86話 ちょい増しくらいだからね
三章 八十六話 「ちょい増しくらいだからね 」
お嬢さんと松柴さんを待たせてるかな? 10分くらい経ったからな、もうお昼できてたりして。
「行くか 」
「やっとお昼ですよ〜 」
「ほんとだよ、恥ずかしがり屋のせいでな 」
「誰のこと? 俺別に恥ずかしいとか思ってないから、やめてくれよ 」
なんで俺がそんな可愛い属性を付けられなきゃならん? だいたいお嬢さんに、聞くのがダメかなって思っただけだし…… 絶対に恥ずかしがり屋じゃねぇ。
「そうですかー 」
「そうですよー 」
「2人はほんと最初から仲良いですね! 」
「眼科と耳鼻科と精神科に行ってこい 」
これが仲良く見えるとか、相当深刻なレベルだな。もしかしたら、もう手遅れかもしれない。
「緋夏? こいつとは仲良いとかじゃなくて、からかうと面白い年上の人ってだけ 」
「それもひでぇよ…… 」
ほんとひでぇ…… 会ってからの扱いといい、その後の扱いといい、年上って意味ないよね? ってつくづく思ったよ。
そして俺達はすぐ下の階に居る、お嬢さんの部屋まで行く。
「郷橋さん、少し遅くなってしまいました 」
「お昼できた? 」
2人は何の気兼ねもなく、堂々と部屋に上がって、くつろぎ始めた。
俺はというと…… まだ扉の前で硬直中。
「師匠? 早く入ってきたらどうです? 」
「何やってんのお前は、足つった? 」
「つってねぇ…… ちゃんと許可を得てから、俺は入るの 」
なんでかって? 俺はな、お嬢さんの部屋に上がったことがない。基本は旅館の中で会うし、夕食の時間でもだいたいは厨房裏だし、部屋に行く用事もなかったせいでほんとにない。
「許可? 郷橋さーん、師匠が入ってもいいかわからないそうです 」
「何言ってんのよアンタは…… 早く入って来なさいよ! 」
「実は緊張してるとかか? 」
「ずぅえんずぅえん違いますぅ! 俺は常識的に行動するのが、モットーなんですぅ! 」
だ、誰が緊張なんかするか! 違うよ? ほんとに…… 躊躇しただけだから。
「もうできるから、早く入って! 」
「は、はい…… 失礼します 」
中に入れていただきました。
「どうも…… お邪魔します 」
「師匠は来たことないんですか? まぁ、私達も今日が初めてですけど 」
「いや…… まぁ、そうね初かしら 」
咄嗟に出たオカマ口調…… 想像していたより俺がやると、俺だからこそのキモさだ。
「何故にオネエさん口調なんです!? 」
「どんだけテンパってんのお前は 」
「だってねぇ…… そりゃ少しわねぇ 」
テンパって見えるよな、俺も言われてそう思う。さっきの話しのせいも少しあるかもだが、何より他人の部屋に上がる経験があんまりないんです。
「ねぇ、今からお昼食べるんだからソレやめてくれる? 食事中にマナー違反よ 」
「お嬢さん? そんなに俺がやると、キモさ増し増しですか…… 」
「増し増しどころか、呼吸困難に陥るからやめて 」
「マジっすか 」
そんなに汚物なんすか俺は…… これからは、もっとオネエ度に磨きをかけて…… 俺を磨いても汚物は汚物じゃねぇか。
「クスクス…… 師匠はキモさ増し増し 」
「かわいそうだぞ緋夏、ただでさえ増し増しなのに 身内にも全否定されてるんだ 」
「なにそれ初耳だけど? 普段は増し増しじゃなくて、ちょい増しくらいだからね 」
「ちょい増しはあるんですね 」
「ちょい増しはあるのかよ 」
「た、たぶんだしっ! 」
ちくしょお…… ネタに乗ってやったつもりなのに、なんか可哀想なものを見る目になってる。
テーブルを囲む形で、腰を下ろす。
「…… 」
「どうしました師匠? キョロキョロして 」
「挙動不審は自室だけにしろって 」
「部屋ではおとなしくしてるよ俺は…… 」
お嬢さんの部屋…… 初めて来たけど、なんか女の子の部屋って感じだ…… って、女の子じゃねぇか。
俺の部屋と匂いが違う、良い匂いがする…… これじゃ変態だな。竹やんのこと言えないわ。
部屋も綺麗に整頓してるし、なんか普段と違うお嬢さんを見てるような。
「またキョロキョロしてますよ? 」
「何? 私の部屋になんかあるわけ? 」
「不審者…… 」
「いや、ちょっとだけ緊張が…… 」
松柴さんはお嬢さんの手伝いをしてるのか? それはいいけど、不審者って…… この寮の住人なんですけど。
「緊張? あっ! ふふーん…… 師匠、私はわかっちゃいましたよ 」
「あっそ、たぶん違うからソレ 」
「女の子の部屋に来て緊張してる! ですね? 」
「残念違い…… 違い…… あぁ 」
やべ…… まさか正解を言ってくるとは、不意をつかれて言葉が切れる。
「アンタ緊張してるの? 」
「いや…… そんな 」
「おやおや女子校の警備員が、1人の女子部屋では緊張するってか 」
「だから違っ…… 違うよん 」
もうやめて! これ以上、恥をかかせないでください。それに女子校の警備員って言っても、基本はおたくらの部室でゴロゲーしてるだろうが。
「ま、そういえば初めて来たかもね 」
「そうっすね…… 」
「だからって緊張する? 」
「郷橋さん、男の子にも色々あるんですよ 」
「緋夏も気をつけろよ? こういうおませ君が、一番危険なんだからな 」
「マジでやめてくれる? それから、男の子って歳じゃないからね俺は 」
ませてるどころか、とっくに枯れてるからそんな心配するな。それに2次元寄りの子じゃないし。
「もう少しで、できるから待っててね? ませた22歳独身さん 」
「一気に…… お腹と心が空きました 」
お嬢さんまで、その扱いするんすか…… 22歳独身なんて、世の中にはいっぱいいるんだからね! 俺だけじゃないからね!
何…… 作ってるのかな〜…… 腹減ったわ。心の方は、もう空になったかも。




