89話 もんのすごい疲れたっす
三章 八十九話 「もんのすごい疲れたっす 」
いろいろあった…… お昼ごはんで死にかけるなんて経験をしてしまったり、お昼で4000円も溶かしたり、なんて休日だよマジでさ。
寮に帰ってきてからは、みんなお嬢さんの部屋に行き、勉強を再開するって意気込んでた。
俺はしない、これから少し寝る。
なんだかとても疲れた気がするから。
「たっだいま、愛しのマイルーム…… 」
俺は帰ってくるなり、いつものように横になってしまう。今日の愚痴を壁さんに聞いてもらいたかったけど、そんな体力すらも残ってない。
「定食は美味かった、でも…… まだあのアンノウン(カレーの一口)が胃を苦しめてる感じが 」
たった2つの粉末パックで、あぁもおぞましい物に変貌できるだな料理って。
4000円を忘れる為に、早く寝よう……
ーーーー どれくらいの時間が経っただろうか、俺は目が覚める。
「ふぅあ〜…… 何時だ? 」
時計を見ると、9時になっている。寝たのが3時過ぎくらいだから、6時間も寝たのか…… どんだけ疲れたんだよ。
「さて、せめて浴場の掃除くらいは手伝わせてもらいますか 」
こんな生活を続けていたらダメになる。
こっちの仕事に復帰した時に、駄人間率が上がってるかもしれん。
それに…… こっちの方が仕事って思えるんだよ。
寮から出て、本館の方に向かった。
着いて早々に、竹やんと会う。
「お、宮君! お疲れ様〜 今日はお仕事休みなんだよね 」
「年中休みのようなもんだ。他の人達は、まだ仕事中か 」
「そうだよ、厨房の方に行けばみんないるんじゃない? 」
「そうか…… あのさ 」
俺は今日、初めてお嬢さんからお嬢さんの両親について聞いた。
今もまだ、完全には飲み込めていないのが本音だ。
だからなのか…… 竹やん含め、旅館の人達はどう思ってるのかが知りたい。
「なになに 」
「ちょっとみんなに聞きたいことがあるんだよね。竹やんも時間あるか? 」
「大丈夫だけど、暗め? 」
「あぁ…… 暗めだ 」
「了解。じゃ行こうか 」
たぶん、みんな夕食を食べる為に来てるんだろうな。そんな時に俺は、なんつー話しをしに行こうとしてんだか。
いつもの場所に着くと、そこには高井さんと原さんがいる。
「なんだボウズ、お前も食いに来たのか 」
「てっきり、オフは部屋に引きこもってると思ってたよ 」
「俺もそのつもりだったんすけど、復帰後を考えて浴場掃除くらいは手伝いたいなって 」
「うわぁ…… きもちわる 」
「どうしたお前 」
「宮君? 急なキャラチェンはよくないお 」
さすがだぜ…… 俺がどういう奴かを理解している。
だけどな、キャラチェンではないぞ。誰が真面目になんてなるかよ。
「ほんとその通りっす…… でも、やっておかないと復帰してからまた女将さんの修行を受ける羽目になるかもなんで、そっちの方が面倒なんす 」
「なるほどな、良い心がけだ 」
「じゃあなんで竹と一緒にここに? 」
「宮君が聞きたいことあるみたいですよ 」
「聞きたいこと? 」
「はい、ちょっと…… 」
聞くべきか? みんなはお嬢さんの両親のことは知っているはずだ。お嬢さんが言ってたからな。
どう思ってるんだろうって…… どうしても聞きたいんだ。よくないことかもしれないけど。
「どうした? 女にでもフラれたか 」
「高井さん、宮田にそれはないっすね 」
「ゲーム壊したとか? 」
「ふぅ…… 実はーー 」
ーーーー 話した。今日聞いたこと、俺が怒鳴ってしまったこと、全部。
「そうか…… 聞いたのか 」
「はい…… 」
「お前が怒鳴ったのは見てみたかったな 」
「もう二度とないっすよ 」
