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イリュオン・七年前1

本編でもチラっと触れたあの人の話


『SSAPMOC:お願いしまーす』

『folclore:はーい、行きまーす』


 ラズリーニの石山と呼ばれるダンジョン。

 大きな岩石が鎮座しているそのダンジョンは、何の道もついていない本当にただの岩石を昇り、頂上にいるボスを倒すという仕組みを持っている。

 

 レベル帯は56と、初心者から中堅までの間ならまぁまぁ、といった具合のダンジョンだ。

 

 そこで今、ボスを倒し終ったあるパーティが、歴史に残る挑戦を始めようとしていた。


「『ストーム・ストーム』!」


 複数人の風魔と、少し離れた位置にいる男性。

 風魔の一人がストーム・ストームを使用し、局地的な竜巻を起こす。


「よっ!」


 それに対し、離れた位置にいた男性は軽い足取りで岩石を駆けおり、その竜巻に乗った(・・・)

 否、正確には……タン、タンとリズムよく跳ねながら、竜巻の上で姿勢を保っているようにみえる。


『farmit:二番目いきまーす』


 竜巻の中心から直情に向かって風の塊が放たれた。

 それを見逃す事無く、即座にそちらへ乗り移る男。


 そう、彼は鳶職という名の職業を持っている、絶対数のかなり少ないプレイヤーの一人。

 中でもトップを行く彼は、後の世で偉業と言われるだろう検証を行っていた。


「よっ、ほっ」


『bong:第三波いきまーす。理論上、二段目の魔法が消えた時は500m地点のはずですよ』

『SSAPMOC:全然ぶち当たる気配無し』


 一つ目の魔法の保有するMPが尽きたのだろう、段々と薄れて行く。

 鳶職の男・SSAPMOCが頃合いを見ていっそうそれを強く蹴ると、魔法は霧散して行った。直後、それを喰う様にして後続の魔法がSSAPMOCに迫る。

 勿論それに直撃する、なんてことはなく、SSAPMOCは後続の魔法を蹴り始めた。


『folclore:四段目行きます。ちょっと速いんで気を付けてください』

『SSAPMOC:了解』


 それが薄くなると、また次の魔法が。

 

 それを、何度も何度も繰り返す。

 繰り返して上昇する。


『farmit:ササプさん、どうすか? 壁ありました?』

『SSAPMOC:ない。今計算上何m?』

『farmit:そろそろ5000mです』


 彼らは上昇限界を探しているのだ。

 ゲームにある、キャラクターがどこまで上昇できるか、という境界線。

 完成度の高いゲームとはいえ、ゲームなのだからそういう「システムの壁」は存在するだろうと踏んでの事だったが……。


『SSAPMOC:やべえ、このゲームかなり広いぞ。あと遠くの方にいくつかすっげー興味惹かれるモンがある』

『bong:そろそろ最大射程の行きますー』

『SSAPMOC:りょーかい』


 ドォン! という噴火を思わせるような音が響く。

 

 そしてSSAPMOCの足裏に吸い込まれるようにして、風と塵の槍が超速で突き刺さった。

 『ダスト・デビル』という、チャージに時間がかかり、且つセット時の射出座標を変更する事が出来ない、所謂ロマン魔法。

 MPを喰い続ける代わりに無限射程というのもロマンの一つであるだろう。


「ほぁっ……っと!」


『SSAPMOC:おー、はえーはえー』

『clydoooor:安定したみたいですね。ボンさんのMPが切れるまで進めば、理論上では7000mまで登れるはずです』

『湯島神天宮茜:二段目のダスト・デビル、チャージ開始します』

『SSAPMOC:おねがいしまーす』


 そこからはまた、先程と同じである。

 撃たれる魔法がダスト・デビルだけになったことくらいの違いしかない。


『folclore:ササプさんどうです?』

『SSAPMOC:むっっっっっちゃ広い。こんだけ高いのに地平が直線っていう』


 それは異様な光景だった。

 この星は天動説に基づいているのではないかと思う程、平らな地平。

 そして遠方に見える、見た事も無いような地形やダンジョンの数々。

 SSAPMOCは跳ねながらもSSを取る。


『clydoooor:俺行きます。俺で10000m越えます』

『SSAPMOC:り』


 SSAPMOCは上がって行く。

 蹴り上がって行く。


 しかし、それを阻む壁は無い。

 全く、彼は阻まれる事無く――。


『folclore:僕で最後です。現在高度、計算通りであれば15,000m』

『SSAPMOC:しょーがないか。んじゃ、最後も景気よくぶっぱなしちゃって』

『folclore:はーい』


 最後のダスト・デビルが放たれる。


 SSAPMOCはそれを蹴り、上昇し――その魔法が途切れた所でスクリーンショットを連写して、まっさかさまに落ちて行く。

 落ちる間は動画を録画している。


『SSAPMOC:高度49212.6ftからパラシュートなしで落ちるの楽し過ぎる』

『farmit:怖すぎる』


 SSAPMOCの身体は緩やかに加速しながら落下して行き、


『SSAPMOC:誰か受け止めてね☆』

『bong:受け止めたら巻き添えで死ぬので却下です』

『SSAPMOC:そんな、ゴムタイヤー!!』


 ドーン! と、盛大な音を立てて地面に追突した。

 勿論、ライフバーは全壊。消えて行くSSAPMOC。


「皆! 勇気あるササプさんに、敬礼!」

「草葉の陰で見守ってください!」

「ほら、あの青空の向こうで、ササプさん笑ってるよ……」

「アンタの仇はおれが、必ず……!」


 悪乗りをしまくるギルドメンバーにサムズダウンをしながら、SSAPMOCは消えて行った。


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