6話 至るまでに…… (3)
前回同様、できれば行く物の1〜3話のチュートリアル部分をご覧いただけたらと思います。 皆さまの貴重なお時間を頂き大変恐縮なのですが、そうすれば少しは私の拙い文章でもたのしんでいただけると思います汗
三章 六話 「緊張?…… いいえ別の何かです」
うお、外に出たのは久しぶりな気がする。 まぁ実際久しぶりなんだろうけどね。
「で、どうします?」
「すぐにホテルへ向かいます、そこでしばらく休んでください。 駅からは休み無しで現地へ向かい、そのまま採用なので、最後の休養です。」
どこかのスターかよ、スケジュールびっしりやんけ。 もうちょい充電期間がほすぃ。
「そんじゃ、お供しますよ…… えーっとそういえば名前なんて言うんですか? 今の今まで気にしなかったんですけど、やっぱり不便だなぁと……」
「…… たしかにそうでした、名前を教えていませんでしたね。 あなたの名前はーーーー 」
「違う違う! 俺じゃなくて君の名前だよ! 」
なんで遮ったんだ? 自分の名前こそ一番に聞くべきだろう。
「私の名前ですか? そうですねこっちも知らないと不便ですよね…… 久瀬谷 沙優です。」
意外だった、名前を聞いて教えてくれるとは…… てっきりまた必要ないとかなんとか言って終わると思っていた。
「久瀬谷さん…… よし、覚えましたよ。 そんじゃ久瀬谷さん、遮ってなんですが俺の名前も教えてくれませんか?」
やっぱり気になるんだ、自分の名前が……
「では改めて…… あなたの名前は…… 宮田 凛誉 です。」
「…… 凛誉…… 宮田凛誉か、しっくりきますねなんか。」
なんだろう、この感覚…… 上手く表現できないが名前を知ることができた。 思っていたより味気ないな……
「それでは行きますよ。」
「へーい。」
ほんとに淡々としてるな〜 この子は。
歩いていると人の多さに戸惑ってしまう。
引きこもりにこれは辛い、自分が居たとこが同じ都会のどこかだと思うと信じられない。
「痛っ……」
またださっきから何回か足を踏まれている、俺が歩くの下手なの? と思っちゃうじゃんか。
久瀬谷さんは歩く時もこっちを、気にかけることなく進むな…… 寂しいぞ。
新宿、若者たちが行き交う最先端かもしれない街だ。こういうどーでもいいことは知識としてあるんだよなぁ…… 人多い。
「ここです。」
そう言われて着いた場所は、俺みたいな貧乏丸出し男が入っていいのかとなるような、そう…… まるで城のような立派なホテルだ。
「おお…… とぅんげぇ…… 」
すんげぇではなく、とぅんげぇな、ホテルだ。 ここに泊まるのか? だとしたらバックアップマジパネェ。
「明日の朝まで泊まるんですよね?」
「そうです。明日はこのまま駅に向かい現地まで送って私の役目は終了です。」
そっか、それで終わりなのか…… 寂しいような気もするけど仕方ないよな、だって久瀬谷さんにも上司的な奴からの命令があるんだよな。
「なら最後までお世話かけます。」
ホテルに入り部屋まで着いたが、やっぱり落ち着くかない。 雰囲気のせいだろうかそれとも女の子と一緒だからなのか?
「では、外出は認められませがそれ以外なら常識的な範囲で自由にしてください。」
認められないの!? なんでってツッコミたいが堪えろ俺、ツッコんでもどうせ体力を使うだけだ。
「へいへーい。」
俺は身体をベッドに預ける。 久しぶりの外の世界と人の多さに疲れたのか、あれだけ眠っていたのにまたまぶたがそっと閉じてしまう……。
「ん〜…… あ〜……。」
どれくらい経ったのだろう、外から太陽の光が消えている。 夜になったのか…… あの病院じゃリハビリしてる時は外に出ていたから太陽とは多少面識はあるが、 夜になると外出はおろか窓も外が見えない仕様になっていたため、とても新鮮だ。
「……。」
久瀬谷さんは、携帯端末とタブレットをなにやら交互に操作しているようだが、何してるんだ?
