70話 出汁が効いてるよ……
三章 七十話 「出汁が効いてるよ…… 」
お湯を沸かしてぇ…… 今日こそは、食ってやるぞカップ麺よ。
「どこかない? お湯沸かす場所 」
「職員室行けば? 」
「珠希、職員室は下の階ですよ…… さすがに可哀想じゃ 」
「アンタなら大丈夫じゃない? 熱いの慣れてるでしょう 」
「そ、そうなの? みーちゃん…… 」
「お嬢さん? 何言ってるんすか、熱いのに慣れてわけないっす 」
「なんで? いつも、温泉の掃除してたじゃない 」
初耳だよ、温泉の掃除してると熱さに耐性できるってか。
「何も直接熱いところは触ってないっすよ、あれ。だから熱さには、普通の人間と同じレベルの耐性しかないっす 」
「ならどうすんの? 」
「なら、私のお弁当食べます? 私の午後は空腹を感じつつ授業を受けることになりますが 」
「なら言うな 」
「何? 先輩が空腹を感じなかったら、食べてたの? 」
「いただけるなら…… 食べてたかもです 」
「ふーん…… 」
「乞食…… 」
「松柴さん…… それは酷いっす 」
「ご、ごめんなさい! 声に出しちゃって…… 」
出しちゃってって…… 否定はしないのね。
「あははは…… ま、まぁ側から見たらそうかもなんで大丈夫っすよ! 」
本音は全然大丈夫じゃない…… だけど、耐えるぞ! せっかく、話せるようになってきたんだこの子は。ここまでS属性があるとは、予想外だが。
「マジでどうすんだ、私のパンは2つしかないからあげれない 」
「職員室行ってくる…… 別に走らなければ、こぼさないだろ 」
「気をつけろよ〜 」
「無事に帰還してくださいね! 」
「先輩、大丈夫ですって、なんだかんだ耐久力があるんです 」
「あったっけ…… 」
「お嬢さん…… ないっす 」
マジでないからやめてください。あったら、女将さんに食い下がってでも、俺は旅館に残ってたと思う。
面倒だと思いつつ、職員室へ向かう
「やべ、生徒さんだ…… 」
どうしよう…… トイレに逃げたい、でもトイレがない! なんで、数歩ごとに用意しとかないんだ。
俺みたいな奴が可哀想だろ。
「こんにちは 」
向こうから挨拶したきたぞ! って…… ものすごく普通ですよね。
「こんにちは 」
俺も普通に返せた! なんだろう…… ドキドキします。 興奮じゃないよ。
ていうか、俺のことって認知されてるのか…… なんだよ、ちょっと気が楽になったかも。でも良かった、もっと騒がれるかと思ってた…… 自意識過剰かな。
職員室へ着いた、結構人がいるな。
「こんにちは、お湯を入れに来たのですが 」
「それならそこにあるよ 」
「ありがとうこざいます 」
お昼時って、賑やかだな職員室って…… 先生達となんて会いたくねぇだろ普通、間違ってるか?
「お、新人警備さん 」
「どうも、昨日はカップ麺をありがとうございます。ただ昨日は食べれなかったので、今食べるところです 」
昨日…… 定価で売ってくれた先生だ。
「なんだ、せっかく今日も色々と揃えてるのにな〜 ま、長い付き合いになるかもだし、いつでも買いに来て! 」
「ありがとうございます。お世話になります 」
カップ麺は大変ありがたく思うが、長い付き合いにはなりたくない。それはここに長く居ることを、意味してるのなら…… 絶対に嫌だ。
「さて、お湯を入れて戻るか 」
職員室で、お湯を沸かすことがあるなんてな…… 今年は初めてのことだらけだ…… 大半は悪いことでな。
部室へ戻る途中は、何事もなく、こぼすことなく戻ることに成功。こぼさないか緊張しました。
「帰還した 」
「無事に帰還ですね! 」
「なんのカップ麺? 」
「もっと、まともなの食べなさいよ 」
「お疲れ様です…… 」
出迎えて? てくれるのは、嬉しいが…… 久野とやら! パン片手にゲームするのはダメだろ。
「久野、コントローラが汚れるぞ 」
「いや、そんな潔癖じゃないし…… つか名前呼べるのか 」
「珠希だけズルくないですか!? 」
え、名前呼べって言ったのそっちだよね? そもそも名前呼ぶのに、ズルとかあるのか。
「ご所望したろうが、俺は気にするタイプなんだ。何か食った手でゲームはしない 」
「ちっさ 」
「お兄さん…… 小さい 」
「まぁ昔からだよね 」
「ショボ…… 小さいと思います 」
あらら…… まさかの俺だけアウェーか、それからショボイは違くない?
