表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すんません 、「俺」は、記憶ないっす  作者: 志奏
三章 「果つることなき想いは再びに」
122/418

120話 在りし日の片鱗 後編



三章 百二十話 「在りし日の片鱗 後編 」



すっげ…… とても自分の体でやってることとは思えないんですけど…… なんでこんなことができる? もしかして、二重人格的な?


違う…… もっと酷いもののように感じる。


「…… …… 」


問題が出たのはさっきだぞ、どうして問題の方を見ずにすらすらと書けるんだよ? 俺の知らない間に、どっかの先生に教えてもらったとか? ありえないな。


「なんで…… 」


あらま…… 会長さんは絶句ですか…… でもごめんね、俺の方が絶句だよ。


こりゃ勝敗は決した…… 会長の方はまだ、2つの科目のボードが残ってるが、俺の…… この体の方は、あと、数問で終わってしまう。


こんなことになるなら、会長に勝ってもらっても良かったかもしれない…… そう思うほど、今の光景や自分のしていることが気持ち悪い。


「…… …… 」


!!??


どうした?


俺の体さんは急に手を止める。


「なにを…… 」


会長さんも不思議そうな顔をしてるな。


「…… き、さ…… 」


!!!


驚いた…… あの時、不良達とのやりとりでも一切口を開かなかったのに、どうして今…… 喋ろうとしてんだよ。


「なん…… ですか…… 」


「きさ…… 貴様は…… 勝負して…… いると思っていた…… のか…… 」


あぁ! マジで気持ち悪りぃな…… なんだこの感覚、喋ってるのは俺なのに、何を言うつもりなのか意図が読めない。


「? 」


会長さんは唖然…… ですよね。俺もなにを言いたいのか、さっぱりです。


「れ…… か…… 劣化…… 種風情が…… 何をこだわる、他人に迎合と言ったが…… それは…… 貴様のほうだ。偏差値なぞに囚われ、満足している様は滑稽で憐憫を覚える 」


何を言ってらっしゃるのですか? お口さん。

貴様って…… 俺が言われるなら、わかるけど…… 言っちゃダメだろ。


「憐憫だと…… あなた如きに言われる覚えはない! それから…… 満足? そんなわけ…… 」


怒っちゃったよぉ! どうすんの!? 知らないよ俺! わかった、もう黙ってください。


「偏差値…… 己より、遥かに劣る物で構築された基準…… そんなものに一喜一憂することが、いかに愚かなことか…… それすらも理解できない貴様が…… 俺(僕)に勝ち負けを諭すだと? 分際を弁えろ、劣化種が 」


「何を言って…… 」


「わからないか…… 貴様は口をきいているつもりだろうが、一切届くことない。道を歩いている時に、いちいち下に転がっている砂利を気にするか? 砂利よりも存在の薄い劣化種を…… 視認することができると思うのか 」


「なん…… ですって…… 」


何言ってらっしゃるのですか? 劣化…… なに?

でも少しだけ…… 意識の共有なのか、見ているものに対する考え方が伝わる。


最悪な見方だよ…… 同化してるんだ。


周囲の物と生徒会長を…… いや、お嬢さんも桜守も誰もかれも全員が同等…… これも違う…… なにも感じることなく、ただ在るだけのものとして見てるんだ。


「この歌の歌詞…… 間違ってはいない。だが貴様が口づけを交わすのは、智天使でも世界の兄弟達にでもなく、俺(僕)の足先の地べたにこうべを垂れて…… 地に交わすのだ 」


え…… そうなの? 全然、第九の歌詞とか知らないんですけど…… 知ってるのか? って、なに自分の言動にツッコミ入れないといけないんだよ。


「いい加減に…… 私を…… 下に見るのを…… やめなさい 」


「下に…… 見るだと? 見る? 自惚れるな…… 劣化種如きにわざわざ目線を合わせて、確認する必要なんてない。歩む道には何もなく、歩みを阻害されることなく、ひたすら進むだけだ 」


「さっきから、劣化劣化と…… こちらのセリフだ。あなた如きが私を下に見るなと言っている!!!! 」


ごめんなさぃぃ!マジでどうしたらいいんすか!?

ったく…… なんだよ…… マジで。





会長の激昂は館内から騒がしさを奪う。


おそらく、この子はあまり感情的にならないんだよ。だからみんな驚いてる、館内全ての者に聞こえるほどの声で怒鳴る会長は…… 珍しく映るのかもしれない。


会長の激昂と共に、コーラス部は第九の合唱を止める。会長が勝つ、それを前提にした選曲…… 今の状況は? 予定とはだいぶ違うだろうな。


「なぜ止めた…… 勝利のファンファーレとして、用意していたのだろう? なら、今がまさに佳境…… 歌詞にある、勝利に向かう大英雄…… 体現しているだろうに、続けるがいい…… だが娘は楽園に辿りつくこなく、敗北に淘汰されるがな 」


「はぁはぁ…… 嘘…… 負けない…… ないのよ 」


「続けろと言ったはずだ…… 劣化種の響きでも、その歌…… 言葉を以って、俺(僕)の歩む道の礎になれ。しかし…… 貴様じゃ…… 砂利にすらならん 」


もうやだな…… 知らない考え方だ。知らない言葉の使い方だ。なのに、この考え方、この言葉、その一つ一つが正しいと思う自分がいる。


あぁ…… 最低の気分だ。


「負けない…… 違う…… 違うのよ…… 」


会長はもうダメだ。戦意が低迷してる…… 別の思考に支配され始めてるからか、敗北の恐怖? に。


「まだ勝ち負けの類だと思っているのか…… 弁えろ。勝つとかではない…… 在り続ける、進み続ける、ただそれだけ…… 理解ができるはずもないか…… 劣化種には言葉など無意味だったな 」


「わた…… 私は…… うぐっ…… うぅ…… 私は…… 」


やめてぇ!! 泣くのはなし! 今日2度目なんですけど!? もう見たくねぇ!


