126話 優しくすんなよぉ
百二十六話 「優しくすんなよぉ 」
言っちゃったよ…… どうしよ…… 正直、二度と関わらないように努力する予定だったのに、早速それが崩れた。
「これを、渡せばいいんだな 」
こんな薄っぺらい紙一枚を渡すのに、俺の精神エネルギー全部注ぐ必要があるとはな。
「そゆこと、まぁ頑張れよ 」
「師匠、ファイトです! 」
「もう泣かしちゃダメよ 」
「だね 」
「こっちが泣きそうになってるんで、その心配はいらないっすよ 」
もうここで泣いて、涙枯れ果てさせてから行こうかな……
「そんじゃ私が行くか? その場合、諸々の事情でモメてリアル格ゲーする可能性がある 」
「そして私の場合は、なんやかんや口論に発展する可能性があるので 」
「なんやかんや口論に発展しないかもしれないだろ? 」
なんやかんやってなんやねん…… だがたしかに、桜守が行くと生徒会の子達から嫌味的なこと言われたら、即反撃するかもしれん。
勝ったとはいえ、あの生徒会のことだ…… なんやかんや言ってくる可能性が…… なるほど、これがなんやかんやね。
「私と初絵は、最上級生と部長がいる場合は理由がないと無理だからね 」
「だいたい口論になる可能性があるのも、行きにくいのも、誰かさんが会長を泣かすから 」
「はぅ…… ちゃうもん…… ほんとはこっちが泣きたかったし、なんで泣いたのかな? 」
理由はわかるよ、でもさ…… まさか泣くとは思ってなかったんです。だけど、あの時の言葉はどれをとっても酷かったのもたしかだし…… うん、泣くね。
「よかったじゃない、一生女の子を泣かすなんてできないと思ってたけど、あんたでもそれができるって証明したんだし 」
「ふふっ…… 罪な男っすよね 」
一回は言ってみたかった…… できれば、こんな状況を期待したわけじゃないけど。
「ほんと罪だよな 」
「はぅ…… 行って…… きます 」
罪には罰を、そうか…… これが罰か。
重いぜ……
生徒会に向かう途中の階段を上る時の、一段一段がとても幅が広いように感じた。
歩幅も全然ない、何もかもかも重くなってる気がします。これが罰の力か…… 強すぎる。
生徒会室が見える、今度は苦しい…… 息をするのが辛いんだ。これが罰の意味…… 恐ろしい。
「はぁはぁ…… 着いちゃった 」
なんなら、苦しみのまま歩いてる方が良かったくらいに、このドアを開けたくない。
このドアの先には苦しみより、辛いのが待ってるんじゃないの? 開けていいのか…… このまま帰った場合を考えてみよう。
うんうん…… 明日のお昼前には、俺の灯し火が消えてるな。
「ごくっ…… 開ける…… 開けるぞ 」
手が震える…… 呼吸が速くなる…… なんていう霊○だ。もしくは、気的なやつを感じる。
俺みたいな栽培○ン…… いや、ヤムチ○の相棒のプー○ルには強すぎるぞ。
だがこれを乗り切れば、待っているのは贖罪と自由…… 耐えろ、この数分のやりとりで全て終わるんだ! 行くぞ!
俺は、ありったけの勇気を出して煉獄のドアを開ける。
「あの〜…… お忙しい中、大変恐縮なのですが…… 提出する書類を持参致しました 」
我ながら、なんで学生にここまで下に出るんだ? ってくらいに下から行ったぜ。
だって怖いんだもん、この生徒会の会長ズがさ。
「!? あなたは…… 」
会長さん…… とても驚いてますね、いきなり来てごめんなさい。そんで、他の役員の会長ズも勢ぞろいですか……
「あなたは対抗戦の時の雇われ警備員…… 」
「そ、そうです…… 雇われの身で図々しいのですが、この書類を受理してほしくて 」
好きで雇われんてじゃないのに、好きでこんなところいるわけじゃないのに、悲しみで潰れそう。
俺は…… 託された紙を…… 渡そうとしてーー
「近づくな、この下衆! 」
「はぅあ! げ、げすぅ…… な、な…… 」
なんだ、何が起きた? いや、言われた?
