83話 ロクでもない奴だな
三章 八十三話 「ロクでもない奴だな 」
お嬢さんから発せられた言葉は、その場にいる全員から言葉を奪う。
俺は今まで両親のいない、いなくなった経緯をお嬢さんに聞いてこなかったし、聞くことでもないと思って過ごしてきたからさ。
それが今になってこんな形で聞くことになり、さらに想定していた範囲を軽々と超えてきたもんだから、何を言っていいかが…… わからない。
「あ…… ど、どういう 」
やっと出た言葉がこれか…… でも仕方ないだろ、これでもいい方だって自分を褒めてやりたいよ。
「さ、郷橋さん…… 」
「冗談なんて思ってなかったけど、そいつのあまりの動揺っぷりに…… 益々どう答えていいのかわからんな私達には 」
「ほんとですよね…… 凛誉、今日は動揺ばっかね 」
「だって…… え? まずどう理解するべきかが 」
正直、理解なんてできるわけないですよ…… まだ言葉の意味すら、理解するのを拒んでるんですから。
「そうよね…… ごめんね、でも聞いてほしいな 」
「私は聞きますよ 」
「私もだ聞くからは、言ってくれるなら、最後まで聞いておきたい 」
「俺は…… お嬢さんが言ってくれると、おっしゃってくれたので最後まで聞かせてほしいです 」
ほんとにいいのか…… 聞いていいのか? 今なら、テキトーにはぐらかして昼食の会話にもっていけるんじゃ…… ダメだ、もうかなりのところを聞いちゃったからな、最後まで聞かせてほしいかもしれない。
さらに場の雰囲気が重くなったように感じる…… いつもなら、心の中で嫌味を爆発させるところだけど今日は違う…… 重さを受け入れられる。
「私の両親が殺された…… これは本当です 」
「それはわかります…… 郷橋さんはそんな冗談は言いませんから 」
「殺されたって、殺人…… に巻き込まれたとか 」
「お、おい久野…… 」
久野さん! あまり刺激的なことは控えてくれよ。
「いいの! 私から、言ったんだから…… なんでも聞いてほしいし聞かれたい 」
「余計なことでした 」
どんだけ強いんだよお嬢さんはさ、質問攻めはさすがにするなよ? そしたら、お嬢さんがなんて言っても止めると思うから。
「殺人…… です。でも、ただの殺人とは違うと思います 」
「ただの殺人とは違う? 」
「はい…… お父さんとお母さんは、"あの出来事"の被害者なんです 」
「あの出来事って…… 」
「大きな事件とか? 」
「…… 」
やべ、何も言えない…… "あの出来事"ってなんだ? 俺にとってのそういう出来事は、腐るほどあるんだけどな。
例えばゲームに関する新情報が出る! とかね…… こんなのと同列にはできないな。
「先輩達は、"最後の反旗"ってご存知ですよね 」
「は、はい知ってますよ勿論 」
「そりゃ知らない奴がいないって…… もしかして、それに巻き込まれたのか 」
「はい…… 」
「そんな…… 」
「そうだったのか 」
「あの…… お話し中大変失礼ですが、最後の反旗って…… なんですか? 」
ほんとごめんなさい! こんなことで遮るのは躊躇したんですけど、全然知らないんですよ。
「は!? お前、さすがにこんな時に冗談とかマジかよ…… 」
「師匠、少しは真剣に考えてください! 」
「ごめんなさい! でも、ほんとに知らないんだよ 」
だからそんなに怒らないでよぉ…… 俺だって今回は、ふざける余裕がないって。
「は? そんなわけねーだろ 」
「あっ…… そっか、アンタは知らないかもしれないわね 」
「なんですですか郷橋さん? 」
「絶対知ってるだろ 」
「たぶん知らないんですよ…… まぁ、ソレにも色々あるんで 」
「何か事情が? 」
「どうせ忘れたとかじゃないのか 」
「まぁそんなところです、ねっ! 」
「え、あぁはい…… そんなところです 」
残念ながらそこだけじゃねぇぞ、俺が忘れてんのはな。お嬢さんが気を使って、上手いことごまかしてくれた…… そんなに気を使わなくてもいいのに。
「いいか、"最後の反旗"ってのは数年前まで盛んに行われてた、革命みたいなもんのことだ 」
「久野…… ここはリアルだぞ 」
「ゲームじゃねぇよ…… 私も細かいところまでは知らないけど、とにかく世界中で一人の人間を中心に、色んなテロまがいの行為が行われてたの 」
「ですね…… あの時は中学生でしたけど、学校が休校になるくらい身近な問題になりましたから 」
「そうです…… 」
「みーちゃん、大丈夫? 」
「ありがと初絵、大丈夫だよ 」
「テロ? 日本で? 」
嘘だろ、こんなテロとは無縁な国ベスト上位に入りそうな国なんですが。
「言ったろ日本だけじゃないって、それこそアメリカやら中国やら様々だよ 」
「スケールでけぇ…… そんなに人々は、鬱屈した毎日を過ごしてたとか? 」
「一人の人間を中心にって言ったぞ 」
「おいおい、一人で世界中をテロに? どんなエイリアンなら可能なんだか 」
あれ…… なーんか、前にも似たようなやり取りをした気がするけど…… どこでだっけ。
「ほんとにエイリアン説あったな 」
「そうですね、当時は色んな憶測が飛び交ってましたから 」
「ならエイリアンだな 」
よし、今こそガン○ムかマク○スの出番だぜ。ビームライフルで一網打尽にしましょう。
いや、ウルトラ○ンの方が良いな、彼らならA○フィールドをも一発で貫くスペシウ○光線で解決してくれる。
「残念ながら、私達と同じ日本人説が最有力 」
「は? 日本人…… それこそ冗談だろ、日本人は母国語で手一杯だよ 」
やっぱり…… どこかでしたやり取りに感じる、これはデジャヴってやつか。
「そいつな…… 過去にわかってるだけで、母国語どころか、米・中・露・韓の国の言葉を話せるらしいぞ? まだあるかもしれない 」
「たしか、日本で捕まった暴走族? のお仲間がすごい人だって、連呼してたのをテレビで見てました 」
「そういえば、パッと情報が無くなったよな…… 跡形もなく、こりゃ国が絡んでるって誰でもわかるような消し方だよ 」
「あー、たしかに! 全然聞かないし、見ることもできないですよね今は 」
「ちょい待ってくんね…… 暴走族ってさ、不良だよな 」
「まぁそうじゃないか 」
「聞いたかもしれない…… 一人で何人も屈服させて、色んな国の言葉を理解してるって奴か? 」
「なんだよ知ってるじゃないか 」
「凛誉、アンタ知ってるの? 」
「前に竹やんと…… 話してる時に 」
「そっか…… 竹河さんも被害者だもんね 」
「みたいっす…… 」
そうだ、思い出した…… 竹やんと話したことがある。聞いてて翻訳に活かせとか言ったけな、その主犯野郎のこと。
またか、またその主犯が絡んでるのかよ! ほんとロクでもない奴だな…… どんだけ被害撒き散らしかしてんだ、一人で勝手にやってればいいのに。
なんだか、ここまで誰かに嫌悪するなんて初めてだ…… 初めてだな。




