127 ここトイレです
三章 百二十七話 「ここトイレです 」
涙を人前で流すとは思わなかった…… しかも、見せた相手が相手だけに恥ずかしいとかじゃなくて、どうしようという思いが大半を占める。
こんな歳の男を泣かすな!
このまま部室に戻れば、間違いなく泣いたのがバレる。それはマズイ…… ただでさえ低い立ち位置なのに、さらに下落するのがわかる。
よし、まずはトイレで顔拭こう。
「ぐすっ…… なんてツラだよ 」
鏡に映った顔がひどいのなんの、目は赤く、鼻も赤くなってるように見える。
それにしても、言葉で人を殺せるとはよく言ったものだ…… 死にかけたもん、さっき。
「あの…… 」
「!? 」
泣いてるところなんて、誰にも見られたくないのだが…… 急に入って来られたら、見せるしかない。
しかし、入ってきたのは…… 俺を泣かせた張本人。
「まさか泣くとは思っていませんでした 」
「会長さん…… 」
慰めに来たの? もう遅いわ! 涙は流れた、貴女との関係はこれまでよ!
マジで慰めに来たのか? やめてくれ……
「少しは落ち着きましたか 」
「あの…… 今更なんですが、ここトイレです 」
普通はキャーって悲鳴をあげたいが、そんなことをすればキモい変態がいる! と言われ、真の悲鳴をあげることになりかねんし。
「何を言ってるんですか、ここは来賓用の男女共用スペースです。ですが…… 些か、空気の読め行動だったかもしれませんね 」
「あっ…… たしかに来賓でした 」
ケチんないで、来賓用も男女別に作ってくれ。
こういう稀なケースもあるんだぞ!
「あの時とは…… だいぶ…… 印象が違いますね 」
「あの時…… !! 」
やめて〜 思い出したくない〜 俺が全部悪いんです。俺が変態で鬼畜のどうしようもない奴なんです。
よし、こうなったらーー
「大変…… 申し訳ございませんでした 」
大声で謝ろうかと思ったけど、それはそれで大変注目を集めると思いまして、聞こえずらいとは思いますが勘弁してください。
トイレで…… 女子高生に土下座か…… また黒歴史かな…… はは
「あの…… 何をしているのですか 」
「いえ…… 反省と謝罪を示すには、行動してご理解をいただく必要があると思い、このような見苦しいことをした次第です 」
何言ってんだ…… 自分でもさっぱりわからん。
「ですから…… そのようなことをする必要がないと思うのですが…… 」
「え…… 会長さんは咎めに来られたのでは? 」
てっきり、殺しに来たのかと思ってました。
「なぜそうなるのですか…… 私は、むしろお礼を言いに来ました 」
「お礼…… ? 」
なんで? 何かのイヤミか? それとも揶揄?
「あの後、少し祖母と話す機会があって…… それで在り方について今一度、考え直そうかと 」
「校長と会話ですか…… それと俺に何か関係が? 」
「自宅で考えごとをしてたら、祖母の方から話しかけてきたんです。ここ数年、まともな会話をしてなかったので驚きましたが…… キッカケは私の敗北らしいので 」
「よくわかんないですけど…… 良い話し合いができたので? 」
家族間でまともな会話がないって…… なるほど、この子の人格的なやつを構成する過程に、色々あったのかもな……
「ええ…… 考えを改めるには充分な程に…… それでも私は、あの時の考えが全て間違いだとは思っていません。それだけは言っておきます 」
「さいですか…… なら、会長さんと試合してた時の俺の言動と行動は全否定しますが…… 主観一つで他人を敗北者とする考えは間違ってると、言い続けますね 」
旅館の人もゲーム部の子達も敗北者じゃない、それだけは曲げれないな…… 土下座ポーズのままで説得力ないかもだが。
「そこは少し変わりましたよ…… それにしても、あなたは二重人格ですか? とても同じ人とは思えなくて 」
「二重人格…… なんすかねぇ…… よくわかんないです。ただ、あの時言ってたのは本心じゃないです 」
自分の口から出てる言葉とは思えないほど、不愉快な気分だったからな。二度とごめんだ。
「なるほど、記憶障害とは大変なのですね 」
「…… 御祖母様からお聞きに? 」
それ以外に君がそれを知る方法ないよね、まぁ言ってくれた方が楽だし、いいんだけどさ。
「少しだけ…… しかし、あれだけのことができるなら、さぞ優秀な大学を出ているのでしょう 」
「大学は出てないと思うよ。こっちにきたのが4年くらい前でさ、その時18だったからそれはない 」
だから大学ネタやめてね? どんなところなんだろう? って、興味が出て…… こないな。
「それなら余計に悲観してしまいます。私は過程を重視し、大学、就職と言った結果を求めてたのですから 」
「いいんじゃない、それは努力して得るものでしょう? その結果を手に入れたら、過程を誇っても良いと思うし 」
「しかしそれを他人にーー 」
「重ねるのは良くない。俺にとっての、良い結果っていうのは…… そうだな…… 狭い寮でも、のほほんと暮らせることとかだし 」
できれば追加で働きたくないも言いたいが、今この子にそんなことを言うほど空気読めなくはない。
俺だって、少しは読めるんだ。
「つくづく負けたことが信じられません。ですが不思議と…… いえ、不快? に良かったと思っている自分がいます…… やっぱり不快ですね 」
「いいことっすよ、真性のドMにさえならなければ、負けることは良いことだって思えるもんす 」
「真性の…… ドム? 」
「そこはスルーしていいです 」
これまた勉強になった。ガチのガリ勉ちゃんに、ネタを突っ込む時はオブラートに包む作業が必要ってこと…… それにしてもドムって、どこの○連星?
