105話 学んじゃダメよん
三章 百五話 「学んじゃダメよん 」
久野は立ち上がり、舞台下の前まで行く。
その姿には緊張はない…… なわけがなく、ちゃんと緊張してる顔だった。みんなに見せないようにしたつもりだろうけど、わかりやすいんだよ。
「あれが勝負のテストってやつか? 」
「たぶんそうです 」
テスト勝負って言うから、机に向かってペンを武器にしてやると思ってたのに、そこに出てきたのは白いボードにテスト用紙を貼り付けてあるものが出てくる。
なにあれ、立ったまま書けってか? 疲れるじゃないかよ。
「お行儀悪くね 」
「アレを考えた当時の人は、ボードを倒さないように加減しながら思考することも技量として、あの様にしたんだとか 」
「別にいらなくね? テストにそんなことまで考えさせられたら、実力出せないかもしれない 」
「一つのことのみを考えるのではなく、他のことにも配慮するのが大事ってやつですよ 」
「文句を言ってもしょうがないでしょ。アンタが考えた人に会いに行って、ルールを変えてもらってきたら? 」
「みーちゃん、それはちょっと…… 」
ありがとう松柴さん。そうだよ、お嬢さんの言ってることをやろうとすると…… あの世まで会いに行けってことですよね。
「この勝負が終わった後に、仏壇の前で言ってみます 」
「祟れると嫌なので、師匠のソロプレイでお願いしますよ 」
「多目的なルールだな。よし、頑張れ 」
俺も嫌だ。寝てる時に年寄りの霊なんぞが、横に居たらその場で同じ霊になるかもしれんほどに、ビビるわ。
「変わり身の術ですか、極意を教えてください 」
「もうちょい、妥協できる性格にならんと無理だ。社会に出て、同調性の強制を学んだら教えてやる 」
「なんか…… ブラックな技ですね 」
「あぁ、無糖より苦いよ 」
それにお前はこんなのを覚えなくても、ちゃんと正面から意見するだろ? その方がいいぞ。逆に俺が教えてほしいくらいだし。
久野と一緒に出てきたのは、やっぱり顔がみんな同じ様な、お利口さんタイプ。久瀬谷さんに似てるかも……
いや、あの子はそれだけじゃないんだよな、もう会ってないからうろ覚えだけど。
「やっぱり会長以外もお勉強できるよな 」
「残念ながらそうです。どの子も、その年度で優秀かつ生活態度も良い生徒が推薦されるので 」
「ハンデの一つくらほしいところだ 」
それってさ〜 セコくない? こっちなんて優秀? かどうかもわからないんだよ? なのに、そっちのパーティーはどれも能力値高いとか…… ズルいお。
「一応、科目はこっちが選べるのでそれなりのハンデのはずです 」
「もうちょいオマケが付いてないと 」
科目が選べるって言っても、どうせあちらさんは何でも得意科目なんでしょ? ズルいお。
「大丈夫です! 珠希も私達も、得意科目なら勝てる自信ありますよ 」
「ほんとかよ 」
「なに、私達が得意なだけだと不安とでも? 随分言ってくれるわね、ノー勉くん 」
「私…… も、得意科目なら…… 」
「いっやぁ! 超余裕で勝てるって確信してますので、大丈夫っす 」
ノー勉くんが文句を言うのはダメだよね。そもそも始まったら、信じるしか選択肢ないし。
「おぉ…… やっぱり変わり身の術です 」
「学んじゃダメよん 」
ーー 舞台下の2人
「今日はよろしく 」
「こちらこそよろしくお願いします 」
「お前、後輩だよな 」
上履きの色が2年のやつだから。
「はい、2年です 」
「そっか、あの会長だと大変だろ 」
私なら、すぐにケンカして辞めると思う。
「大変とは? とても素晴らしい品行と、誰からも慕われる人柄の持ち主だと思っていますが 」
「それは眼科で治らないかもしれないから、総合病院行った方がいいと思う 」
どんな洗脳されてんだか…… 私みたいに、ほんとうにかわいい緋夏を愛してるのと違って、言わされてる感があるぞ?
「ふふっ、会長は害を成す者に対しては厳しいですから。それと負けてることを自覚してない人にも、厳しく映るでしょう 」
「それそれ、何が害なんだか…… 先輩として忠告してやる。盲目的に信じるのは大概にしろ、じゃないと転んでも助けてくれないぞ誰も 」
「受けるべき助言をしてもらう先輩は、こちらが選びます。あなたからは必要ないです 」
「生意気な後輩には、勝って教えてやる 」
あっぶねぇ…… これが同い年だったら、□△□□の格コンボぶっ放すところだったかも。
「それでは先に知らせてもらっているので、ゲーム部側の優先とし、科目は史学…… 日本史での試合で問題ないですね? 」
「問題ないです 」
「問題ありません 」
「それでは、初めてください 」
「やるか…… うっし! 」
日本史ならイケる!…… はずだ。
なんせこれ以外だと、たぶん生徒会と渡り合うことができないくらいの平均点だったよ。そんなに酷い点数じゃないんだけど。
ーー 2人とも、それぞれの配置にて解答してる
「始まったな。時間ってどのくらいだっけか 」
「1人につき15分です。解答数の多い方、正解率の高い方が勝利ですね 」
「わかりやすいな 」
でも、あのテストの内容はわからないな俺には。
たぶん立ったまま動かないと思う。
「でも会長戦だけは30分です 」
「え、え? なんで? 」
嘘でしょ? 30分も立ったままでいろと? しかも、それはその間…… この館内の生徒全員に晒されてしまうのですが。
「だって科目数が多いんですもん。3科目ですよ? 」
「あぁ…… そういえば、そんなこと言ってたな 」
ま、まぁ? どうせ俺には関係ないよね? 勝ってくれると信じています! お願いします!
「先輩…… 大丈夫ですよね 」
「先輩は勝つと思うよ。だって、久野先輩だよ? 」
「うん、負けるのが想像できないね 」
「えっへん! 珠希はカッコいいですから 」
「なんでお前が得意げなんだよ 」
「友達が信用されてるんですよ? 嬉しいに決まってるじゃないですか! 」
「そんなもんか? 」
「そんなもんなんです 」
「そっか…… そりゃあ良かったな 」
「はい! 頑張れ〜珠希〜 ! 」
「あんま大声で応援するなって、注目される 」
「ダメです! 師匠もして! 」
「が、頑張れ〜…… れ〜 」
「もっと声出してください! 負けちゃいますよ 」
「頑張れ〜!勝ってくださいお願いします! 」
恥ずかしい! 応援なんてしたことないから、わかんないよ! マジで恥ずかしい…… だって、俺と桜守だけだから誰の声だかすぐバレる。
ん? なんか教師がこっち来るんだけど…… 問題発生? 試合中止? ありがとうございます。
「あの…… ちょっといいかい? 」
「は、はい…… どうしました 」
「もう少し、静かにしてくれますか? 」
「…… …… ごめんなさい 」
桜守こっち向けや! なんでそっち向いてんの!?
俺にだけ怒られろと? 嫌です。道連れです。
ていうか、道連れにしたよね? 俺のこと。あれ…… 落ちたの俺だけじゃね?
これだから、普段やらないことはするべきじゃない。絶対ろくでもないことになる。これはもう真理に近いですね。
普段やらないことか…… 最近多すぎて、どれがどれだかわからなくなってきた。頑張れなんて、胸の内で叫ぶ方がいいぞ絶対。
でも桜守…… 変わり身…… できたじゃん。




