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すんません 、「俺」は、記憶ないっす  作者: 志奏
三章 「果つることなき想いは再びに」
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88話 よろしい


三章 八十八話 「よろしい 」



毒を盛られた人って、こんな感じなのかなと思ってしまうくらいに、このカレーは凄まじい。


なんでだ、出てくるまでは…… いや、出てきた後だってちゃんとカレーだったはずだ。


なのになんで…… 口に含んだ瞬間、こんなおぞましく変わってしまったのですか。


「ハァハァ…… 」


やばい、息が荒くなってきた。このままだと、二口目を食べることになる。


お嬢さんには申し訳ないが、さすがに無理っす。死ぬかどうかの瀬戸際まで追い込まれてるんだから。


「先輩達もたくさん食べてくださいね! 」


「ぁぁ…… ふぇ? あっ、はい 」


桜守、やっとこっちの世界の音が聞こえたか。


「んあ〜…… あ〜…… 」


久野、天を仰いでも神様はカレー食ってくんないよ。


「…… 」


松柴さん、君は笑顔作ってるだけ凄いよ。俺なんて、血の気引いてきてるのに…… ていうか生きてますか?


「お、お嬢さん…… ハァ、カレーに隠し味、ハァ、的なの入れました? 」


聞かないと、なぜこんなに変わってしまったのかを、真実を知りたい。


「わかる? んふふっ、アンタも言ってたでしょ? スパイスを入れろって、だから最後に厨房から拝借した魚の粉末と、健康にいいかなって大豆の粉末を入れたんだよね 」


「なる…… ほど…… お嬢さん、お嬢さんも一口食べてみてくださいよ。せっかくなんですから 」


俺は決して、日頃の暴れん坊に制裁を与えてやろうなんて考えてないよ? みんなと一緒に食べるのって、美味しいでしょ。


「それもそうね、自分で作ったカレーなんて初めてだな。いただきます! 」


さ、これであなたも仲間ですよ。

死地を共に駆ける…… ね。


お嬢さんもカレー(異世界もの)を食べる。


「!!?? 」


お嬢さんは、わっかりやすいなぁ…… すげぇ不味そうな顔してます。


「ゔっ…… え? え? あぁ 」


大丈夫ですか!? といっあげたいが、まずは見守ろう。最後の「あぁ 」は遺言みたいっす。


「生きてますか、お嬢さん…… 」


「なんとか…… とりあえずごめんね 」


「いえ…… 桜守達も、じきに帰ってくると思いますよ 」


今はまだ、何かと戦ってるはずです。

俺は軽い一口だったから三途の河までで許されましたけど、あの3人は結構ガッツリいってた気が。




その後、意識がはっきりと現実に戻って来た桜守達と、なんでこうなった会議を開いた。


「郷橋さん…… カレーはありがとうございます。しかし一体なぜでしょう、なぜこんなにも悲しいのでしょうか 」


「うぅ…… ごめんなさい 」


「私はな、後輩にお昼を作ってもらえるなんてイベントをやってもらっただけ嬉しいよ。でもな、HPバーをここまで削られるとは思ってなかった 」


「あぅぅ…… ごめんなさい 」


「みーちゃんって昔から、絶対にダメな一手間を加えることあったよね…… 忘れてた 」


「昔からですか…… ごめんなさい 」


おぉ…… お嬢さんが、グゥの音も出ない感じだ。

いいぞ! もっとやれ! いつもそのポジションは俺が、担ってるんだ。


たまには、ポジションチェンジもいいと思います。


「お嬢さん、入れた粉末見せてもらってもいいですか? 」


松柴さんが言うには、最後までカレーのはずだったらしい…… なら変わった理由は一つしかない。


健康を考えていれて、危うく死亡診断書を提出する羽目になったかもしれない魚と大豆の粉末だ。


「これよ 」


お嬢さんはそう言って、2種類の粉末が入ったパックを見せてくれる。


「この粉末はなるべく、調理師の免許を取った方のご使用をお願い致します。大豆のは、味はとても悪いけど! 中身の栄養素は最高! と、書いてあるんですが…… 裏面に記載されてますよ 」


