35話 うっわぁ……
三章 三十五話 「うっわぁ…… 」
誕生日を祝ってもらってから、一週間くらい経った。あの数日後に宴会を開いたけど、主役を差し置いてガブガブ酒飲んでたな高井さん、俺は一滴も飲んでないのに…… まぁ、その方が楽だしいいんだけどね
「おはよう、今日もこれから行くの? 」
あらまお嬢さん
「おはようございます、そうっすねこれから最高の温泉を堪能してもらうための下準備をしに行きます。」
「ほほう、夢幸の運びの温泉は最高だと…… いい心がけじゃない。」
「そりゃま、従業員一人一人の想う力が大事なんすよ。」
「てことは、現実は違うと? と? と? 」
なんでそうなんねん! あと、めっちゃ怖いんでその顔やめてください。また記録更新しそうなんで
「既に最高だからと油断せず、慢心せずにいることを忘れない、これが結論ですね。」
「なるほど、たしかにそうだ。うん常に向上することを考えるのね。」
向上とは言ってない、これ以上頑張りたくないっす
「そんなお嬢さんは、これから学校ですか? 」
「そーよ、いないからってよからぬ企みを起こすなよ? 」
俺ってどんな扱いなの?
「ははは、ないですないです。普段通りに、それでも向上心を持ちつつ、仕事に取り組みますよ。」
「中々やるじゃない、私も部活の先輩達みたいにゲームの腕を上げたいよ…… 」
「え、お嬢さんよりレースの上手い人がいるんすか? 」
「違うわよ今度、格ゲーの大会があってそれに参加したいんだって、部活では一番強い先輩がいて二番目に初絵なのよ。私ともう一人の先輩はあまり強くなくてさぁ…… 」
松柴さんそんなに上手いのかよ…… 意外だ
「格ゲーっすか、俺も得意な方じゃないんで力になれないですな。」
「あ、でもサンドバックになってもらうのもアリかも! 」
くそ、くそ、格ゲー上手くなりてぇ
「手は抜かないっすよ、やるからにはこっち全力でいきます。」
「あんたそんなに上手くないじゃん…… 格ゲーは。」
そ、そ、それは…… その通りなんすけど
「まぁ、やれば少しは上手くなりますよお互いに。」
「そうね、その時はよろしく。じゃあそろそろ行ってるね。」
「うぃーす、行ってらっしゃいっす。」
お嬢さんはやるからには、とことんやるって言ってたけど本当にとことんすぎますよ。俺には真似できんわ
「さて、俺も行くとしますか。」
一通り仕事を終えて、午後からの打ち合わせと休憩を兼ねて厨房に向かう途中
「あんた、ちょっといいかい。」
「女将さん、なんでしょうか? 」
「ちょっと頼みがあるんだけど付き合ってくれるかい? 」
うぇー、面倒なことじゃなければ大丈夫なんすけど、でも経験上から頼みと聞くとほぼ面倒なこと一択だ
「頼みっすか…… お使いとかなら行ってきますよ! 」
「そうかい! ならまた学校にお使い行ってきてくれるかい? 」
なんでぇ!!! そのお使いは俺の言ってるお使いと違う。近所まで買い出しのお使いならまだしも、二度と行かないと心に決めたんです
「あー 、ちょっとそれは…… 何というかその…… 」
「なんだい、お使いなら行ってくれるんだろう? 」
だからお使いじゃないそれは、お疲いだ……
「すいません、できれば他の人にお願いしても大丈夫ですか? 」
「ほう珍しいねあんたが嫌がるなんて、そんなにこの間は面倒だったかい。」
面倒というか拒絶というか…… とにかくキツい
「あはは、学校っていうのが肌に合わないんすよ。それに女子校に行くのもだいぶ勇気が…… 」
「なんで勇気がいるんだい…… 前と同じで行けるのが、あんたしかいないのよ。」
なんで俺ばっかり…… つーか、何をしに行くんだ?
「また忘れ物っすか? 」
「それがねぇ、美羽が部活に必要な書類を忘れてねぇ、今日提出しないと活動させてもらえないんだと。」
また忘れ物かよ、お嬢さんしっかりしてる風に見えて案外抜けてるな
「向こうの校長とお知り合いなら、その縁で取り計らってもらうのはダメでしょうか? 」
「電話したけど、他の生徒同様に扱うだと…… あのくそババァ。」
ちょ、怖いっす女将さん。でもたしかにあのコワモテ、融通がきかなそう
「理由はわかりましたが、前回からまだ日も浅いしでやっぱり行くのはちょっと…… 」
「…… そうかい、珍しく嫌がるあんたを無理に行かすのはやめておくかね。」
…… …… "お誕生日おめでとう!"
