21話 血筋なだけはあるわ。
三章 二十一話 「チビッたかも…… 」
な、なんだあのモンス…… じゃなくて女将さん。どうしてそのようなお顔になってしまったので。
「お、お、おかみひゃ…… 、女将さんどうかされました? 」
噛んだ…… だって、こえーんだもん。
「おばあちゃん? 」
お嬢さんまで素が出てますよ!呼び方、女将じゃなくなってます。
「もしかして、うるさかったですか? すいませんホント。」
「お、オッチャン…… 悪りぃけど先行くな、今日はもう酒飲むって決めたんだよ。後は…… な! ボウズ。」
この肝心な時にヘタれるな! 。厨房にいる時とはえらい違いだ、原さんにチクるぞ実は案外、俺と同じですって
「え…… おつ、かれ、さま、でぇす。」
そこから数分沈黙が続いた。
マジで帰りたい…… よぉ。箸が進むどころか折れるよ俺の心と一緒に。せめてなんか喋って!
「…… 。」 「…… 。」 「…… 。」
よーし、俺は帰る。鯛よすまない…… 実に名残惜しいが命には変えられないんだ。立つぞ〜 席を立つだけ、簡単なはずなのにできましぇん! だが立つぞ、今だ!
「じ、じゃ…… じゃあ俺もお先に…… 」
ん、ズボンの裾を引っ張られてる気が…… え?
驚いた…… 素直に驚いた。松柴さんが足で引っ張っている。人と会話するのだって苦戦するこの子が、まず俺のことだって苦手だと思ってたのに。
「あ、あの…… 」
彼女の方を見てみると今にも、行かないで! と言わんばかりの表情をしてる。初めて見た、今まで一緒に働いてきていたがこんな大胆なことをするタイプじゃないはず。 ちょっと嬉しい…… じゃないじゃない! ごめん、松柴さん。俺は行かなきゃ…… この場に俺がいてはダメなんだ
「…… し…… ます。」
とても細い声だが聞こえちまった…… お願いします…… か。多分あの二人には聞こえてないな。帰りてぇ、マジで帰りたいのに…… 立ちかけた席にまた座っている。ツンデレじゃあないぞ。ヘタデレだ
「や、やっぱり鯛は食べようかなぁ…… なんて。」
はぁ、嫌だな。このまま沈黙スルーでも別に耐えられるかもしれないが、なんでなんとかしようと考えてんの俺は。いつもならさっき、オッチャンが出たタイミングで一緒に出るがらしさ100%なんだけど。 はぁ…… さっぱりわからん
「女将さん…… 謝ります。食事中にする話しでもなかったかもしれないです。ご気分を害して申し訳ありません。」
「ち、違う! 私から相談は持ちかけたの! 。」
「私…… も、そう…… です。」
「…… 違うよ。」
やっと女将さんから言葉が出た。違うよ…… 。 その言葉通りなら俺は関係ないから安心した〜 …… ってなるはずだが、全然ならない
「じゃ…… じゃあ何が…… 」
言葉が出る前に女将さんが口を開いた。
「美羽…… あんたはウチで働いてるから、部活できないだって? ふざけるのも大概にしな。強制した覚えもないし、跡を継ぐのだって考えなくていい。そんなこと考えて学校行ってたんかい。」
「…… 。」
それは、俺たちならあまり気に止めないことだ。でも女将さんにとっては何よりも重要なことだったのか…… 口出しする気が起きない。
「え、どうして? 私は昔から女将に憧れて…… 」
「あんたの気持ちは知ってる。でもね、あんたの本職は何? 学校でしょ!。 初絵を思ってだって? 馬鹿らしい、あんたも部活に興味があるんだろう? それなのにウチを言い訳にするなんて…… 情けないよ全く。」
「べ、別に部活入りたいなんて言ってないし、思ってない! 。勝手に決め付けないで。」
「あんたが初絵に言ってることは、少なからず自分にも言ってたんじゃない? 私ゃ、そう聞こえたねぇ。理由がなければ部活入りたいんだろうよ、だから旅館のことは考えないで決めてごらん。」
「あ、あの…… 女将さ…… ん 、みーちゃんは 」
