129 すぐ行きます
三章 百二十九話 「すぐ行きます 」
服だのファッションだの、俺にはわからん。そんなの気にしたことがなかったからな。というか、周りにも気をつけてる人が…… いや、よく考えたら旅館の人ってファッションセンス良い人多いかも。
てことは、浮いてた? だとしたらショックだ。
そんな話しをした後なのに、俺は相変わらずジャージで来てる。だってこれしかないんだもん。
大会終わったら服を買いに行くとか言ってたけど、ダルいよ…… メンドくさいよ…… なんて言えるわけもなく、行くことになっちゃった。
嫌だなぁ…… 金をそんなのに使うなんて、そういうのはもっと人生を楽しんでる人がやるべき! 俺みたいなのは、趣味に投じるのが一番の楽しみ。
さて、大会まであと少し…… 練習してねぇや。
「お嬢さんと松柴さんって、どのくらいできるようになってんの? 」
「ふふーん、練習の甲斐あって、連携のとりかたも上手いし、エイムの合わせ方も上手くなってます! 」
「エイムってなに? 」
なんかの略語か? 一応、俺も大会に参加するわけだし知っておこうかな。
「エイムは、ほら!あれですよ 」
お嬢さんと松柴さんがプレイしている画面を指差し、教えてくれる。
「あれって、照準じゃないの? 」
またはロックオンとか。
「はい、これがエイムです 」
「ほぇ〜…… これが上手くなると、勝てるのか 」
「そんな単純ではないですけど、知らないより知ってるの方が、断然有利に戦えます 」
「な〜る 」
全然知らないで今まで遊んでたわ。なるほどね、これからはエイムって言えばいいのね、ちょっとカッコイイじゃん。プロっぽい。
「師匠、そんなことで大会は大丈夫ですか? 」
「ああ…… まぁ、なんとかなるでしょ 」
練習…… してないです。言い訳するつもりはないけど、というかできないな。
せめて1人でゲームしてる時に、FPS系をやるくらいはしておいても良かったのでは?
いつものことだけど、答えの出る間近になってくると…… 必ず後悔に似た何かを感じる。
でも大丈夫! 今回はゲームの大会だし、それに桜守がいる。このアドバンテージはデカイはず!
ーー 少し時間が経ち
「2人とも、ほんと上手くなりましよね 」
「ありがとうございます! 先輩の教え方と、このゲーム普通に面白いからですね 」
「どっかの年中サボってるやつも、見習ってくれませんかねー 」
「常に見習ってるよ。まぁでも、あと数日か…… たしかに少しは練習しておくか 」
そして思う…… 数日じゃ、どうしようもなくね? 俺が練習しないのが一番悪いけどさ。
言い訳にならないかもしれんが、どうしても休みの日って寝るか、別のゲームやってしまうんです。
はい、自業自得の良い例でーす。
「やっぱり練習してないんですね!? 」
「いや、少しは…… してるよ 」
コントローラは毎日扱ってる、しかしFPSではないのは内緒。
「緋夏、それはしてない顔だ 」
「間違いないです 」
「先輩、そろそろ師匠って呼ぶのが、どれだけ相応しくないかわかってくれましたか 」
「師匠っていうか…… 役立たず…… 」
「うーん…… それでも、師匠が定着してるんですよね〜 」
「やっぱり、俺から滲み出てるカリスマ性は隠しきれなーー 」
「「「「それだけはない(な、です ) 」」」」
「知ってますから、同時射撃はやめてください 」
これこそ心を一つにってやつだな。なんて結束が強い部員達、これなら勝てるよ! なんせ一瞬で俺の精神をズタボロにできるんだから。
それに今回は廃部とか、かかってないから少しは楽観的に大会に臨んでもいいでしょ。
いつものように、このままお昼休みが終わるかと思っていたが…… まさか、まさかのタブレットさんから仕事してと初めてのアラームが鳴る。
え、タブレットの説明は受けたが、今まで一回も経験してないんですけど……
放っておけば、田嶋さんが対処して…… そりゃいくらなんでもダメだよな。
「師匠、なんか鳴ってますよ? 」
「あぁ…… これね、仕事しろって命令的なやつ 」
「じゃ、行けよ 」
「でも、なにすればいいの? 」
ていうか、何が起きてんの? タブレットには3階のトイレ付近から、一定以上の感情の揺れをカメラのセンサーが検知したらしいが。
「なにすればって…… どこから? 」
「なんかトイレに行けって 」
「不審者でも出たんでしょうか 」
「マジで…… 怖いんだけど、警察呼ぼうか 」
女子校だもんな、そりゃ不審者の一人や二人来るのは普通か…… うん、俺より警察に連絡をする方が頼りになる。
校長との契約? 知るか、自分の安全が第一です。
「いや行けよ 」
「いや怖いよ 」
「やっと仕事をする機会が来たんだぞ? ここで動かないと、ただのクズになる…… もう遅いけどさ 」
なに、それはもうクズってことか? よく知ってるじゃねーか。
「仕事だったら、いつも生徒達に何かないか気を配ってるからね? 」
「その生徒が今、ピンチなんだろうが 」
「いやでもさーー 」
「凛誉! 」
「は、はい! 」
びっくりした…… いきなり名前で呼ばないで、お嬢さん。
「いいから行け 」
「不審者だったら怖いんーー 」
「仕事でしょ、行きなさい 」
「…… ですよね、すぐ行きます 」
なんて圧倒的な気迫なんでしょうか…… これは女将さんを超える、俺にとって天敵になるかもしれない素質があるね。
「郷橋を使えば、お前はすぐ言うことを聞くっと…… メモメモ 」
「久野…… 久野様、お願いです。やめてください 」
「師匠、頑張れ! 」
「はぁ…… 行って…… きます 」
いやだ、行きたくない、引き止めて〜
これが…… 師匠の顔を見た最後だったとか、語られんのいやだぞ!?
だがなんだ? ほんとに不審者なのか、それとも別の何かか…… センサーが反応するほどの、感情に影響を与えることか…… わからんぞ。