整理するんだ、たしか……下衆と言った、下衆…… 言われ慣れてるはずなのに、とてもとても心に突き刺さるのですが。
「喋るな! この鬼畜! 」
「おべばっ!! (※悲鳴です ) 」
き、鬼畜!? なんでだ? なぜ会長じゃなく、役員の子達に言われんだ…… どの道、ダメージ半端ねぇ。
落ち着け、耐えろ…… 耐えろ……
「あなた達…… 少し落ちつーー 」
「会長は下がって! この変態鬼畜に、指一本触れてはいけません! 」
「あばば…… (※力尽きる寸前です) 」
くっ…… ダメージ量が多すぎる…… 体勢を保てない、ダメだ…… 足元から崩れる。
俺は床に手をつき、なんとか意識を保ってる。
「「「「会長に近づくな下衆!」」」」
「ふぉっべば!! (※断末魔です) 」
もう無理…… 現実でここまで敵意を向けられるとは、これは慣れてないから耐え…… られん……
「はぁ…… 私は大丈夫です。あなた達も役員として、与えられた職務を全うしなくては 」
「会長…… しかし 」
「大丈夫です…… おそらく、部活の申請書類を提出しに来たのでしょうから 」
「部活の…… ですか? 」
「ええ…… 違いますか? 」
「あ…… あ…… あ…… 」
その通りです。なんの間違いもございません。間違っているのは、俺という存在なんです。
それにしてもダメージが凄すぎて、呂律が回らないよ。目だけはキョロキョロ動くのに。
「今のはこちらが失礼でした。要件を伺います 」
「うぇ? …… あぁ…… はい…… えっと 」
そうだ、俺にはこの書類を提出するという役目がある。これさえ終われば俺は自由にーー
書類を渡そうと会長さんに近ずくと
「ひっ …… ご、ごめんなさい 」
おい〜 なんだその可愛い反応はよ〜 やめてくれよ〜 もう完全に俺が悪役だろうがよぉ……
「会長!? やっぱりこの男…… 下衆が! すぐ離れろ! 」
「すみません、少し取り乱し…… !? 」
「あ…… うぅ…… うぐっ…… 」
ダメだ…… 耐えられん。
「なんで泣いて…… 」
「「「「泣いてますね 」」」」
「ご、ごめん…… うぅ…… なさい…… ぐすっ 」
涙が止まらねぇ…… 悲しさが俺を支配するよぉ、でもそれよりも…… 誰かを恐怖させた自分が、途轍もなく嫌になったよぉ。
そんなことで泣くほど、良い男じゃないのにぃ…… どうしてこうなったの?
「あの…… 泣かれては困るので、中に入ってください 」
「いえ…… ぐすっ…… この書類を…… うぅ…… うぅ 」
情け無いどころじゃないよね? ドン引きだよね? ごめんね。でも許してください…… 慣れてないんです、こういうの…… というか初です。
役員の子達は、まさか警備員が泣くとは思ってなかったのか、一歩引いた距離で様子を見てる。
泣かせたのはそっちだぞぅ……
「受け取ります、受け取りますので泣くのは…… 」
「ごめんなさい…… うぐっ、ぐすっ…… それじゃ…… ぐすっ…… 失礼しました 」
もう帰る…… おうちに帰りたい。
「あの…… よかったら使ってください 」
ハンカチティッシュをくださいました…… 優しくすんなよぉ…… ですます口調の面倒な奴でいてよぉ。
「あり…… うぅ…… ありがとうごじゃいます 」
頂いたティッシュを早速使って鼻水を出し、目から出てる液体を拭き取って、その場を離れる。
会長さんは気のせいだろか、心配そうに見送ってくれた。優しくすんなよぉ……
役員の子達も、最後の方は申し訳なさそうな顔で伺ってた。やめろよぉ、完膚なきまで叩き壊してくれた方が楽だよぉ……
宮田凛誉史上、類を見ない黒歴史が刻まれた。
月○蝶でも消せないな……




