97話 お花さ〜ん
三章 九十七話 「お花さ〜ん 」
バスは進み、そして目的地に着いちゃった。
走行中に何かトラブルでも起きれば、正当な理由で休めたのに…… そんなこと考えてもダメか。
「着いたっすよ 」
あれから、ほとんど会話無しでいたから、ちょっと怖いです。
「そうね…… 」
「行きますか 」
「そうね 」
ねぇなんでそんな感じなの? 俺、何かしたっすか…… あのシスターさんに対する会話は、たしかにちょっとカッコつけたけど、そこまで悪いことはしてないはずなんすよ?
「ありがとうございました 」
降り際に運転手さんに挨拶はする。
良かった、俺以外には普通で…… 良くないわ!
「おう! 気をつけてな、お嬢さん 」
お嬢さんは、スタスタと先に行っちゃう。
悲しくないよ、寂しいよ。
「お疲れっす。そんじゃ行ってきます 」
「お兄ちゃん、あの子にちゃんと謝ってとけよ? 女は怒らすと怖いぞ 」
「何もしてないんですけどね…… 怖いのは、よく知ってるんで、これ以上知りたくないです 」
ほんとに何で仏頂面になったのかなんて、わからん。
「その歳で、女の怖さはまだわからんよ。いろんな女の子に、色目使うからだ 」
「生まれてこのかたナンパなんて、したことないっす。どうせ、する前に失敗するんで 」
そーそ、ナンパしようかなって思って、声をかける! の数秒前に引っ込むのが俺流。
「その方がいいぞ! んじゃ、行ってこい 」
「行ってきま〜す 」
結局、お嬢さんは先に行ってしまったようだ。
一応、お嬢さんを見守る役目で女将さんに頼まれているんだけどな。
「おはようございます 」
知らない生徒さんが挨拶してくれた。
少しは慣れたから、普通にふつ〜に返せる。
「おはようございます 」
ふっふぅん、コミュ力上がってる? 上がってますね! 竹やんに分けてやりたい。そして、この仕事も分けてやりたい。
?? なんだろ…… なんか、視線を感じるな。
うん、やっぱり感じる…… 痴漢!?
そう思ってたけど、よく見ると違う…… 行き交う生徒さんがなぜか、俺に注目してるんだけど!?
何をした? モテ期? ありえない。
変態行為? リアルじゃしてない。
なんでだ?
疑問は解消できないまま、視線を浴びて恥ずかしくなりながら、警備員室に行く。
「おはようございます 」
「お! おはようございます 」
田嶋さんに聞いてみるか? でも知ってるのかな。
「なんか生徒さん達から、熱い視線を浴びたんですけど…… なんですかね? 俺をイジメの対象にする気でしょうか 」
もしそうなら俺は受けてやる。
そうすることで、校内でのストレスは消え、辞める口実にもなる。
イジメられても俺は生徒じゃないし、気にするほど繊細でもないからな。
「え? 知らないの? 」
「? 」
知らないっすよ。その言い方は、何か知ってますね?
「ほんとに知らないとは…… ほら! 今日、宮田さんが行ってる部活と生徒会の、学力対抗戦があるだろう? それで、生徒達は浮かれてるんだと思うよ 」
「え…… あぁ…… 広まってるんすか 」
ふっざけんな! それが理由だったら、かなりの数の生徒が来るんじゃ? いらないよ。
「そりゃ全校集会でのことだからね。僕のところにも、その話しをしてくる生徒さんが多かったよ 」
「マジですか」
やっぱり休めば良かった。今からでも、病欠とかできるかな?
「それにしても、宮田さんは勉強できるんですねぇ…… あの生徒会に対抗戦するなんて 」
そんなに凄いの? あの生徒会…… 下剤でも、盛るか! そして俺は、警察のお世話になると…… リスクリターンが割に合わない。
「俺はからっきしです。出番が来たらこっちの負け、来ないで3勝すればこっちの勝ちっす 」
「宮田さんは何を!? 」
「そりゃ…… 応援と勝った時の奢りとか? 」
それくらいしかできないです。
だが、奢るのにも限度はある! 1人800円までだ。
「大丈夫なのかいそれ? 」
「まぁ、なるようになりますよ。そんじゃ今日は、花壇の世話から行って来ます 」
「あっ、それはこっちが 」
「今日だけっす…… 愚痴を聞いてもらおうかと 」
花壇の世話は田嶋さんの日課…… それに本人がそれを、やりがいにしてる。
役を奪うのは申し訳ないですが、今日だけお願いします。他は全部お願いします。
俺の意を汲んでくれたのか、田嶋さんは笑って返してくれた。
「それじゃ、お願いします 」
「了解っす 」
花の世話か…… ちょっと前までは、考えてすらいないことだ。
だがそれよりも、何よりと、不思議なのが…… 花に向かって愚痴を垂れ流す男がいる。
この方が驚きだ…… 俺だけど。
「お花さ〜ん…… 勝てるんすかね? 負けたら、泣くんすかね? 泣きたいのは俺ですよ? 」
何言ってんだか…… でもしょうがないだろ、あと数時間後に嫌な緊張をしなくちゃならんのだから。
「はぁ…… 可愛いですね〜 お水おいしいですか? いつか、擬人化して会いに来てくださいね 」
痛すぎて笑える? ふふ…… そんなのは俺が一番わかってるぜ!待ってるよ、擬人化お花ちゃん。
田嶋さんの育て方が上手いのかな、とっても綺麗な花だ。花屋さんとかに向いてそう。
なんの知識もない俺が見て、綺麗だって、優しく育ててもらってるんだなって、思わせてくれるくらいだからね。
「それじゃ、次の花壇に行くね。またお話ししてください 」
マジで俺は大丈夫か……
ーーーー その後も、いくつか花壇を回り、習った通りの世話をする。
そんで思う…… ほんと広すぎて疲れるわ。
花壇の世話だけで2時間くらいかかるんじゃ……
田嶋さんは、よくやるなぁ。
花壇の世話だけでは終われない。
次に待ってるのは、校庭の整備。
これも田嶋さんがやってくれている。
俺はいつもゴロゴロか、駄弁るだった…… 罪悪感なんてない。それは、ここに来る条件の一つだから。
ないけど…… やっぱりたまには、手伝うか。
とにかく今日だよ今日! 今日を乗り切れば、明日からまた、あの部室でゴロゴロできる!ゲームできる! マンガ読める! 頼むぞ、みんな。
ーーーー 肉体労働がひと段落して、お昼休みの時間になる。田嶋さんに終わったと伝えて、部室に行ってみるか。
「疲れた…… 仕事じゃんか、これじゃ 」
田嶋さんに報告しに行く。
「終わりました。疲れるもんすね 」
「いつもだから慣れたよ。今日は、花の世話しないからちょっと物足りないかな僕は 」
「たま〜〜には、手伝わせてください 」
好きで肉体労働や花壇の世話をするのは、ご自由にどうぞ。でも少しだけ、お花さんのお世話したいって気持ちは、わかった気がします。校庭の整備は最悪だが。
「それは頼らせていただきますよ! 行くんでしょ? 部室に 」
「ま、一応は参加者なんで 」
「頑張ってくださいね 」
「部活の子達に伝えておきます 」
その言葉、俺にはもったいないし、不要ですよ。
「同僚としての応援かな 」
「なら後輩として、恐縮しながら受けておきます 」
そして部室へと向かう。
あっ…… でもその前に、お昼のカップ麺を職員室で買っておくか。
競うからって、俺は食堂になんか行かない……
だって、高いんだもん。