何これ、魚のは調理師の免許が必要って…… どんだけぇ。大豆の方はパッケージが面白い、味は不味いって認めてやがる。


そして、これらは厨房から拝借したってことは板前陣が使うやつだよな。あのクラスにならないと、この粉末は真価を発揮できないってことか。


「ほんとだ…… てっきり、ただ味に深みが出ると思っただけなのに 」


「深み…… 深淵まで出てました 」


「ほんとごめん 」




しばらく沈黙が続いた。


「先輩達と初絵、ほんっっとうにごめんなさい! 」


「も、もういいですよ郷橋さん! なんだかんだ言っても、作ってくれたことはとても嬉しいです! 」


「あぁ、だから…… まぁ気にすんなって 」


「生きてるから大丈夫だよ 」


「みんな…… 」


感動だねぇ…… でも、そろそろ俺はお腹空いてどうにかなりそう。


「さて! 何かもう一度作りますか! 私はお腹空いて倒れそうです 」


「今からだと、だいぶ時間かかるんじゃないか? 」


「みんなで作れば、楽しくて時間なんて…… そんなにかかりますかね 」


「わ、私が悪いので、何か食べに行きましょう!奢ります! 」


「後輩にお昼奢ってもらのはな…… 」


「俺も腹減ったんで、久々にそこの定食屋に行きますか 」


徒歩で10分くらいのところに、おばちゃんが営なんでる定食屋があるんだよな。


旅館の御膳に、引きを取らない美味しさだと思う。

でも、あの定食屋のおばちゃんがずっと話しかけてくるから、あんまし行かないんです。


「あぁ、あそこか 」

「美味しいんですか! 」

「私もよく行くんです。美味しいですよ 」

「なら決定だな 」

「私、お財布取ってくるよみーちゃん 」

「出すから大丈夫だよ 」

「さすがにそれは…… 」

「出さして出さして 」


「何言ってるんすか、俺が誘ったんですから奢りますって」


お嬢さんだってお金ないでしょ。

旅館の手伝いと言っても、お嬢さんにはお給料じゃなくてお小遣い程度しか貰ってないはず。


本人曰く、跡継ぎなんだからいらない! だそうな。


「い、いいし別に 」


「子供に奢るのくらい余裕ですから、気にしないでください 」


「いいんですか師匠? 」


「子供はそんなの気にしないの、いいから行くぞ 」


「さっすが、サボってるだけで給料貰ってる警備員は言うことが違う 」


「久野、なんならカレー食べるか? 」


「き、今日はお仕事お疲れ様です 」


「よろしい 」


どんだけ怖い思いしたんだよ、あのカレーに。

気持ちはとてもわかるが。


「宮田さんが、立派に…… 見えます 」


「そりゃどうもっす 」


「今度は美味しく作るから…… その時は 」


「またみんなで食べに行きます! 」

「その時はよろしくな郷橋 」

「今度は最後まで見てるからね 」


「必ず作りますから! 」


「そんじゃ行きますか 」


おいおい…… さっきのことを忘れたのかって…… 関係ないか、この子らはほんといい先輩と後輩やれてるんだな。良い友達を持ちましたね。



その後は、みんなに好きなもの食べさせた。

さっき食事で死にかけたとは思えないほど、よく食べる連中だなって思った。ま、食う子は育つよな。


帰り道にジュースも奢り、たった一回の食事で4000円前後吹っ飛んだ。


でも、俺の出費に対してのネガティヴ全開だったが、みんなは笑いながら対抗勝負のことやゲームの話しで盛り上がってた……よかった、何事もなく済んでさ。


ったく、大家族の家って…… 大変なのかも。

いやいや、絶対大変ですよね。


俺はそんなことを考えながら、寮に帰っていく。




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