なんでここでそんな言葉を思い出すんだよ…… そんな良い性格じゃねぇだろ俺は
そんでそんな顔されるとこっちも困るよ女将さん
はぁ、今度こそ本当に最後だ
「まぁまたバスの運転手さんと縁があるかもしれないんで、届けて帰ってくるくらいなら…… 」
「あんたはなんだかんだで甘いねぇ…… でも、助かるよ。美羽が始めたいと思ったことは最後まで、やらせてあげたくてね…… 言うんじゃないよ! 」
そのお歳でツンデレはちょっと…… それに甘くないですよ、基本的に他人はどうでもいいような、よくないようなを貫く男なんで
「女将さんも甘いような気がしますよ。」
「なら今からもう一回来たての頃、やってやった修行やるかい? 」
甘くないわぁやっぱり、微糖だわ
「勘弁してください、あの修行やったら今度はホントに泣き崩れますよ。」
「そうだろ? わたしゃ甘くないよ。」
「ふっ…… 訂正を、苦味があります。」
「ったく、ほとんど変わらんじゃないか…… それじゃあ頼むよ。」
「了解っす。」
女将さんから書類の入った封筒を預かる
「結構量がありますね、これを忘れるとは…… 」
「ホントにねぇ全く。」
まぁ、最近格ゲーの練習! とか言って夜遅くまで起きてるって聞いたような…… かなり危険信号出てますよお嬢さん
「そんじゃ、行ってきます。」
「すまないけど、よろしくね。」
ーーーー バス停でまた待つとは…… しかも行き先があん時と同じとか最悪
「今日はあのオッチャンかなぁ、運転手。」
そんなことを考えてる間にバスが来た
「ぁ、違う。」
あのオッチャンじゃない…… まぁ運転手さんも一人じゃないもんなぁ。それにそんなこと考えたらこの運転手さんに失礼だな
「…… 。」
とても静かにバスは進む。ホントに静かだわ…… ってこれが普通なのかな
そんなことを考えてると、あの時とは違う感じのアナウンスが流れた
「お客さん、少しいいですか? 」
バスも一時停止して、運転手さんが問いかけてきた
「は、はい何か問題でもありましたか? 」
なになに、やめてよ落石とか勘弁してね
「お客さんの目的地ってどちらですか? 」
その質問かぁ…… また変な誤解を招くか?
「翠鳴学園までなんです。身内に届けるお使いなんですけどね。」
「そうでしたか、なら今日はやめておいた方がいいかと…… 」
??? なんだよ、引っかかるな
「何かあったんですか? 」
「あちらの学生さんがよくウチを利用するので、学校側と連絡を取り合ったりしてるんですよ。それで先程連絡がありまして…… 学園付近で不良達がたむろしてると。警察に連絡してるみたいなのですが、なにぶん場所が場所だけに時間がかかるみたいなんですよ。」
うっわぁ…… それはクッソ面倒くさいな。女将さんごめんなさい、今日は待機の方向で
「なるほど、そしたらこのまま戻った方がいいですよね。」
「できればその方がいいと思います。あちらからの連絡だと警備員が暴行を受けて、もう手が出せないみたいなんですよ。」
マジかよ、警備員ってあの時のおじさんか…… 年寄りに暴行は良くないだろ
「で、でも大丈夫ですよね…… あんなでっかい学校なんですから、他に対策くらい…… 」
「その辺はちょっと…… でもとても怯えてる感じだったんですよ。」
…… いやいや、俺が行ってどうなるよ、土下座で許してもらえる相手かな、そもそも不良とかは俺のなんとかできる分野じゃない。それにそれに絶対他に、何か事態を考慮して用意があるはずだ……
だぁ!もう! なんでほっときゃいいのに!
「ホントすいません、近くまででいいので乗せて行ってもらえないですか? 」
「大丈夫ですか? こちらに危害は加えないと思いますが、あなたには手を出してくるかもしれませんよ? 」
だろうなぁ…… 仮にそうならなくても、別でイジメられそうだよあの手の連中には
「やっぱり身内が心配になってしまったので…… 」
「そう…… ですか、わかりました。それでは停留所付近までお送りします。」
「すいません…… 」
ーーーー 停留所付近に着いた
「着きました、やっぱりいますよ。」
やべ、帰りてぇ…… 前とは比べ物にならないくらい帰りたい。あとチビっていいですか
「いますね…… じゃあ、すいませんここまで乗せてもらって。」
「警察が来てからの方がいいと思うのですが…… 」
わかってるよぉ…… でも時間がかかるんでしょう?
俺が行ってどうこうなるとは思えないけど、せめてお嬢さんや松柴さんの無事を確認するくらいはできるはず。それはいざとなったら土下座、または靴舐めくらいならできる!
「身内がいると心配で心配で…… それに、彼らだって無抵抗を殴ったりはしない…… かな? 」
「お気をつけて、一応こちらからも警察に連絡しておくので。」
「すいませんお手数おかけします。」
降りた…… 降りちまった…… なんかもう怒号が聞こえるんすけど、なんで? 何があったんだよ
あ、ヤバイヤバイ早速なんか別次元の髪型がこっち来るんですけど…… 来なくていいよ!