「初絵、あんただって美羽が部活入ったら嬉しいだろうよ。それに薄々感じたでしょ、この子は部活入りたいんだって。あんたは臆病だから言えなかったかもしれないけどね。」
たしかに、ヤケにお節介してるなとは思ったけどそこまで深く考えてなかった。さすがおばあちゃんなだけはあるな。これは俺がいても意味ないわ、帰れば良かった…… 冷めたな、ご飯
「あ、あの…… 」
「凛誉…… 今何を言っても私は変わらないよ、そこまで考えなしじゃないでしょ? お前は。それとも言えることがあるかい? 」
このボスマジで強いな、オババ連合や俺たちの元締めなだけはある。圧倒的なまでに、反論する余地なしですね。はい
「そう…… ですね。」
すまん、お嬢さん
「私は昔から女将になりたくて、仕事の手伝いをしてたんだもん! なんでそれがダメなの? 私には旅館が一番優先することなん…… 」
「いいかげんにしなよガキが、一番優先することは学校、その次にあんたがやりたいこと。旅館はその次の次くらいにしな! そんな気持ちで仕事されてもこっちは迷惑なだけ。」
「私のやりたいことが旅館の仕事だってわかってよ…… おばあちゃん。」
「そうかい、ならあんたはクビ。明日からは旅館の業務をしたら外に追い出すよ。今はやりたいことをやりなさい…… 美羽。」
「私…… は…… この仕事…… 」
ヤバイ泣きそうになってますよ! 元気娘。ふざけんな俺…… 何も言わない方がいい。言うなよ絶対に言うなよ! フリじゃないぞ、ホントに口を出すべきじゃない。っだぁ!もう…… 今日の俺はバグに侵されてるんだ!
「お、お嬢…… さんが…… この旅館や仕事を何よりも大事に考えてるのは本当です。一応は三年間見てきたんで。俺みたいな若僧が言ってもダメかもしれないけど、それでもお嬢さんが女将になりたくて日々頑張ってるのを否定するのは…… よ、よくない…… と思いまふっ。」
また噛んだー! なんで肝心な時に噛むんだよ!
「ぐすっ…… 凛誉…… ダサい。」
「宮田…… さん…… ダサいです。」
二人してひどくない!? 俺かなり頑張ってたぞ! 頑張りすぎてチビったんすけど…… マジでチビった。
「フン、あんたに言われなくても知ってるよ。私が言いたいのは今だけでも楽しく学校行ってほしいんだよ。別のなりたいものができてもいい、ウチのことは考えないで好きに生きてほしいだけなんだよ私は。」
「おばあちゃん…… ありがとう。でもホントに私は女将になりたい! お母さんとお父さんが亡くなってから、女手一つで育ててくれた人に憧れてるんだもん。もう変えられないよ、それにこの仕事大好きなんだ。」
「頑固は血筋かい…… 全く。でも部活くらいなら入っても構わないんじゃないかい? 時間の都合くらいなんとかなるし、 両立できたら立派な女将候補だけどねぇ。えぇ、美羽? 」
「おばあちゃん…… 。」
「みーちゃんのやってみたい部活でいいから、一緒に見学しに行こ? 私も付き合うよ。」
「立場逆転した…… 悔しい。」
「クスッ、そうだね。」
「さ、食べちゃうよ、せっかくの料理だが冷めちまったねぇ…… それでも美味いのがウチの厨房だよ。あんたも悪かったね、付き合わせて。」
ホントだよって言いたいような言いたくないような…… 言わない! それにバグのおかげか、悪い気分じゃないし
「そんなことないっすよ、鯛料理を食べずに帰れるわけがないだけです。」
「にしても言うようになったね半人前希望が、成長したのかねぇあんたも。」
「ハハ、どうなんですかね…… 大分情けない感じでしたけど。」
「そうかい? ま、そうかもしれないね。」
その後は何事もなく鯛料理を食べれた。美味かった〜、冷めても美味かったわマジで。さすがと言わざるを得ないな、あそこでヘタレな姿見なかったらガチで弟子入りするレベルだ。これでやっと、やっと帰れる…… 生きてるよな俺。




