54話 トンガってました……
三章 五十四話 「トンガってました…… 」
ほんとに親子って似るんだなと、思ってしまう。
まぁ、おばあちゃんと孫なんだけどね…… いや、親子だよなそれ。
「なるほど…… そうですか、君が…… 」
やべ、急すぎて言葉が……
「何か用でも? そもそも、どちら様でしょうか。」
「さっきも言った通り、ほんとに警備員になるんですよ。あまり信じてないのは、わかりますが、それでもほんとなんです。君の御祖母様に、聞いてみるといい。」
「…… 全て信用するわけではありませんが、一旦は理解しました。それで、肝心の用件はなんです? 」
ごまかせないよね…… 頭良さそうだもんな
「用ってほどのことじゃないんですけど、その御祖母様に言われて、この辺を重点的に見てほしいってね…… この辺を、ね。」
孫なら、多少は言っても大丈夫だろう…… 悪いな、俺はそこまでアンタ(校長)に、気は遣わないよ
「校長が…… わかりました。なら、せいぜい職務に励んでください。少し前に騒ぎがあって、生徒達も不安になっているでしょうから。」
「ご声援ありがとう、ご期待に添えられるかわからないけど、励んでみますよ。」
なんだ、そんな言うほどのキツさじゃないぞ?
校長も田嶋さんも、キツイぞ〜 キツイぞ〜 ってフラグ立てるもんだから、ちょっと楽しみにしてたのに…… Mじゃないよ?
「あなた…… あの人が雇うということは、それなりに優秀な人間と思っても良いのでしょうか? 」
「? 優秀ではないと思いますけど、まぁ仕事はしますよ。 」
「それはありえないです。ここは女子校、それも進学校なんです…… そこらの程度の低い人間を、迎い入れるはずありません。」
おや、ほほう…… ちょっとフラグ通りな感じかな?
「実際、優秀ではないのでなぜ呼ばれたのかは、俺もよくわかってません。そこのところは、時間のある時にでも家族で話してくださいな。」
できれば、君の口からあんな使えなさそうな奴は、即刻やめてもらうべきだ! って、泣きついてあげて…… おばあちゃんに
「そんな無駄な話しは、しません。あなたは…… どこの大学を卒業されたので? 」
だ、だ、大学だとぅ!? 高校すら、ちゃんと出たのか知らん男ですよ? 下手したら、中学も分からん
「大学…… は、その〜 ね、まぁ…… 出てないです。」
そもそも通ってたら、ここにいないよ
「フン、大学を出てない…… なら、フィジカルの方面で秀でていると? 」
フィジカル? 秀でているように見える? 少し走っただけで、ゼーハー、ゼーハー、だよ!
「運動も苦手、な方だと思いますね…… ほんとなんで来たのかなぁ…… 」
「そんなはずはありません。絶対に…… 、隠したいとかですか? 」
「隠す必要はないでしょ? 俺は事実しか言ってない、ほんとに何も、取り柄と呼べるものがない。」
「そうですか…… なら、良い条件に食いついた野良というところですか、それなら納得できます。この学校でそれは、ありえないと思っていましたが…… 」
誰が、条件なんぞでくるか…… それにしても、こっちから仕掛けたとはいえ、よく喋る子だ
「ははは…… 一応、本業は別にあるんだよ? 」
あ、やべ…… つい言っちゃった
「本業? 」
「旅館で、仲居さんをやらせてもらってるんです。警備員の仕事は、まぁ…… 副業? みたいな。」
休職中です! って、言えねー
「フッ、なるほど…… その職種があなたの結果、なんですね。それなら、キャリアは関係ないですから。」
おいおい、本人の前で鼻で笑いおったで
「良い結果だなと、自分を褒めてあげたいかな…… たしかにキャリアっていうのは、無いけどさ。」
「その程度を褒める? 負け犬、またはそれを享受することに、何も感じない器の小ささ…… 全てが物語ってますね。」
おっほっほっほ、数分前に感じた…… おっ、全然普通かも、は撤回しよう。このガキンチョは、面倒くさいタイプだ
でも一つだけ、一つだけ…… 何で負け犬だ?
