104 足滑らせんなよ
三章 百四話 「足滑らせんなよ 」
さて、こっちが土下座して許してもらうか、向こうが土下座して許してあげるになるか…… 向こうは負けても土下座なんてしないだろうな。
そもそも勝てるの? すげぇ自信満々な感じでしたよ、あの会長。他の生徒会メンバーも会長がいるからオーラを漂わせてる様な気もするし。
対抗戦か…… どんな風に試合? するんだろう。
「私達も席に座りましょうか 」
桜守の表情もいつもの明るい感じから、少し緊張した表情になった。似合わねぇ。
「へいへい 」
「なんか師匠は全然緊張してなさそうですね 」
「いや俺だって緊張してるよ。ま、俺の場合緊張というよりアウェー感に押し潰されそうなんだよな」
だってさ〜…… 俺はたぶん何もしないから、ここの観戦してる生徒達には、何あの人? みたいに映るはずなんだよね。
「アウェー感? 」
「大丈夫でしょ。だってアンタはいつも旅館で仕事してた時は、アウェーに耐えてるじゃない 」
「えぇ!? 俺は仕事でアウェーなんて思ったことないっすよ! 」
どういうこと? どんな風に見られてるの俺って……
「今日はどんなバカをやらかすか…… そんなことを思いながら見てるもの 」
「マジですか!? そんな失敗してたなんて…… 」
マジなら落ち込みそう…… なんなら、もう落ち込んできたかも。
「冗談よ。ふふ…… からかい甲斐があることで 」
「郷橋さんって、結構お手玉得意でしょ? 」
「お手玉ですか? ある男に対してはそうかもです 」
「すぐ壊れる玉なんで、やめてくださいよ〜 」
やめてね? ほんと落ち込みそうになったよ。
そんな手練手管は、早々に忘れてくださいお嬢さん。
少し緊張はほぐれたのか、さっきより柔らかい表情になりながら席に座る。俺は、さっきよりも疲れたけど。
体育館の舞台の上で視線浴びながら、恥ずかしいってなると思ってたけど、普通に舞台下なんだな。
そこは良かったと思う。あんなところでやったら、スカート見え…… ではなく、緊張して足がすくみそうになる。俺は出ないんだけどね。
おっ、何の先生か知らんが、こっちと生徒会の席の方にそれぞれ来る。
「それじゃ、学力対抗戦のルールを説明しに来たけど、大丈夫かな? 」
「はい、何回か見たことあります。でも自分達がやるのは初めてなんですよね 」
あぁ、ルール説明か…… たしか科目別でそれぞれの選手? 生徒? が模擬テストみたいなの受けるんだっけか。
それで、対戦科目はこっち側に選択する権利がある。ここはアドバンテージになるな、好きな科目で挑めば勝ち筋太いだろうから。
「えっと、こっちの大将さんは君でいいのかな? 」
「あ、私じゃないです。ししょ…… 警備員の宮田さんがやります 」
「えっ、あぁ警備員さんがやるのか 」
「はは…… まぁ、そうみたいです 」
そりゃそうだろ? あっちの大将は会長…… つまり学校内最高偏差値の子だよ? 捨ての大将は、最も力になれない俺がやるべきだ。
それに出番がないはずなので、変な緊張もしなくて済むし…… と、思ってたけど緊張はするな。
「宮田さんはルール大丈夫? 」
「大体のことは、この子達から聞いてるので大丈夫です。知りたいのは、どんな内容のものが出題されるのか教えてほしいですね 」
「それはダメだよ。なんせこっちも、今日早朝から考えて来たんだからさ 」
「ですよね〜…… 八百長したかったっす 」
先生相手だからな、居酒屋で奢るくらいは覚悟してたのに、アッサリ拒否されちった。当たり前か。
「師匠、私達を信じてます? 」
「いやほらあれだよ運良く口滑らしてくれたら、お前らもラッキーってならない? 」
「お前バカだろ 」
「先輩、今に始まったことじゃないんです 」
「だね。まさかこんなところでもお披露目するとは、思ってなかったかな…… さすがです 」
