリだ」
この世界ではどうやら、人が百年二百年生きるなど当たり前のことらしい。そのせいで人々は暇を持て余して度々、屑病等になると言う。
「ついてますねぇ、あんたは。痴呆やらになってまでも生に縋る人間の多い今の世の中、早く死ぬチャンスが得られたことは幸運に違いない。いやぁ、羨ましいな」
目を合わせずに言う医者は、例え真実を述べていたのだとしても胡散臭く見える。
男は、きっとこの医者は家族に面倒をかけてでも自分の人生を長らえるのだろうな、と頭の片隅で考えた。
「で、どうします、クリフさん。手術の日程は、いつが都合が良いですかな?」
「いいや。手術はしない」
「!!」
屑病は、疾患であり疾患ではない。
何せ死に至る訳でも、不自由な訳でもない。
むしろ生きる本人としては、楽しく生きられるボーナスタイムとでも言えるだろう。
勿論周りの迷惑を省みなければ、の話だが。
「………良いのですかな?」
「ああ。寿命を半分も減らせるか。俺は俺の為だけに生きてるんだ。他の奴だってそうだろう」
「…クリフさん。では何故、世の中は成り立つんだい?」
「簡単だ。みんな演技してるんだ。みてろ、そのうち全員演技しか出来なくなるぞ。俺は真っ平御免だがな」
ハハハッ、と笑い捨てて男は去っていった。
その数年後、男は恋人の一人に刺されて死んだと言う。
ありがとうございました。