「マジか、みんな気にしない派か 」
「特には 」
「私も…… うーん、直接手を使って食べる油っこい物は、手を拭いてからくらいですかね 」
「私はゲーム持ってない、知ってるでしょ 」
「私もあまり…… 気にしない…… と、思います 」
「まぁ俺のコントローラじゃないから、いいけどね 。俺のなら、絶対許さない 」
第一、持ってこないから安心でーす!
「マジで小さ…… 」
「お兄さん、ホントに死にゲーをクリアしたんですか? 」
「より酷くなってるんじゃない? 」
「やっぱり、ショボ…… 小さいです 」
「あのな、器とゲームをクリアするかどうかは別だ。それからお嬢さん、俺の酷さはデフォルトって知ってるでしょ 」
「知ってる知ってる、だから、よりって付けたんじゃん 」
「あぁ…… なるほど…… 」
悲しいな〜 そんなに小さい? だって、壊れるとかさ、匂いつくとかさ、色々あるじゃん? それとも…… やっぱり器がダメなのか。
さて、そろそろいい頃合いだ。
「いただきます 」
「なんも入れないの? 」
「逆に聞くが、なんか入れるの? 」
「それ蕎麦だろ? なら、七味とか入れない? 」
「あー 、入れる派だけど無いじゃん 」
「部室のどっかに落ちてませんでしたっけ? 」
「落ちてるって…… 何が? 」
「先輩達も食べてたんですよ、カップ麺。それでよく持って来た七味や一味を失くしたって騒いでたんです! 」
「おい待て、そんないつのかわからない物…… しかも落ちたやつを入れろと? 」
「別に大丈夫じゃないの? 七味とかなら、先輩達っていうのは、卒業した人達ですよね? 」
「そうです、よくカップ麺やお菓子を食べてましたね 」
「なついな 」
「そうか、ならその懐い物を使うわけにはいかんな、今度から持参するので大丈夫だ 」
さすがにこれは、小さいとは言わないよね? 別に汚いとかじゃなくて、常識的にね。
「そうだ、気になってたんだけどさ 」
「どした? 」
「なんです? 」
「何? 」
「はい…… 」
そっか、全員が反応しちゃうのか。
「いや、桜守だっけか? 君…… 授業はいいの? 」
「お、私も名前呼びですね! 」
そこはどうでもいい、俺が気になってるのはこの子…… 来た時からいたような気がする。そうなると、1限から昼休みまで授業に出てなくない。
「私は今日の授業5、6限からですよ? 」
「え…… どういう…… 」
「そのままの意味ですよ。私と珠希は、今年から選択で、しかも少ない時間割なんです! でも、家にいるより部室でゲームしてた方が楽しいので、来てるんです 」
「そういや、聞いたかも…… 3年からは結構自由なんだよな。にしてもだ部室の方が楽しいって、お母さん泣くぞ 」
下手したらお父さんも泣いちゃう。いや、お父さんの方が泣くかも。
「だって、持ってるソフトは基本部室ですし…… それに、卒業しちゃうので 」
「先輩…… 」
「先輩…… 」
「重い空気にしたな、お前 」
「え、俺のせい? でも、そっか…… なら全然オッケー だな! もしかして何かあるかと思ったが、そういう理由なら思い残すことないくらい、遊び尽くすしかないな 」
「わかってるじゃないですか、お兄さん! 」
「だろ? 俺も同じ立場なら、そうする…… かもな 」
「どんな理由だと思ってたんだよ 」
「ん? そりゃ…… 教室行けないとか? 」
「緋夏に限って、それはないな 」
「ないですね、たしかに 」
「だから、オッケー って言ってんだろ 」
「へぇ…… 案外真面目に考えてたんだ 」
「宮田さんも、考えるんですね 」
「ははは…… 出汁が効いてるよ…… 」
出汁が効いてて、涙出てくるぞ。
それからな俺だって、真面目になんて考えたくない…… でもお給料くれるみたいだし、それにお嬢さんや松柴さんが慕ってる? 先輩だからな。
あと…… 個人的に、この桜守にはそういうのがあってほしくないって思った。
あれ…… なんで? まだ日は浅いよな。それだけ、元気に映って見えるのかな。
なんにせよ、俺がサボる場所で鬱展開は困るので。




