122 帰ればいいのに
三章 百二十ニ話 「帰ればいいのに 」
逆ナン…… みたいなことをされて、速攻で何もなく終わり、少し時間が経つ。
「そろそろ帰る? もう歩けるでしょ 」
保健室の先生…… いやぁ…… エロい感じの人って、実在するんだなぁって思うわ。
歩ける…… か、たしかに多少は楽になってる。
「そうですね、ご迷惑をおかけしました。お言葉通り、帰らせていただきます 」
ベッドから、降りようとした瞬間ーー
保健室の扉が開き、見た目年齢12歳くらいの子が入ってくる。
「あっ師匠! 起きたんですね! 」
「あれ、てっきりくたばるパターンかと思った 」
「気分は? 帰れそう? 」
「宮田さん…… 体調は回復したんですか? 」
「あれ…… なんでみんないるの? もう19時過ぎてる、最終下校時刻ってやつなんじゃ 」
たしか18だか17時くらいだったよね? 不良になっちゃった?
対抗戦が16時くらいで、終わったとして17時前後…… 2時間くらい寝たのか。その間待ってるとか、暇なの? 帰りなさいよぉ。
「今日は校長先生から、ゲーム部の子達は許可をもらってるの。警備員さんが起きるまでいる! って、満場一致で迫るんだもの 」
「そりゃあ、我が部を救ってくれた恩人にお礼もしないで帰るのはできないです! それに師匠ですので! 」
「私は緋夏が残るって言うから 」
「ま、帰り道同じだし 」
「あのまま帰るのは…… ちょっと 」
「なに言ってんだか…… 別に帰ればいいのに 」
なんだろう…… 嬉し恥ずかしってやつかな? そんなことを言われる機会なんてないと思ってたから、耐性も無ければ、返しの言葉も出てこない。
「あれれ? 師匠、嬉しいんですか? 」
「は? 全然嬉しくありまっすぅえん! その程度の言葉は漫画で何回も味わってますぅ! 」
なんならもっと感動するやつだってあるぞ?
現に俺は平静を装うことができている。これが、何よりの証拠だ。
ふっ…… 平静とはなんぞ? ってくらい、声が上ずったけど。
「ぷっぷー、その程度じゃ他は騙せても弟子は騙せませんよ? 」
「緋夏…… あの大根役者の演技は私も見抜ける 」
「先輩…… 日常的に見抜けます 」
「演技の才能は皆無…… だよね 」
「大根…… まぁいっか、んじゃお待ちいただきありがとうございます。それでは帰りますか 」
「気をつけて帰りなさい。警備員さんもまた何かあれば、いつでも来てね 」
「なるべくは、お世話にならないように努めます 」
お医者さんって、患者さんにはこう言うんでしょう? 保健室の先生に適用されるかは、わからないけど。
「いい心がけ。さようなら 」
「先生、さようなら〜 」
「さいなら 」
「バカが大変お世話になりました 」
「さ、さようなら 」
「お世話になりましたっす 」
「うんうん、みんなさよなら〜 」
保健室を出てから、外に出る。今日はもう報告書の提出は忘れたことにしよう。明日、疲れたんすごめんねって、添えて提出すればいいのだ。
6月だからか、外は夜の7時になってるのにまだ明るい。ちょっと違うか…… 紅い夕焼けだ。
「すぅ〜…… はぁ〜…… 」
なんか久しぶりの外の空気って感じがする。
「久々のシャバの空気は美味しいか? 」
久野め…… 面白いじゃねーか、将来コンビ組むのもアリだな。
「よくわかったな、俺にとってこの学校は牢獄のような場所だってこと 」
本当にそう思うんだぞ? あの目つきの鋭い家系の校長が、女将さんを口説かなければ来ることもなかったからさ。
「てことは、師匠にとってゲーム部がここに来る、楽しみになってるんですか? 」
「どうしたら、そんなへんてこりんな答えに行き着く? 最適解は旅館から一歩も出ないが正解 」
もし叶うなら寮から一歩も出ないに変えたい。
そんなことをすれば…… 間違いなく、あの世にお使い頼まれるレベルだからできないが。
「それが部を救った人の言葉ですか 」
「まぁ…… 女将見習いからしたら、そこそこの答えなんじゃない? 」
「部を救った? 冗談だろ、そんなカッコイイもんじゃない。それに、二度とない奇跡的なやつだと思ってね? 俺にもわからいんだ、あれは 」
