113話 すごい低いですよ
三章 百十三話 「すごい低いですよ 」
今度こそ吉報が届くようにしてくれ。知らせに来る先生の表情は相変わらずだから、読めないし。
これまた面白い感じだ…… 先生が寄ってくる、近づいてくるにつれて緊張が高まってきた。
そう。今度負ければ終わり、実質4回戦のうち2敗すれば、勝負に負けて廃部も決定だ。
「うぇ…… 吐きそうだ 」
全く記憶ないけど、学生時代とか手を挙げないで下向きながら周囲を見回すタイプだったな絶対。
「なんで吐くんですか! もしかして、体調悪くなってきたとか? 」
「いや、たぶん緊張しすぎて 」
「え、それってそんな症状でますか? 」
「緋夏、察してやれって。極度のヘタレ、チキンはこのくらいですぐにブルーになるんだ 」
「うるせ、仕方ないだろ、こんな機会初めてっていうか…… 生きてるうちに味わう予定は無かった 」
なんなら死んでからも味わう予定は無かったぞ。
「なんであんたが、そこまで緊張するのよ 」
「ほんと、なんでですかね…… 」
「やっぱり師匠は部活を好ーー 」
「そんなわきゃねぇだろ 」
あってたまるか! 俺にそんな良いキャラを期待されても困る。でも、居心地がいいのは…… 認めるかな。
「さて、結果が出たから知らせに来ました 」
来たか…… ねぇ、いくらで手をうってくれますでしょうか。
「すぅ〜 はぁ〜 …… お願いします 」
「なんで深呼吸? それは私がやるんでしょ 」
「すぅ〜 はぁ〜 緊張しますね! 」
「先輩までですか…… 」
「すぅ〜 はぁ〜 郷橋は勝つよ 」
「久野先輩もですか…… 」
「すぅ〜 はぁ〜 …… みーちゃんなら大丈夫だよ 」
「初絵も…… わかった!すぅ〜 はぁ〜 先生、お願いします! 」
「はは、面白いね。それじゃ結果だけどーー 」
きた…… やばい動悸が早くなるんですけど、あとネガティヴ思考になってきた。
最初の勝ちから変わりすぎだぞ、俺の精神。まぁ元々、すぐ揺らぐのは知ってるからそれはいい。
だけど、せめて心の中では勝ちをイメージしてやりたいな。
「結果は? 」
「まず、生徒会が 」
「あちらさんが? 」
どうせまた高得点だろ? それとも、ヤマが外れた的なやつで超低いとかですか? それでお願いします。
「81点 」
「ふぅ…… なるほど 」
またか…… なんでそんな点数ばっか取れるの? 先生と癒着してます? 教えてください、その手口。
「高いですね。さすが生徒会 」
「何言ってんだよ…… 高すぎだろ毎回 」
「でも師匠、それはやっぱり向こうも日々努力してるんですよ。それは素直に尊敬します 」
「人間が良すぎるな…… ほんとに弟子か? 」
「えへへ、今度は褒めてますね? 」
「全然、こりゃひがみって言うの 」
「素直じゃないですね〜 」
「知りすぎてるから大丈夫 」
俺にはできないよ。努力が報われるのは知ってる、だが相手が相手だと、それを認めてやるのが難しい時があるんだ。性格がクソですね。
「続いて、部活側なんだけど 」
「は、はい…… 」
あぁ…… 帰りたい。今すぐ全部ぶん投げて帰りたい。この言おうとしてる結果も知らないまま帰りたい。でも、それをするには少しこの部を知りすぎたかな? いやいや、そんな良いやつじゃないだろ!
