112話 冗談ですよん
三章 百十二話 「冗談ですよん 」
ちょっと不機嫌そうな、お嬢さんが頑張ってくれている。勝ってください…… 俺にはできないことです。勝って、繋げてやってください。
「ふぅ…… 」
「師匠、どうしました? 」
「え? 」
なんだよ、何もしてないぞ…… もしかして良からぬ、オーラでも出てましたか。だとしたら、それは素なので治らないかも。
「お前、今しんどそうな顔と顔と顔してた 」
「困ったな、俺には顔しかないんだねっ 」
あれれ? いつからそんなイケメソになってしまったのか…… あっ、元からか。
「え…… お前にルックスなんてあったの? 疲れたとか、嫌だなって感じの方だ 」
全否定以上だと!? ルックス無しって…… 一応、人間なんですけど。
「師匠、溜め息ついてたので…… ごめんなさい。そこまで負担に感じさせてたなんて 」
バカか俺は、なーに高校生に気を使わせてんだよ。
それにしてもよく気が回るな、将来良いお嫁さん的なのになれるな、たぶん。
負担…… か…… 違う、もう負けたら後がないっていうのに対する緊張? なんにせよ負担ではない。
思考も勝ち負けに依存しつつあったから、行われること一つ一つに、どうも神経使っちゃってね。
「別に負担はない。あるとすれば、早く帰りてぇって願望があるくらい 」
「今それ言います!? 郷橋さん、頑張ってくれてるんですよ? 」
「ま、負担なんて感じるほど繊細じゃないよな 」
「その通りだ。第一、俺に回って来たら負けるよ? って、先刻言ってるから大丈夫 」
つまり、仮に回って来て負けても怒るのは無しで。
「やっぱり…… 勝つべき…… ぐすっ…… でした 」
「あーあ、まーた抉ったぞ? 」
「師匠〜 何してるんですかぁ 」
「もっちろん冗談ですよん〜 松柴さんは、お嬢さんが勝った時の為に笑って迎える準備しなきゃ 」
くそぅ! リアルでの選択肢がここまで難しいとは…… なんでフキダシも、心理描写もないの?
あれば彼女の1人くらい余裕で…… 別に3次元なんかに興味ねぇし!
ーー 15分が過ぎたのか、試合の終了を告げる先生が舞台の2人に向かっている。
「はい、お疲れ様。同じように採点の結果は、後で報せに行くから待機してて 」
「は、はい! 」
「はい 」
終わったのかな? なんだろう…… 集中してたせいかな、一瞬で終わっちゃったな。
「お疲れ様でした。結果、楽しみですね 」
生徒会長含めて、そのすまし顔が崩れるんだから。
絶対に勝ってるはず、調子も良かったし、何より負けられない理由がある。
「お疲れ様です。負けてる結果が楽しみとは…… マゾヒストでしょうか 」
「あはは…… それって、そっちの方が負ける奴の台詞みたいですよ 」
負けた後、唖然として立ち直れないタイプね。
「あり得ないです。初戦の敗因は、単にこちらの傲慢さが招いたのものなので仕方がないですが、もうそんな奇跡も起きないでしょう 」
「奇跡じゃなくて実力です。そんなこと言うなんて、すごい小物みたいだな〜 」
うーん…… どうも皮肉が出ちゃうな。廃部に対しての怒りと、初絵の仇を討つっていうのが混合してるかな。
「横柄な2年ですね。そのままだと、先行きが不安になってしまいます 」
「ご心配なく、生徒会さん限定ですので 」
仮にも女将候補だから、誰に対しても良い顔したいけど、まだ学生だし! それに…… たぶん、おばあちゃんだったら怒鳴り散らすと思うし。
「ふっ…… 先程の言葉を返します。結果、楽しみですね 」
「そうですね 」
よし! これでさらに負けられないぞ私!
ーー 無事終わったのか、お嬢さんがこっちに戻ってくる。
「先輩〜 疲れたました〜 」
「お疲れ様です! やるぞオーラが出てたらしいので、大丈夫です! 」
「やるぞオーラ? 」
「うぉっえっほ! ゴホッ! ゲホッ! 」
桜守! 余計なこと言うなよ〜 公衆の面前で、しかも女子生徒多数の場所で公開拷問されろと?
「乙〜 掴みはバッチリか? 郷橋 」
「ありがとうございます! イケてると思います 」
「みーちゃん…… お疲れ様 」
「ありがと! 絶対勝ってるよ 」
「うん。知ってる 」
「お疲れ様っす。その感じだと、余裕で勝ってますね 」
お嬢さんは大丈夫そうだな。逆に心配するくらい、いつも変わらない。俺にも教えてくださいよ、その心構え的なやつ。
「ありがと。余裕に決まってるでしょ 」
「ですよね。あっそうだ 」
「なによ 」
「会長ズは、どうでしか? 」
対抗戦よりも気になってきたんだよね。だって、久野も松柴さんも同じこと言うだ、どこまで会長色になってるのかが気になってさ。
「この人には絶対に負けれない! って感じ 」
「おぉ…… 口調はどうでしたか 」
「「「ですます口調の面倒な(人、奴ら、タイプ) かな 」」」
おい、3人とも息ぴったりだと!? 打ち合わせしたな? それとも、マジで奇跡でも起きましたか。
「あらら、これで3人目もですます口調か…… 桜守、お前が終わった後も聞かせてくれ 」
ここまで来たら、とことん追求してやる。
ていうか、面白いかもしれない。
「師匠も郷橋さんも余裕ですね…… 出番近くなってきたら、緊張してきました〜 」
「しっかりしてくれ部長さん。お前にそれは…… なんか似合わないぞ 」
「それって…… 褒めてます? 」
「うーん…… 半分くらい? 」
「えぇ…… 半分ですか 」
緊張するのは悪いことじゃないからな。俺みたいに、緊張する機会がないから戸惑うのと違って、お前は今後の人生で経験するだろう?
でも、今は…… いつものアホだかバカだかの桜守の方が、安心する。
俺が安心するんじゃないよ? あくまでも、他の部員がね…… そう、部員がね。
「おっ、来たぞ 」
「来ましたね 」
「少しだけ、緊張するな〜 」
「うん…… 私も少し 」
「大丈夫っす。勝ってますよ 」
「当たり前じゃない 」
俺にとって、今まではあまりしてこなかった緊張を、連続で…… しかも、とても長く緊張させる。
その原因の勝敗の報せを伝えに、先生がやって来る。もう負けの報せはいらないですよ。
違うか…… お嬢さんの負けた姿を見るのが嫌だ。
もちろん、他の子が負けるのも嫌だけど…… それとは少しだけ異なる。
なんていうか、負けの後の方が怖いんだよな。