おそらく、この会長さんはそれこそ血の滲むような努力して、この結果にたどり着いたんだろう。それを一瞬で否定されたら、泣くわな。


でも仮に…… 泣くのが君でも、もうそのジャンルの顔はたくさんですよ。


マジでやめてくれ、俺の体さんよぉ…… 勝手に動くとか…… 夢遊病っすか、病院行けよそのまま。


「劣化種は吠え…… 崩れるのも易く…… いつも浅はかと感じる。憐憫と感じさせただけでも手柄と知れ…… 貴様の親も、貴様の知己も、歌い手達も、観ている者共も、すべからく劣化ーー 」


「…… ? 」


なんの前触れもなく、一瞬で感覚が戻りーー


「れ…… あ…… 」


突然すぎだろ…… 意識も感覚も完全に戻った。

でも、なんだよこれ…… 頭が熱い…… ダルい……

倒れたい…… 倒れれば楽になれる。


横になって寝たいよ…… 寝たいんだ。


足元から崩れる、今にも体全てが倒れそうだ。


「はぁ…… はぁ…… うっぷ…… 」


目頭が熱く、なんも感動してないのに、涙が出そうだよ。なんで急に戻った? あの時だって、お嬢さんの…… ビンタと蹴り…… (めちゃくちゃ痛かった)があって戻ったのに。


「?…… …… 何が 」


会長さんも言葉に詰まってるな…… 俺もだよ〜


「はぁはぁ…… はぁはぁ…… 」


響く第九の合唱も、館内のざわつきも、風の音すらも、不愉快に感じる。


この感覚はなんだ…… 前と同じ…… 引き出しの中を無理矢理漁って、中にあるものをが散乱してるかのような……


もう限界…… 倒れようかな…… そしたら寝れる……






「師匠! あとちょっとです! 弟子として、肩を貸してあげます! 」

「せっかく運良く解けてるのに、ここでバタンしたら運の無駄使いよ 」



2人…… 俺のよく知ってる2人が…… 肩に手を出し、支えてくれる。


「桜…… 守…… お嬢…… さん 」


「あっちの方は松柴さんと珠希に任せてあるので、師匠は弟子の肩を借りて、カッコよく決めちゃってください! 」


「むり…… 限界…… なんだけど 」


情けねーけど、マジで頭痛いし、熱いし、音や空気に敏感に反応するし、気持ち悪くてしょうがない。


「女の子が肩貸してやるんだから、しっかりしないさい…… ほら、あと少しなんだよ? 」


「え…… 」


お嬢さんと桜守連れられ、さっきまで俺の体さんが解いていたボードまで戻る。


そこには…… 残り一問を残して、全て解答されている。


「師匠…… これ…… 」

「実際、近くで見るとすごいわね 」


「はぁはぁ…… これは…… 」


本来なら、俺にできるわけがないが…… 残された一問…… 数学の問題、あるのは解に至るまでの式が書いてある。


それも難しい問題だと思う。それを日本語で丁寧に解説された状態で残してやがる…… こんなことなら、答え全部書けよ!その方が楽じゃね!?


意地悪だなぁ…… あっ、自分? をディスったのか。





だがそこに、採点する教師が駆け寄る。


「君達! ダメだよ…… 決まりなんだ、解答する生徒以外は席で見てなきゃ 」


「先生…… 私達は肩を貸してるだけです。何も言わないです! それに…… 見てください。ここまで書いているのに、何を教えるんです? 」


「…… しかし 」


「ほら、先輩が庇ってるのよ? 師匠なんでしょ、あと一歩…… あと少しだけ頑張れ 」


「厳しぃ…… 有給…… とれるかな…… 」


目を閉じちゃダメだ。2人の言う通り…… 少し手を動かせば終わる。


「にしても…… ここまで解説つける? 自分に甘すぎよ 」


「へへ…… 俺も…… よくわかんないっす…… 」


大学レベルの問題なんてわかるわけもないが、この途中までの式と経緯の解説…… これだけで、残ってる解を求めるのに必要なのは簡単な暗算だけ。


ここまでレベルを落としてくれれば、俺でも解けるよ…… なんせ足し算引き算の小学レベルまで落としてあるんだからさ。


手を出して数字を書こう…… 寝たいからさ。



ギリギリ保ってくれた…… 書けたよ。



「お疲れ様…… はい、倒れてどうぞ 」


「お言葉に…… 甘え…… ます…… ね 」




ーー 意識が遠のくときに見たのは、ボードの前で立ち尽くしている会長と、すんげぇ焦った顔の桜守。


館内からは大きな歓声が上がった気がする。いいのか? 君らの会長さんが負けたんだぞ。


死んぢゃうパティーンだったらどうしよう…… 目を開けたら、ちゃんとこの世界で目覚められる?


まだあの世は嫌だ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