「ほら、みんなにも言われちゃってますよ 」
「そんなダメだった? 」
「ダメダメです 」
「マジか…… そりゃ反省だ 」
え〜 だって、分かれば勝てるじゃん? 問題さえ分かれば楽勝だろ? 俺は分かっても、何も書けないから意味ないけど。
「ず、随分余裕があるね君達…… 」
「リラックスして臨むもんですからね 」
「それ、今思いつきませんでした? 」
「勘が冴えてますね部長殿。その調子で、軽く勝っちゃえって 」
「勘は頼りにできないですよ。この対抗戦 」
「あらま、尚更に俺は力になれないことが判明しました 」
俺に番が回って来たら、テレビとかで見た知識を全て思い出し、己の勘を信じて戦おう! って思ってたのな〜 超残念。あっ…… クイズ番組見てないか。
一通りのルールをおさらいして、先生は舞台前にある、教師達の集まりみたいなところに行ってしまう。
あそこまでメタル○アできれば、きっと今日出る問題を持ち帰ることができる。でも俺はスネー○じゃないから即バレてお終いになる。
「あっ、校長先生まで来ましたね 」
「珍しいの? 」
ほんとだ…… 自分でも孫の晴れ姿でも見に来たのか? おたくのお孫さんは相変わらずですよ。
「珍しいですよ。普通は2、3人の先生達しか集まりません 」
「へ〜…… なら頑張り甲斐があるな。校長先生に活躍を見せてやれ、負けても部活存続してくれたかもよ? 」
「え!? マジですか! 」
「ごめん、望み薄だったわ 」
あのバァさんには再三お願いしたんだ。それでも頑なに拒んだ。嫌われる、恨まれる、蔑まされるは別にいいんだけどね。
妥協点すら、あのバァさんは探さないし、あっても受け入れないだろう。
「否定早! 」
「感情論に左右されるなら、こんなところに俺は来なかったからな 」
「な、なるほど。つまりは…… なるほど 」
「はい、本音は? 」
「全然わかんないです 」
「簡単に言うと、勝てばオケってこと 」
さらに言うと、絶対に俺まで番回すなよ? そんなことになったら白紙で出す醜態と、それに伴うこの会場全域から嘲笑を聞くことになるんで。
「めっちゃわかりました! 」
「だろ 」
この対抗戦とやらは実に単純だ。勝てば官軍、負ければ賊軍を明確にしてる。勝った方の要求は受け入れられ、負けた方はそれに従う…… あの親子の好きそうなルールだわ。
そして、また教師がこっちに来る。
「初めます。最初は誰からですか? 」
「え…… ぶ、部長さん、誰から行くの? 」
やべ、その辺全然聞いてなかったわ。さすがのだらしなさを晒したな。でも事前に教えてくれてもよくない? 聞かない俺が悪いな、これは。
「ふふーん、最初はーー 」
「私だよ 」
そう言って立ち上がったのは、さっきまで会長とリアルファイトしそうになって、でもそうなればお前が勝てるんじゃないか? って思った子だ。
「久野…… 行ってら 」
「珠希、ファイトです! 」
「先輩頑張れ! 」
「大丈夫、勝てますよ 」
「めっちゃ勇気出るわ。んじゃ、初戦は圧勝して後輩にバトンタッチしてやるか 」
最初は久野か、良いチョイスだ。緊張してないだろ? とは言わないが、しててもそれに影響される奴じゃないし、何より勝ってくれそう。
「頑張れ…… 」
「ん? なんて? 」
「足滑らせんなよ 」
お前はラノベの主人公かよ。ん、なんて? だと? 恥ずかしいから、二度目なんか言いまちぇん。
「どんな送る言葉だよ 」
「俺なりの頑張れってこと 」
「大丈夫か頭…… 」
「早く行けって 」
大丈夫なわけないだろ。咄嗟に小声で頑張れって…… こんなタイプじゃないよ、俺は。
でも、それでも、それが言葉に出たんだ。てことは、本心からだと思う。
だから大丈夫じゃないんだ。俺はそんなこと思ったことがないし、思うとも考えなかった。
悪くないな…… これもおかしいかな。