おはようございますとかお目覚めですか? とか言って欲しいところです。
「ずっとお仕事してたんですか?」
つい話しかけてしまった。たぶんだけど人との接触が極端に少ないと、俺の場合はかまってちゃんになってしまうのかな。
「…… 仕事、ですか…… まぁたしかに仕事かもしれません。」
煮え切らない返事だな。まぁ応えてくれただけありがたい。
「ちょっと緊張してます、明日から別の人生っていうか、なんていうか新しい何かが始まるんすよね。」
もし話しに付き合ってもらえたらと思いダメ元で、話しを振ってみる。
「大丈夫だと思いますよ。 こちらの意思はおそらく汲み取ってもらえるし、あなたならすぐに順応してそうです。」
おお、意外に高評価だな、うれぴぃ。
「はは、だといいですね…… 記憶がないとかその他諸々情報なしの男を信用してくれるんすかね。」
どうしても不安になる。その不安をこの子に吐露するあたり俺はナヨナヨ属性まであるのかも……
「それはあなたの働き次第でなんとでもなります。そういう女将だと私は思って、あなたを預けに行くんですから。」
なんともスパルタな…… でもなんか安心する。
「ならほどほどに頑張りますよ。」
「私はあなたを送ったら、たぶん二度と会うことはないと思います。 無責任に感じるかもしれないですが、承知していただきます。」
たしかに無責任だと思うけど、ここまでくるにあたりそれ以上の無責任や理不尽に遭遇した気もするから別になんとも思わない。 ただ、やっと少し打ち解けたような気もする久瀬谷さんと会えないのはやっぱり寂しいな。
「ちょっと寂しいっすね、あくまでも俺の個人的な感情なんですけど…… 。」
「どうでしょうね、案外すぐに向こうの人達と馴染んで私のことは片隅に置いてある程度になると思いますよ。」
どこまでも表情が変わらないなこの子は…… でもたしかにそれはあるかもしれない…… でも。
「でも、それでもたまには会うなり電話なりで途中経過とか報告したいですよ。」
記憶がない俺には初めてできた友達のような存在である気がする、久瀬谷さんにはたまにでいいから何か機会がほしい。
「必要ありません。」
一蹴、まさにその通りと言っても過言じゃないくらいに俺の言葉は意味をなさない。
「さいでっか…… ならもうちょい人には愛想よくした方がいいですよ、久瀬谷さんは友達たくさんできるタイプですよ。」
せめてこの凍りついた空気を変えたいと思い、余計なお節介をしてみる。 すると、彼女の表情は一瞬見たこともないような曇り方をしたが、またすぐにいつも表情になり言葉を返してくる。
「その友達とやらは、今後何かの役に立たないと思うので必要がないと思いますが?」
地雷踏んだかな?