「負け犬…… か、なるほど…… たしかに君が言う価値に値するものは持っていないけど、その仕事をさせてもらって、後悔したことはないよ? 」
ちょっと盛った…… 初日からの数日は、クソ! かなり肉体労働だなって思ったけどね
「だからこその負け犬、それとも敗北者とでも言いましょうか? 」
「たしかに俺は、間違いなくそれだ…… でも、他の人はそうじゃないよ。だから君の言ってる"ソレ"は、俺個人を対象としてるやつだよね。」
「いいえ無論、あなたと同業の人間も対象ですが? 私が言っているのは過程を軽んじ、甘い結果を望み、そしてその結果に満足している、弱者全てです。」
…… なんでこんな話しになった? まぁいいや、この子の人となりを知りたいと、思っていたからな…… 理解も納得もする気は失せたけど
「人の考えはそれぞれだからね、否定も肯定もしないのが無難かな、俺は。でも、今後の為にアドバイス! 今みたいなことは、他の人にはあまり言わない方がいいよ。人生の中で、必ず後悔する一瞬があるから…… 」
「後悔なんてしません。今と同じような会話になったら、私は言う…… 過程を軽んじた、敗北者共と。」
「そうか、そっかぁ…… なら、一つだけ訂正することがあるかな〜 」
「何です? 」
「さっきも言った通り、俺は君の言う敗北者で間違いない…… でも、俺と同じ旅館で働いている人らは、少なくとも敗北者ではないよ。誤解してほしくなかったら、訂正しておくんだ。」
あそこで働いてる人に、敗北者はいない…… ほんとは俺だって、仲居として働けて何かに負けたとは、感じていない。この子には、言わないけどね
「必要あります? その訂正…… 仲居とは、つまりは接客でしょう? 誰にでもできる、変わりがいる、誰かである必要がないんです。あなたも、その周りも、ただ甘い結果にすがりつき、充実していると思い込みたいだけなんですよ。」
「面白いな、君のは極論を通り越して、暴論になってるよ? 気をつけた方がいい。」
「どこが暴論だと? 至極、正論だと思います。」
「それが正論なら世の中総理大臣と、大統領だらけになるよ。それに、旅館を建てた功績はどう表現する? 雇われている側と違い、来る人全員に一時の安らぎを与えたいと思って、作った側の功績はどう例える。」
「何も変わりません。他に何かをする能力が備わっていなかった、少しでも楽に金銭を潤す方法を模索した、変わらぬ答えを与えます…… ただ、敗北してるだけです。」
こりゃダメだ…… お手上げっす。つーか、最近の俺は何かと会話に熱が入るな…… 改めよう
「なら君だって、敗北者では? 生徒会…… 会長になれなかったんじゃないのかい? だから、3年になってもこうして生徒会室に来て、思いにふけてる…… 違うかな。」
ほんとダメだわ、最近…… なんで突っかかるんだよ? かわいそうだろ、ほんとに落ちたんなら
「何がです? 私が生徒会長です。生徒会長は、成績や模試の結果を教師陣が選考して行われます。私は今いる生徒の中で、最高偏差値なので勝利している側の人間です。」
会長だったかぁ! でもそうか…… だからこの子は、こうも絶対の自信があるのか。おそらく教師達も、なにも言わないだろう、最高偏差値で成績も優秀、文句は言わない方が賢明だよな
だからこその勝利者、押し通すだけの力もあるし、それに付随する形で誰からも何も言われない、その結果がこれか…… やっぱり負けは大事だな。年中、負けてる俺が言うのもあれだけど
ん? この子が生徒会長なら……
「そうか…… なら、この前の件は君が引き金だ。あの不良たちの誰かをフッたんだよね。」
そのせいでとんでもない目に遭いましたぁ! ブー ! ブー !
