48話 信頼してるからさ
三章 四十八話 「信頼してるからさ。」
女将さんとの会話で、ここまで熱くなったことはない。つーか、他人との会話で熱が入ったことがないので、言わなくていいことまで言ってしまった…… 少し、はぢゅい
「…… 話しは終わりっすね、そろそろ帰りますよ。」
「その前にもう一度聞かせておくれ、引き受けてくれるかい? 」
「そっクビになる前提としてなら、引き受けます。」
「すまないね…… ありがとう。」
「礼は勘弁してください。もう言ってしまわれたのであれですが、後悔されるとお思いますよ言ったことを…… 」
「私はだいぶ無理を言った、それをアンタは引き受けた、礼を言うのは当然さ。だが一度だけだ、言われたくないんだろう? 」
「それだけのご慧眼をお持ちなのに、よりによってなんで俺を…… 」
「しつこい男だねぇ、私が信頼してるからさ。この信頼は安くないんだ。」
「…… ふぅ、いつから伺えば? 」
できれば、来年からで…… 再来年でも可!
「明日の休みをまたいで、その次の日くらいからだ。」
「…… うぇ!? 明後日!? それは、いくらなんでも急すぎますよ。俺にも心の準備が…… 」
なんで俺の周りは、急な坂道を用意してくるんだ!
「心の準備は明日しな、急なのはわかる…… でも警備員が怪我してる中、一人任せるのは不安なんだとさ。」
「それって…… あのおじさん警備員ですか? 怪我してるのに、仕事させてるなんて…… 」
はい、ブラック確定! 絶対やめてやる
「本人たっての強い希望だと、それにあんたも早く仕事を覚えられるじゃないかね。」
「いやぁ…… そういう問題じゃ…… 」
そもそも、覚える気がさらさら無いんですよ。
「行くだけ行く、それから考える、それがあんただろう? 」
「そんなアクティブ思考の持ち主じゃないんすよ? …… 了解です。」
俺なら行動する前に色々と考えて、結局やめて帰ってくるが正確なんです
「本当にすまない…… 」
だから卑怯っすよ
「最後にそんなしおらしくなるのは無しで、今のお顔を見てしまうと…… 引き受けた意味が無くなります。」
「フッ金平糖より甘い男だよ、あんたは…… 」
「その例えは若者に通じないっすよ、せめてチョコレートにしてくださいっす。」
「そうなのかい? 難しいねぇ。」
「ほんと、難しいっすよ…… それじゃ俺はそろそろ。」
「ああ、おやすみ…… 」
「おやすみなさいっす。」
寮に戻る、一気に横になる、一人愚痴が始まる
「なんっで、引き受けた? 何してんだよ俺は、もっとヘソ曲げた感じでいけば断れたろ…… はぁ…… 」
明日の休みがなんか急に憂鬱になったな
「いっそどっかに逃げて、数日して戻ってくるとかどうだろう? あの女将さんのことだ、たぶん全力で探すな。下手したら、警察沙汰まである。」
そして最後はブン殴られるんだろうなぁ
「はぁ、寝よう…… はぁ…… 」
溜息のバーゲンセールだぜ。色々と悟り始める、中年のサラリーマンくらいに憂鬱だ
いいことがあるとすれば……
「あのおじさん…… どんだけ仕事熱心なんだよ。」
まぁそんだけ元気ってことなら、まぁ…… ね
ーーーー その頃、居間にて
「もしもし? 私だよ、引き受けてくれそうだ。だいぶ無理を言った感じだけどねぇ。」
校長 「そりゃそうだ、無理を頼んだつもりだからねこっちも…… 感謝するよ。」
「感謝するのは、あいつにしな! 誰があんたの頼みで、ウチの優秀なガキを預けるかい…… 私も孫が心配になった、それだけだ。」
「アザを作る辺り、ほんとそっくりな孫だねぇ…… あんたの孫はさ、ウチのも昔の私によく似てるんだよ…… 」
「さぞ強情っぱりだそれは、友達なんていないだろう? 」
「ふっふっふ、いないねたぶん…… 本人がそれで良いと思ってるところがあるんだよ。」
「益々そっくりだね、いつか会ってみたいよ。」
「あんたのところの孫は友人になれるかい? 」
「美羽が? さぁねぇ…… 私らが仲介して友達になっても、そんなのはすぐダメになるよ。」
「…… その通りだね。預かる若造は、どうだい? 」
「凛誉は、わからん! あいつがどういう風に接していくのかなんて、見当もつかないよ。もしかしたら、会わずして終わる可能性もあるくらいだ。」
「そうなのかい? まぁ、自分で何かに気付いてくれるのを待つだけか…… 」
「校長ともあろう者が、一人を贔屓にしちゃダメじゃないか。」
「今はプライベートだ、校長やってる時とは違うよ。だから今回こんな頼みをしたんだ…… 」
「良いおばあちゃんしてるじゃないか、私もあんたにそそのかされた口だからね…… 孫が心配になった、年を感じたよ。」
「頼りにさせてもらうよ。」
「あんまり頼りにしない方が良いよ。珍しく嫌がってたからねぇ…… 少しは喰ってかかると思うよ? 」
「若いのをあしらうのは、慣れてる。嫌がるか…… 変わってるね、女子校なんてそうそう勤められないのにねぇ。」
「はっはっは! そうなんだよ、変わってんのさ…… まぁあいつは色恋に興味ないだろうから、ほんとに面倒だと感じてるんだよ。それと普通の若いのと一緒にしない方がいい、物事を客観的に見ることに長けてる。」
「変わってるね、楽しみにしておくよ…… 来るのを。」
「くれぐれも頼んだよ…… 」
「わかってる、ほんとにすまないね…… 」
ーーーー 「ふぅ…… ほんと惜しいよ、1・2年でも、あいつを他に預けるなんてさ…… 今時、珍しいくらいの良い接客ができる男なのにねぇ。寄る年波には敵わずか…… ごめんよ、凛誉。」




