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すんません 、「俺」は、記憶ないっす  作者: 志奏
三章 「果つることなき想いは再びに」
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87話 この一口を永遠に忘れられない



三章 八十七話 「この一口を永遠に忘れられない 」



心も身体もスッカスカになりつつありけど、お嬢さん…… 女の子が料理を作ってくれるのは、感慨深いかもな。


夕食だって普段は板前の男連中だから、性別の違う人が作ってくれることが新鮮に感じる。


「カレーっすか、そのルーの箱 」


「そうよ、無難にカレーがいいかなって 」


「私、カレーは大好きですよ! 甘口、甘口、甘口、どれでもいけます! 」


「桜守…… 甘口しか選択肢ないのかよ 」


甘口を三回言っても、甘口は甘口なんだよ。

まぁ俺も、辛口を食べるかって言われたら、少し遠慮気味になるかもしれないが。


「緋夏は、カレーは甘口オンリーだもんな 」


「そうなんですよ。辛いのが苦手とかじゃなく、カレーは甘口がいいんですよね 」


「大丈夫ですよ。ちゃんと甘口と辛口を別に作ってあるので 」


「ありがとうございます郷橋さん! 」


「結構手間がかかってるんじゃ? 」


「別にいいのよ、たまには手間がかかるものを作ってみたじゃない? 」


「そんなもんすか 」


全然わからん、俺なら文句を言う奴にはカップ麺買ってきて済まさせるとこだし。


お嬢さんも、良い後輩をしてんだな。


「松柴さんもお手伝いですか? 」


「いえ、私は…… 野菜を切ってるだけなので 」


「お手伝いしてますよ! 私なんて、ただ待ってるだけですから 」


「しかも甘口の要望付きでな 」


「師匠? ありがとう…… ほんと楽しそうなーー 」


「いやぁ! やっぱり甘口って至高の調整だよね 」


こいつ…… さっき俺が言ったことを、言質として利用してきやがった。こんな自称弟子はいらない。


「師匠も甘口が好きで良かったです 」


「末恐ろしい弟子ですわ 」




ーーーー 少しだけ時間が経つ。


「そろそろできるんですけど…… 美味しいかどうか 」


「そんなこと気にしないでください。私も珠希も、きっと師匠だって、郷橋さんが作ってくれたのなら美味しいって食べると思います! 」


「そうだぞ、そんな気を使わんでいいよ。カレーって時点で私らは大満足 」


「俺も文句無しっす 」


ていうか、怖くて仮にあったとしても言えるわけないだろ。先輩のお前らと違って、俺は痛い目に遭う可能性が高いんですよ。


「でもせっかくなら、美味しいのをって 」

「みーちゃん? 私も隣で見てたけど、下ごしらえも問題なかったし、大丈夫だよ 」

「そう? 」


「大丈夫ですって、お嬢さん。仮にどんな味でも、そこにたったひとつの特別なスパイスがあれば、大抵のもんは美味しくなります 」


よく言うだろう、愛情は最高のスパイスってさ。

ただ、言葉にするのはちょっと恥ずかしい。


「師匠…… 良いこと言えるんですね、やっぱり! 」

「ま、今のはちょっと恥ずかしいけどな 」


「ほんと恥ずかしいよ 」


「スパイスか…… そうよね、うん、スパイスは大事だよ! 」


「お嬢さん? 」


俺の意図したのと、違う意味で捉えられた気がするけど、作ってくれることには変わりないからいいか。


「初絵も、後は煮込むだけだから待ってて 」

「うん、楽しみにしてるね 」




ーーーー さらに時間が経過して。


「お待たせしました。できたので、テーブルに持って行きます 」


「ん〜 良い匂いがしますよ! 」

「郷橋は料理ができるから羨ましいよ 」

「手伝うよ、みーちゃん 」


「カレーの匂いっすね 」


「だってカレーだもん作ったの 」


「お皿は出していいですか 」


「よろしく 」


「うぃーす 」



準備が整って、みんなイスに座ってる。

何か言った方がいいのか? いただきます! 的な。


「お腹空いて、体内電源オフになりそうです 」

「ありがたくいただくわ 」

「みーちゃんの手料理って久しぶりかな 」

「じゃ、せーの 」


「「「「「いただきます! 」」」」」


さて、お嬢さんの作ってくれた料理はどんな味なんだ? カレー…… 俺が作るのは、チンして終わりのばっかりだったからな。


いざ、一口目!


「そんじゃいただきますっと 」


俺は…… この一口を永遠に忘れられない。


パクっと一口食べた瞬間ーー


「!!&/?#%°%#¥☆♪% 」









あれ? 死んだのか? 唐突に逝ったか?








よかった…… まだ生きてるみたい。



「…… ぁぁ 」


声が出てくれた。

状況が、状態が把握できない! 何が起きた?


たしか、女の子が作ってくれたカレーをスプーンという食器で、口に含んだ。


てことは、スプーンが悪いのか? スプーンに何か毒物でも付着してたのか?


そして、みんなは生きてるのか?


俺は辺りを見回してみる。


「…… 」


桜守は青ざめた顔色で、カレーとにらめっこしてる。


「…… 」


久野は、無! ただの無表情で天を仰いでる。


「…… 」


松柴さんは…… なんだと!? 笑顔でスプーンを口に入れたまま硬直してらっしゃる。


そして全員無言かよ。


「ど、どうですか? お口に合いましたか? 」


お口に合うというより、死に目に遭ったんですが。


「どう? 美味しい? 」


今度は俺に問いかけてこられた。


「え…… も、も、もひほんでふ 」


特有の噛むスキルが発動しちゃった。

これでも、頑張ってる方です…… 意識保ってるんですから。


「そんな辛かった? 」


「いや…… とても…… 程よく、風味が素晴らしい 」


何言ってんだかさっぱりわからん。

何を言っていいかもわからないから、とりあえずの感想らしきものを。


「何よそれ、食レポに影響でもされたの 」


「率直な…… 感想でして 」


食レポ番組なんか見ないんすよ俺は。

でも後悔するな〜…… こういう時の為に見ておけば良かった。


だが見てたとしても、食べた瞬間に意識が飛びかけて、息をすることを忘れさせる食べ物になんて感想を言えばいいんだよ。


「なんかみんな固まってるけど、そんなに風味強いかな? 」


「どう…… っすかね 」


風味が強いっていうか、刺激が強いというか、このカレーが最恐で最強すぎて強いなんて次元じゃ。


「あっ、ごめんね! アンタも遠慮しないで、食べて食べて! 二口目食べれば慣れると思うから 」


「え…… 」



お嬢さん…… それは俺に死ねって言ってるのと、同義です。


だけどそっか…… 状況はわかったぞ。お嬢さんは、料理下手のスキルホルダーだ。


しかもリアルでは想定してなかった、殺人をこなせる料理を作ることができるA級だ。


これは乗り切れる気がしねぇ……






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