凍りついた空気から逃れるように俺は再度、ベッドに横たわる。
「邪魔してすいません、明日に備えて再充電しますね。 おやすみなさいっす。」
おやすみなさい…… 誰かに向けて言ったのはいつ以来だろうか、そう思ってしまうほど今の言葉は懐かしい。
「はい…… おやすみなさい…… 」
返してくれるのか、そこは優しいな。やっぱり基本はいい子なんじゃ……
意識が遠のく刹那、とても小さなな声が聞こえた。
「…… れは…… との…… 約束なんです。 いつか来るあなたが…… に戻った時、その時あるものを取るか…… までのを取り、再び想いを馳せるのか…… だから今はーーー 」
??? ほんとにたまに君が何を言っているのかわからないよ…… 暗い底に意識が沈む……
「う〜ん! よく寝られた、気持ちのいい朝だ。外も晴れていて再出発には絶好な日っすね。」
あんなに眠り眠っていたのにこんなに気持ちよく寝てしまうあたり、俺はよほどの怠け者なのでは? と疑ってしまうよ。
「おはようございます。 支度を整え次第、行きましょう。」
相変わらずのすまし顔、共に夜を過ごした仲とは思えない。 ていうか君シャワー浴びた? だとしたら俺は最高のイベントを逃したのでは…… クソ。
「先に言われましたね、おはようございます。んじゃま、最後の旅と行きますか!」
そこから先はびっくりするほど何もなかった。新幹線や電車に乗ってる間、一言も口を開いていない。普段なら俺から何か話しを振るんだけど、今日の久瀬谷さんは一段と話しかけてくるなオーラが凄かったので、話しかけることなく道を進む。
九州についた後は、バスをいくつか乗り継ぎ目的地の夢幸の運びに着いた。
第一印象は想像よりずっと綺麗な旅館だ。周りは深緑の山々や木々があり、それにもっと寂れていて手入れもなく、それこそお化け屋敷くらいに思っていたんだけど……
「いいな…… 。」
思わず口に出してしまった。
「そうですか、気に入ってもらえたなら何よりです。まずはここの女将に挨拶に行きますよ。」
女将か…… どんな人だろう、怖いよなぁ絶対。
「待ってたよ…… そのナヨっとしたのがうちで働く子かい? もっと逞しいのを期待してたよ!」
ごめんね、ナヨっとしたので。
「はい、ご無理を言ってしまって申し訳ないのですが、話した通り煮るなり焼くなり好きにしてもらって構わないのでよろしくお願いします。」
え、ちょっと? 俺そんなこと聞いてないよ?
「そうかい、そうかい! なら使えるようになるまではみっちりとしごくから覚悟しな?」
なるほど、彼女の言っていた通り信用のできそうな人だ…… 俺すら会って数分で信用していいと思ってしまうくらいだ。 まぁ俺の場合大抵信用しそうで怖いんだけどね。
「若輩ですが、まずは半人前を目指して頑張りたいと思います! よろしくお願い致します。」
「意気込みは上々、長続きするといいね〜。」
頑張りますよ。それに、クビになったら行く場所もないしね。
「ところで、あんたはいくつだい? だいぶ若く見えるけど…… 」
不意の質問に、言葉をなくす…… たしかに俺っていくつだ? 聞かなかったな今まで。
「18です。 なるのではなく既に18になっています、5月の17日がそうです。」
目からウロコの情報、ありがとう。
「なんだい、あんたと2つしか違わないのかいだらしのない男だねぇ、自分より下の子に面倒をかけるなんて。」
両目からぼろぼろウロコが出てくる、そうか久瀬谷さんは16か…… そんで俺が18…… 難儀な人生だな。
「それでは私はもう行きます。 後のことは女将のご随意にどうぞ。」
ちょっとちょっと、最後まで無責任スキル全開では終わらせんぞ! せめて別れの挨拶くらい……
「さようなら。」
「あ…… 。」
先に言われた、返せなかった…… 追って挨拶もできたかもしれないが、なぜかその場から動かず彼女が去るのを見ているだけだった。 最後まで表情貧乏だったな…… ーーー
それから今に至るまで、俺はあの子と会っていない。元気にしているのだろうか…… そう思うこともあるが彼女が言った通り俺は程よく順応し、たまに思い出すだけになっている。やっぱり基本的に冷たいのかなぁ……
さて、いかがでしたでしょうか?
三章の 凛誉を形成させるまでのお話なのですがやっぱりまだまだ、文章を書くことが苦手ですね泣
お付き合いいただいている皆さまと共に物語を追って行けているのかと妄想すると嬉しい限りです!
次回は、途中で切れた竹やんとのやりとりを再開しますので是非ぜひ!
そのやりとりは、( )にとって重要なことなのでできればまたお付き合いのほどよろしくお願い致します!