85話 もう二度とねぇよ
三章 八十五話 「もう二度とねぇよ 」
胸クソ悪い話しが終わった…… お嬢さんに申し訳ないことをしたな。何も悪くないのに怒鳴るなんてな、自分の行いにも胸クソ悪い。
「悪かったな、さっき怒鳴ったのはどう考えても俺が悪い 」
「なんで私達に謝るんですか、それに郷橋さんは気にしてないと思いますよ 」
「私は何事!? って思ったから、次はちゃんと打ち合わせしてから怒れ 」
「残念だが、もう二度とねぇよ 」
あんなに気分悪くなるなんてな、年中怒鳴ってる女将さんとかほんとに尊敬できるわ。
「絶対あるな、人間なら怒ることなんて普通にあるだろ 」
「絶対にないよ…… お前らに謝ったのは、お嬢さんに言っても何も変わらないと思ったから、あくまでも代用としてだ 」
「はっはークズですねー 」
「師匠のこと優しいと思った時期が、私にもありますた 」
「優しい判定は、連れ添った死に際の老夫婦同士でわかるんだ、つまり優しいなんて簡単に決めるのは良くない 」
優しいなんてのは全然信用ならない、何回その謳い文句に騙されたか…… 俺の場合は自業自得のケースが多いけどね。
「なんだよその例え? 」
「さすが師匠、なんか奥の深さを感じます。なら、師匠は優しい決定ですね! 」
「聞いてなかった? その判定は、簡単にするなよって思ったばかりだぞ 」
「だって怒鳴らないって言いました! それに、人のことであんなに考えられるのは、優しいからだと思いますよ 」
「えー…… 私は緋夏のことを、閏年含めて年中考えてるぞぉ 」
「なら珠希は優しいかもです 」
「んへへぇ…… だろ? 」
やばいな絶対にツッコンではダメだ、久野さんは優しい通り越して、愛おしいに変化してませか? 大丈夫ですか?
「桜守、怒鳴る怒鳴らないで優しいを判断するな。表情や声に出さないで、怒ってる奴なんていくらでもいるんだ 」
良い例が社会人だよ…… 会社なんか行ってみろ、絶対に腹に一物抱えてる連中でひしめいている。
俺なんて、あの校長相手にすると必ず反抗してるからね、もちろん心の中で…… でもあの校長の時は表面化することがある。
「そうだぞ緋夏、こいつは優しいじゃなくて、ヘタレだよ 」
「さっすが、よくわかってるぜ 」
「珠希は師匠のことを、どんだけ低レートで見てるんですか 」
「もちろん最低レートじゃね? 」
「ひどくないですか久野さん…… 一応勝ったんだよ? お得意の格ゲーで 」
忘れたとは言わせません。絶対に一回は勝ちましとぅあ! あと、褒めてくれたじゃん。
「なっ、こういうところ 」
「あ〜…… なるです 」
「納得しちゃうのかよぉ 」
そこは師匠への気遣いがほすぃとこですぅ…… あっ、こういうところがだめなのか。
「行こうぜ、可愛い後輩がお昼の用意してくれてるみたいだし 」
「楽しみですね! 」
「何作ってんのかな 」
「女の子が作ったもんは、なんでも食えよ 」
「そうですよ師匠、女の子が作っただけでそこには得難いものがあるのです 」
「ほぅそりゃすげぇや、なら仮に劇物をお作りになった場合も同義ですか? 」
たまにアニメとかでやってるけど、すんごいゲキ不味を食って体調崩してるキャラとかいるじゃん。
もしリアルでそれが許されるなら、女の子に毒を盛らせれば誰でもイチコロですよね。
「モテない、冴えない、だらしないの男が言うことは違うね 」
「師匠…… だからモテないんですよ 」
「なんでやねん、まだ馴染んでからの日が浅いのに何故そこまで言われるんですか 」
しかし褒めてやろう…… ほんとにそうなんですよ。モテるとか、冴えるとか、カッコつけるとか、どれもスキル欄に入ってないんすわ。
「いやいや、一目瞭然だから 」
「まぁ師匠ですから 」
「なんて説得力ですかねソレ…… もう悟ったわ。そんじゃ行くか 」
「腹減った〜 」
「お腹すきましたね 」
「あのさ…… 」
「何? 」
「どうしました? 」
「その〜…… まぁ、その〜…… 」
「うぜぇ早くしろ 」
「ぶりっ子師匠? 」
「はぁ…… ありがとうな、お嬢さんと松柴さんは、少し変わった気がするよ良い意味で…… ほんと楽しそうな表情をするからさ 」
「そのお嬢さん方に、今のセリフ伝えてやろうか? 」
「久野様につきましては、日々の無礼に対する温情をいただきーー 」
「アッハッハ! 冗談だし! 」
「いやん意地悪っ 」
危うく、高校生に土下座を披露するところだったぞ? やめてくれよ? 今度はするぞ。
「良い師匠を持てました、私は 」
「そうかよ…… 悪い部分が目立つと思うが 」
ていうか、悪い部分しかないと思うが。
「それを補って余りある良さがありますよ 」
「過大評価するな…… 俺がお前らを過大評価しちゃうだろ 」
「え!? 師匠がですか? 聞きたいです! 」
「お、言ってみ言ってみ 」
「ごめん、忘れた…… もう行くべっ! 」
「教えてください〜 」
「うっはぁ…… はぐらかしやがって 」
「年だわ〜 ボケたんかな? 」
誰が言うか、一瞬言おうかと思ったけど知ってるぞ俺は…… 子供っていうのは、ちょっと調子に乗らせるとどこまで乗ってくるってことをな。
だいたい…… なんて言おうとしたっけなーー
ーー あの二人が惹かれるならお前達の魅力は本物だ、こんな俺ですら…… 馴染ませるんだからよ。




