忠心宮1
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他の地域の人間には到底信じてもらえないだろうが、というか鼻で笑われるだろうが、俺達の住む忠心宮にはモンスターが出現する。
俺が長年ハマってるゲーム、IOの中での話ではない。
というか、IOに出てくるモンスターはもっとファンシーでファンタジーで、清涼感のあるというか……。ゲームらしいモンスターだ。
中心宮に出現するモンスターは、そういう可愛いモンじゃあない。
水回り……排水溝とかマンホールとか、そういう場所から這い出てくる奴らは、形としてはスライム。時を追うごとに強く固くなっていくが、基本形はソレだ。
色は……黒と透明と水色と緑を合わせたような、形容しがたい色。
で、こいつらはやっぱり害だ。
倒したところでどこぞから謝礼金が出たり、こいつら自身からアイテムがドロップしたり、などという事は全くなくて、でも害だから倒さなきゃいけない。雪かきみたいなもんだ。
生まれたてのモンスターは主婦でも新聞紙でぺしっとやれば殺せるので問題ないのだが、少々強くなってしまったモンスターは自衛隊や民間人の闘える奴が出張る必要がある。
一応、恥ずかしい話だが、そういう戦える奴をハンターと呼称していて。
俺こと、米沢真明は、A級などと呼ばれるくらいの知名度を誇っている。ちなみにこの格付けは同じハンター仲間から受けているだけで、明確な区別は無い。
あ、イリュオンでは†暗黒のガチタンク†のアバターを使っている。見かけたら声かけてくれよな。
なお、モンスターが他の地域に逃げる事は無い。
夢金から派遣された呪術師とかいう胡散臭い奴が結界を貼り、出ないようにしてくれているのだとか。
さて。
ハンターには忠心宮全体の水路マップが支給されている。空間投影型のARマップなので水場もばっちりだ。
そんなマップに、ピコンピコンと光る赤点が一つ。
民間人が緊急用――モンスターに襲われた時――に発信する防犯ブザービーコンの反応だ。
俺が行かなくても誰かが行ってくれる、なんて考える奴はハナからハンターになんかならない。
だから、急いでその現場に急行した。
「救援かッ!? 助かる!」
その場では既に戦闘が始まっていた。
7mは優に超えるだろうスライムと、直剣を持った青年が戦っている。腰には棍棒、ナックル。
青年の陰には頭を抱えて縮こまる少女。
「オラァ!!」
背負っていた、身長の1.5倍ある大盾でスライムに体当たりをかます。
ゲームでもリアルでも俺はタンクだ!
「ここは任せろ! 何日だって足止めしてやるから、その子を家に送ってこい!」
「ッ、わかった! 死ぬなよ、見知らぬ人!」
背後で少女を抱きかかえる青年。タンクは後方確認も大事だからな。盾の内側に鏡が付いているんだ。
青年と少女が完全に離脱した事を確認し、深く息を吸う。
「今日のインは無理かね……!」
考えるのは今の己の命ではなく、ゲームにログインできるかどうかである――!
その後、戻ってきた青年によっていとも簡単に、サクッとモンスターは倒された。
普通はもっと時間がかかるはずなんだが……。
「いや、助かった。あの子を守りながらだとどうも思う様に動けなくてさ。あ、自己紹介がまだだったな。
俺は小見沢淳。わかってると思うけど、ハンターだ」
「倒したのはアンタだからお互い様だが……ん? 小見沢? ……S級の、【鬼神】の……?」
「【】をわざわざ言うな! 恥ずかしいんだから!
で、アンタは!?」
そりゃあ強いわけだ。
【鬼神】……一部ネットの奴らがハンターに対して面白十割で付けている二つ名の中でも、とくに有名な名前。
名前も住所も完全に特定されているが、強すぎるのと性格が良すぎる事もあってファンレターやお礼こそ届けど、悪戯なんかはされない伝説のハンター。
それがこんな若い奴だったとは……。
「俺は米原真明。盾使って長いんだ。火力は無いが、防衛戦なら得意だぜ」
「へぇ! 米原真明って言えば、A級の†輝く堅牢†じゃないか!」
「ヤメロォ! ††を口に出すな!」
……どうやら同じ苦労をしているらしい。
傷の抉り合いはやめよう。
「……って、もうそろそろ七時か! やべっ!」
「どうした?」
「俺門限七時なんだよ! じゃあな、米原さん! またどっかで会えたら!」
「あ、おう。
……ってことは、まだ学生なのか……」
尋常ではない速度で駆けて行く小見沢に、手を振りながら呟いた。
……七時か。
まだ全然イン出来るな。
「コンビニで飯買って帰るかね……」
淳が実は知り合いの息子だと言う事を知るのは、もう少し先の話である。