じゃあ…… なんでだよ。
「部活側は…… 80点 」
「…… …… はは…… ぷはぁ…… 」
最初に心配してあげるのはお嬢さんだろ。でも、俺が最初に考えたのはーー
負け…… この対抗戦は俺達の負け…… この部活の終わりを告げたことに対する心配? だ。
小さいな俺は、自分が頑張ってるわけじゃないのに、結果だけを考えるなんてな。
負けちまった……
「…… 惜しい! あとちょっとでしたね! でも、さすが郷橋さんです。一点差ですよ! 一点差! 」
桜守が場を繋ごうとしてくれる。本来なら最年長の俺が空気を読むべきなんだけど、それがうまくできないのは、周知の通りです。マジですいません。
「ほんとすごいぞ郷橋。3年相手、しかも生徒会のメンバー相手に一点差は自慢できるな 」
もうなんだろ、桜守と久野って俺より人間できてるな…… 俺が不完全すぎるだけか。
「お嬢さん、さっすがっすね。これなら相手も、ヤベェ…… あいつは強敵だ! って思ってるでしょうね 」
「みーちゃん…… 」
松柴さんは言葉に詰まってるな。しょうがないよな、自分と重ねてるかもしれないし。
「先輩…… 初絵…… 」
「お嬢さん 」
「郷橋さん? 」
「郷橋 」
「みーちゃん 」
「ごめんなさい! 負けちゃいました! 大見得切ったのに、本当にごめんなさい! 」
「えぇ!? そんな謝らないでください! むしろ誇りましょ! ドヤ顔で一点差って言ってオーケー 」
「あぁ、善戦しすぎだ。これなら向こうも、勝ち誇った顔はできないって 」
「みーちゃんはすごいよ。一点なんて無いに等しいくらいだもん 」
複雑だ…… あのお嬢さんが謝ってる。あのお嬢さんが負けた。今まで一緒にいたけど、滅多にないからな、そんなの…… ここでは見たくなかった。
「ごめんね初絵、仇打てなかったね…… 私も負けちゃったよ 」
「ううん…… 1年も上の人に一点差まで迫るんだよ? 勝ってるのはみーちゃんだよ 」
「ごめんね。先輩達もほんとにーー 」
「郷橋さん! ここはですね、やってきたあとは頼む! でオケですよ 」
「先輩…… 」
「緋夏に任せておけば大丈夫だ。やれば出来るもんな〜 緋夏〜 かわつよだもんな〜 」
「はい! 絶対に勝ってくるので安心舐めプで、構えててください 」
「舐めプなんて、ゲーム部としてアウトだろ 」
俺はよくやる。それで負ける。すなわち超カッコ悪いるし、マナーもクソ…… ま、俺だし許して。
「はっ! そうでした…… 舐めプではなく、勝ち確と思って待っていてください 」
「桜守…… あのさ 」
言わない方がいい…… 場の空気読めないなら、まだしも…… 壊す恐れがあるぞこれは。
「行ってらっしゃいですか? 」
「いや…… わかるだろ。この対抗戦はもうーー 」
「まだです! 」
「え? 」
なんでだよ…… 負けだぞ。俺に番を回したら負け…… 知ってるだろ。なのになんで……
「仮に対抗戦に負けても、相手に圧勝した! って思わせたくありません! 負ける時も、全力で 」
「さすがだ、緋夏 」
「ごめんなさい、先輩 」
「私も…… ごめんなさい 」
「2人とも謝らないで! それから、可愛い後輩2人のリベンジマッチも兼ねてるので! 」
「先輩…… 惚れます 」
「カッコ…… イイです 」
「えっへん! 惚れても責任は取れないぜ! 」
たしかにカッコイイな…… 俺が女の子なら惚れ…… いや、見た目幼いって理由でないかもしれない。
俺サイテー カッコ悪い〜 知ってる〜 (自傷)
「お前の言う通りだ。圧勝って思われるより、辛勝って思われた方がいいな 」
「でしょ? 行ってきますね、師匠 」
「行ってら…… 師匠超えの弟子 」
「まだ超えてません〜 師匠は継続です 」
「おいおい、こんな低いハードルじゃ物足りないだろうが 」
たぶんだが、一段跳び箱より低いぞ俺のハードル。
「結構高いですよ、師匠は 」
「すごい低いですよ、この師匠は 」
すまないな…… 俺に学力とやらがあれば、応援にも熱を入れてやれるが、あいにくそういうのとは無縁だったからさ。
だけど…… それでも勝ってほしいと思う自分がいる。これには驚きだよ…… 負け確なんだ、無駄なことするなよってなるのが普通なのに、そうはならなかったんだ。
ったくよぉ…… どうして、こんな風になったんだか……
勝ってくれよ、部長さん。




