表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

夢金1

活動報告に置いていた奴。

少しだけシリアス注意。


 暗い世界だった。

 VRゲームで死ぬと、必ず一度は体験する世界。 それがここ。

 狭間だとか、死の淵だとか、単純に処理待ちの世界だとか、色々と呼ばれる此処で、彼女は目を覚ます。

 この世界で流れる時間がどれほど膨大でも、起きた時は一瞬の時間しか経っていないという事が多い。 稀に同じ分の時間眠っていた、ということもあるらしいのだが、少なくとも彼女は経験していなかった。


「……久しぶりに来たわね。 此処に来ないために、一番死なないスタイルでやってたのに」


 誰もいない事を知っているから、元来の口調で。

 取り繕う必要が無いから、少しだけ、弱々しく。

 あの鎧も無い彼女は、闇の中ゆえに判別もつかないが、服も着ていないのだろう。


「我ながら……本当に女々しい。 七年も前の事なのに、まだ引き摺ってる……」


 彼女が此処に来たくなかった理由はただ一つ。

 思い出すからだ。


 七年前――水難事故で亡くなった、夫の存在を。


「……あら?」


 ここは自意識の中。

 だから、誰が来る、なんてことはないはずなのに。


 彼女の視界に、一人の女性が映っていた。


「……貴女、誰?」

「私はサターナー。 主に育まれ、身を預け、そして自我を得た大蛇です」

「主?」


 薄い笑みを浮かべる女性は何とも不気味で。

 しかし、どこか親近感があった。


「貴女はファルタのお気に入りですので、特別に。 貴女の夫に、声を届けて上げましょう」

「ッ! ……何を。 いえ、それよりどうして……!」

「ですから、ファルタのお気に入りだからですよ。 私はこれから、貴女の夫の魂が辿り着く世界へ旅立ちます。 その際、何か言いたい事があれば託を頼まれてあげると言っているのです。 まぁ、何もないのであれば構いませんが」


 心臓が跳ねたような錯覚を覚える。

 夫の魂が辿り着く場所。 その言葉だけで、希望が湧いてくる。


「……魂って、そのまま生まれ変わるの? 記憶なんかも保持して?」

「いえ、貴女の夫の場合は死んだわけではありませんので、生まれ変わりではありません。 単純に憑依ですね。 肉体こそ死にましたが、魂は死んでませんよ」

「……そう」


 まるで新興宗教の勧誘を受けているような気分だった。

 だというのに、現実の身体が涙を流しているのがわかる。

 この空間の時間は一瞬であるはずなのに。


「もっとも、完全な保持ではないでしょうが。 記憶は欠けこそしませんが、封じられていくものですので。 何かのきっかけに思い出す事もありますしね」

「思い出す、のね。 そう……じゃあ、こう伝えてほしいわ」


 ならば。

 夫がまだ、死んでいないというのならば。

 夫が名づけ、後で音の意味を知った夫が慌てて改名しようとしていた、あの名前で。


「『お前が生まれ変わるまで、白雉の名を轟かせ続けてやる。 ざまぁ見晒せこの阿呆(あほう)!』」


 それはVRにいる時の彼女の口調だった。

 どこまでも尊大に、どこまでも傲慢に、どこまでも挑戦的に。


 彼女は、胸を張って言う。


「それまで待ってるから。 愛しているわ――これは、伝えなくていいからね」

「はい。 それでは、さようなら。 主よ――また、会いましょう」


 暗闇が晴れて行く。

 サターナーの姿は溶けるようにして消えた。


 そうして、彼女は目を覚ましたのだった。



繋がる物語の話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