「それではそろそろ戻ります…… また 」
「会長さん 」
「はい? 」
「あの時の俺の言葉は本心じゃないってのは、本当です。会長さんがこれまでしてきた努力と呼べるものは、素直に尊敬できると思いますよ 」
一応は訂正しときたかった、しなくてもいいかと思ってたが…… そこまで真摯な姿勢を見せられたら、年上として、大人としての役割を果たす。
「フッ…… あなたもこれからの努力次第では、良き結果に結びつくかもしれないので、今後とも我が校の生徒達をよろしくお願いします 」
「へへ、そうこなくちゃ…… でも、生徒達には申し訳ないですが俺はこの現状に満足してるので、そこまで必死に頑張ることはないですね 」
おばあちゃんにも伝えとけ、あいつはやっぱり役立たずなんで、早々に解雇してってね。
「またお得意の土下座でもしますか? どうやら、怯えた生徒には弱いみたいなので 」
「マジでやめてください。ごめんなさい 」
このガキンチョ…… 早速、弱味を握りやがった。末恐ろしいわ。
会長さんと別れて、俺は再び部室に戻り。
「疲れた〜 渡してきたぞ 」
「師匠、乙でーす 」
「乙 」
「ちゃんと渡せたの? 」
「落としたとか…… ないですか 」
「大丈夫っすよ…… 無事任務完了 」
よし、早速マンガを読むか。
会長さんに生徒達をよろしくとか言われたけど、そんなのは別の有望な人間に任せて、俺は悠々自適といきましょう!
どうよ、この期待の裏切り様…… 解雇もんだろ?
「あれ、師匠…… 目元赤くないですか? 」
「は!? べ、別に青くねぇし! 」
「なんだよ青って、それは逆にこぇぇよ 」
「間違えただけだし…… だけだし 」
しまった…… 目元のところなんて気にしてなかった、バレる? それだけはダメだ。
バレれば完全にナメらるぞ、今も大して変わらないが、それでもダメなもんはダメだ。
「動揺か…… はい、何がありました? 」
「やめてそういの〜 ないわ〜 マジないわ〜 」
どうしよ…… いっそゲロっちゃう? そしたら、みんなで優しく…… してくれるわけないな。
バカにされ、貶され、それをループするだろ?
「師匠はそっちの才能ないんですから、早く言った方が楽ですよー 」
「もしかして泣いた? お前、泣いてた? 」
「ち、ち、ちげぇし! 泣いてねぇし! こりゃあれだよ…… 結膜炎だよ 」
どんな結膜炎だよ…… こいつらといると、うまく言い訳を考えられない。
「たしかに赤いわ…… あんた、泣いたの? 」
「宮田さんが…… 泣いた? 」
「泣いてないっす…… マジで違うっす 」
くそぅ、知らなかった…… 泣くと目元って赤くなって、しばらくそのまんまとはな。
「話してみそ? 何があったんでちゅか? 」
「何もないでちゅう! 変な勘違いでちゅ! 」
「師匠…… どうしたんですか 」
「そんな可哀想なものを見る目で見つめないで 」
お願い、その目で見られると…… また泣くぞ。
「宮田は泣く、理由もなく 」
「おい、なに詩みたいにまとめてんだ。もう一度言う、泣いてないから! 」
その後もしばらく、質問? 脅迫? にあったが、俺は屈せずに耐えた。えらいぜ!
お嬢さんと松柴さんが、授業に出ると同時に会話は終わった? のかな……
うまく誤魔化せたよな…… そうであってくれ〜