「あの事態は予想外でしたが、あんな低レベルと交際するわけがない…… 怖気が走る。」
「なら出て来て、そう言ってあげればよかったじゃないか…… 俺の記憶だと、誰も出て来なかったと思うな〜 」
例外の厄介娘は除いて
「あなたもいたのですか? ならわかるでしょう、あのような状況で原因が自ら前に立つわけがない。それに、会話の成立するレベルの人間でもありませんでした。」
「恐怖した、これは敗北の一種だと思うけど? 」
意趣返し? なんで反抗期みたいな言ってんの俺は
「恐怖? それは間違いです。よほどの理由がないのに会話が成立しない、人間としての最低ができない、そんな動物たちの近くにノコノコと行きますか? 」
よほどの理由…… か、ちょっとは優しいところはあるから安心したよ。これも言わない、恥ずかしいから。あれ? この子って、あの状況が最後どうなったか知らないのか? 知ってたら、何か俺に対して思うところがあるはずだ
「あの不良たちが、どうなったのか知ってる? 」
「さぁ、最初は何事かと思って外を見ていましたが、教師達から外を見るな、反応もしてはならないと通達があったので、後半は怒鳴り声が聞こえてくるくらいしか、知りません。」
「なるほど…… 」
ラッキー ! てことは、生徒さん方はあまり知らないってことね
「規律を重んじる、我が校の生徒ならあんなことに動揺せず、通常通りに授業を受けていたことでしょう。」
「なるほど…… 」
ならウチのお嬢さんは、規律軽んじてんの?
今度、女将さんに密告しないと…… そんで、後でモノホンの地獄を見ると…… 想像するだけで怖ッ!
「少し会話が長引きましたね、とにかくあなたに期待するのは、今後あのようなことが起こらないように職務を全うしてください。見ていたのなら、わかるでしょう? 」
「校長先生にも言ってありますけど、あまり期待はしないでくださいね、努力はするので。」
英語 {ここで少しは、その結果を修正することに尽力してはどうです? }
!!
「え? ユー ? リザ、ト? リヴァ? 」
「この程度もダメですか、つくづく雇った理由がわかりません…… それでは、もう戻ります。」
そう言って、キツ目のガキンチョは生徒会室に入って行った
「ふふ、面白い子だなほんと…… もう修正する箇所が多くて、今世じゃ無理かな〜 5、6回先の生まれ変わりに期待するよ。」
旅館で働いてる人間ナメんなよ、ガキンチョ〜
レベル1くらいの英会話なら、できるよ…… 多分
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少し、会話にお熱したせいで待たせたかな?
「すいません、待たせてしまって…… 」
「いやいや、全然大丈夫だよ! …… それより、どうだった? 」
「うーん…… 目がトンガってました。」
「アッハッハ! そうだね、たしかにそうかもしれない。良かった、見る感じ…… 不快には感じてなさそうだ。」
いやいや所々に熱が…… 特に、旅館のくだりは自分でもよくわからないです。長年一緒に働くと、仲間意識がねぇ…… ちょっかいかけて、くるんすよ
「不快なんて…… あの年頃は、あれくらい素直じゃないと可愛げがないですよ。」
素直すぎて、イラッときたのは内緒
イラッとくる辺り、俺も未熟なのかなと思う
「達観してるねぇ、宮田さんいくつだよ! 」
達観してるって、たまに言われるけど全然違いますよ?
「この間、22になっちゃいました。30まで、もう少しですよ。」
「22じゃ30までは、まだ長いだろ。僕なんか、63になるよ。」
「63…… すか、それでこの仕事ってキツくないですか? 俺なら年金生活に、甘えてきたくなる頃です。」
「言うほどキツくないって、これから教えていくけど、すぐ理解してくれると思うよ? 」
へー 、まぁすぐ辞めるんで、理解させるだけ骨折り損すよ
「それじゃ、改めてよろしくお願いします。」
「よろしく! お互い連携して頑張ろう! 」
肉弾戦になったら、全投げします! って、63の人にそりゃねぇわ…… ほんと、あの子言う通りに修正したいよ