変な勘違いをされると困るからな…… 勘違い…… じゃないかもしれないけど、たぶんもうないよ。
「照れ隠しか? そんな隠さくても、もう全校生徒が見てる前でやったんだ。天才くん 」
「照れ隠すか! どう思われてもいいけど、この部のみんなには知っておいてもらう。ほんとにできないと思うから 」
「記憶喪失だもんな。ま、どっちでもいいよ…… だって、もうあんな機会がないからな 」
「ですね! 今度はFPS大会に向けての練習あるのみです! 」
「俺は見てるだけね 」
そうだ、ゲーム大会なんてのがあるんだった。
FPSはな〜、オフ専のストーリーばっかだから、絶対弱いと思う。ガチ勢からしたら。
「見てるだけでも、立ち回りの練習をしておけば援護をお願いできますから、ちゃんと練習しますよ? 」
「私と初絵だって猛特訓してるんだから、あんたもやる! 返事は? 」
「あまり力になれないとーー 」
「返事はそれ? 」
「グレネード持って、突っ込む覚悟で頑張ります 」
もうやだ、やっぱり女将さんの孫だ。
怖すぎて逆らえないんですけど!? もう見習いじゃないね、クローン的なやつだ。
「グッジョブ、師匠! それじゃみなさん、そろそろ帰りますか 」
「私と緋夏はあっちだから、じゃあな 」
「はい! お疲れ様でした! 」
「お疲れ…… 様です 」
「はいはい、お疲れお疲れ 」
「師匠! また明日 」
「へいへい…… またな 」
2回目のまた明日か…… そろそろ慣れておかないとな。俺にとってその言葉ってさ、今までは旅館の仕事関連のことしかなかったから、今いるこの場所と立場がとても変な感じに思うんだ。
お嬢さんとバスに乗って、帰る途中に紅い空は暗い青に変わって、夜の認識を与えてくれる。
こんな時間まで学校にいたなんて、お家帰ったら怒られる!
怒ってくれる人いないかな〜 そしたら、女将さんに学校なんて無理ですよ〜 って、泣きつくのに。
そんな不可能作戦を考えながら、寮に着いた。
「お疲れっす、お嬢さん 」
「あんたもね…… 」
あー…… 何か言いたそうだな。予想はつくけど、きっと望む答えはあげれない。なんせ俺自身が一番理解できないんだ、他人に理解させることができるわけない。
これも2回目の自己不信……
「俺も今日のことは、前と同じでわかんないっす。ただ…… 可能性として、記憶喪失になる前にできていたこと…… かもしれません 」
それすらも怪しいけど、今は下手に誤魔化すよりそれっぽいこと言った方が納得するかなと。
「よくわかったわね…… 私が聞こうとしてるって。気にしてもしょうがないけど、気になるよ 」
「俺もお嬢さんと同じか、それ以上に自分のことが気になり始めました。でも…… 今は、ゲーム大会のことを考えるべきっすね 」
せっかく運よく残ったんだから、桜守のご指導を受けて勝つのもありだと思う。第一、ゲームなら多少は俺も役に立てる気がするし。
「良いこと言うじゃない…… そうね、まぁどうせ何もわからないっすとかでしょ? もう気にしないことにするわ 」
「何か掴めたら教えますよ。お嬢さんは今日も、これから手伝いに行くんすか 」
俺も行こうか? いや、疲れた…… 今日はパスしようかな。
「そりゃ将来の仕事だもの、休みなんて勿体なくてできないわよ。あんたは来る? 」
「ほんと明るい将来が見えますね…… 今日はもう帰るっす。行きたいんですけど、ちょっとクタクタでして情け無いですが 」
「そんなことないよ頑張ってたから、まあ? 相変わらず、自分に甘い奴ねって思ったけどね 」
「アレは意図してやったわけじゃないですけど…… まぁ勝てたっぽいんで万事オッケーですよね 」
勝ちゃあいいんだよ、俺の実力じゃない…… それとも実力なのか? それが全然わからんな。
「続けられるからね! じゃあまた 」
「お疲れ様っす 」
「頑張ってくれてサンキュー 」
「そこまで頑張ってないですよ。おやすみっす 」
俺も行けば良かったかな、少し不安が俺の中に居座ってるから、誰かといた方が落ち着くんじゃ…… いつからそんな可愛いメンタルになった?
1人の方が落ち着くだろうが。