あんなに気分悪くなるなんて…… 怒る、叱る、そんな意味の怒鳴るじゃなく、ただ感情が昂ぶっただけの最低なパターンだった。
「宮君がオコか…… 見たことないね、そういえば 」
「怒ってたのかな、わからないや 」
「そんで? だからどうしたんだって話しだ 」
「え? 」
「そりゃそだろ! お嬢が気にしないって、言ってるなら外野が騒ぐことじゃねぇ 」
「そんな簡単には 」
たしかに気にしてないって言ってたが、ほんとにか? まだ高校生で、しかも女の子だぞ。少しくらいは気を使うべきなのか…… それがわからない。
「簡単な話だろ、お嬢さんがそれについて悩んだり、どうしたいかわからない時は相談に乗ってやる! それくらいしか、俺らにはできん 」
「でも…… 」
「あのな宮田、お前は良い奴だ。だからそんな考えるだよな…… でも、女将さんも気にしないでくれって言ってるなら、どうだ 」
「女将さんもですか 」
そうだ…… 女将さんからしたら、娘と婿だ。女将さんがどう思ってるかも知りたかったが、なるほどお嬢さんは女将さん譲りの答えを出してたのか。
「忘れちゃいけないけど、そればっか考えるのもだいぶ酷な話だ。女将さんはよくわかってる 」
「僕も…… 被害に遭った立場から、お嬢さんの気持ちが少しわかるつもりだよ。だから言いたい、気にしても今はしょうがないって 」
「竹やん…… 」
「悪いなボウズ、こんなことしか言ってやれなくてな。だけどわかってくれ…… 俺達だって、何も考えないわけじゃない。お前と一緒で、そのどうしようもねぇ悪党にはくたばれ!って思ってる 」
「俺は…… きっと今いる地獄では、さぞ満面の笑みで鬼共の拷問を受けてるんだろ? って思いました 」
「そうだそうだ! きっと、閻魔も大喜びでお裁きコースを選んでやがるぞ 」
「へへっ…… すんません。お時間取ってしまって、そろそろお掃除に行ってきます 」
俺は何やってんだかな…… みんな言う通りだ。お嬢さんや女将さんが気にしない以上、何も言うべきじゃない。やっぱり、まだまだ足りないわ俺。
「そうだ、冗談混じりに一つ…… その犯罪野郎な、お前の声に似てるよ 」
「え…… 」
は? そんなのと似てるって言われても、何も嬉しくないんですが!?
それとも、俺は犯罪者予備軍って言うのを遠回しに言いたいんすか。
「そうかな? 僕も聞いたことあるけど、すごいノイズで聞き取れなかったキガス 」
「俺はそん時、寝てたから知らん 」
「ほんとだって、俺はあの時厨房でラジオ聞いてたんだがよ、こいつの声は若えなって思ってたんよ。そんでこいつが来て、声を聞いて、似てるなぁって思ってた 」
「マジすか…… なんかすごいショックです 」
ショックどころじゃねぇ…… そんな声の野郎に、お嬢さんは怒鳴られたり、心配されたりしてたのかよ。だとしたら、最悪だ。
「ぷっ! アッハッハッハ! 冗談だっての! 俺だってわからん。俺が聞いたのは、韓国語で話してるタイプだったからな。まぁ同じ主犯なんだけどな 」
「やめてくださいよ…… 怖気どころか、吐き気すらしましたよ 」
ほんとやめてくださいね? 後でお嬢さんに、泣いて詫びを入れようって考えちゃいました。
それにしても、韓国語もやっぱりペラペラか…… つくづく惜しい才能だな。
「悪い悪い、そんじゃ掃除頑張ってこい 」
「今ので、もんのすごい疲れたっす 」
「宮君が主犯だったら、国も楽なのにね 」
「だよな 」
「俺もそう思うっすわ…… そもそも俺だったら、即降伏してるんすよ 」
だが残念! 俺なら、そのスキルを活かして翻訳の仕事か、またはメンタリストの道を選んだ。
そんで重宝されて、一生安泰の生活を送るってとこかな。
でも結局、面倒になっていろいろとサボりそうかもしれん。やっぱここが一番合ってる




