102話 やらん、恥ずい、死ぬる
三章 百ニ話 「やらん、恥ずい、死ぬる 」
向かうは体育館、しかし心は我が家に向かってます。それくらいに行くのが嫌だ。
でも今更ここで、ダダをこねても元々最低ラインの俺に対する評価がさらに落ちて、地中深くに限界突破してしまう。
それで済むならいいけど、俺の肉体まで地中深く埋められる可能性があるから逆らえないのだ。
「聞くべきじゃないと思うけど…… 大丈夫そうか? 」
「何を今更…… 期間は少なかったけど、やることはやったし、これで負けたらそこまで 」
「あっさりしてるな。絶対負けない! とか言うかと思ってた 」
ゲームとかなら、マジなトーンで勝つとか言ってるからさ。
「負けたくはないけど、それをあまり前面に押し出すと後輩達に負担かかるだろ 」
たしかに…… お嬢さんがそういうの聞くと、必ず勝つ! って感じをーー
いや、勝たなきゃダメって感じになるな。
松柴さんなんかは、ストレス抱えてそれを溜め込んで、自分を追い詰めるかもしれない。
「さっすが先輩、ちゃんと考えてるのな 」
「当たり前だ。やっと来てくれた後輩だからさ 」
「そのくらい優しくしてくださいよ。俺にとっても先輩じゃないですか? 」
俺の方が年齢的に老朽化はしてるけど、この部においては覆らない後輩だぞ。
「よちよち、体育館まであとちょっとでちゅよ〜 」
「これからも厳しくご指導していただけると嬉しいです 」
「よくできました 」
俺の扱いを理解し始めたな、こいつ。
体育館近くに来ると桜守達が待っていた。
「珠希、師匠! こっちですよ〜 」
「緋夏〜 頑張ろうな〜 」
あれ? 俺にも頑張ろうな〜 はないの? いらないけどさ。
「帰る! ってバックれるかと思ってたわ 」
「そうしたかったすよ。でも、ゲームしてたら時間になってたんです 」
「帰った時点で、女将候補と女将による教育的指導とそのまんまの拷問が待ってから、良かったわね 」
「感無量でーす 」
もう二度とごめんですよ。あんな怖い…… というか、恐怖? は一回でたくさん。
しかも冤罪だったし…… うるうる……
「ズルいですよ師匠! なんのゲームしてたんですか? 」
「お前が絶賛プレイ中のやつだ。久野は3面までクリアしたぞ 」
「珠希! 」
「てへっ! つい熱が入ってさ 」
熱が入る? そんな優しいレベルじゃないだろ…… 床パーンしてたよね?
「まさか…… 勝てたんですか? 深淵の監○者に 」
「クソ強かった…… 勝った瞬間、泣いた 」
「私も勝たなきゃ! 今からやりにーー 」
「いやいや先輩、今から勝たなきゃは生徒会に言ってあげてください 」
「私達も…… 頑張りますの…… で 」
「あぅ! そうでした…… なら、勝ってから部室に戻ってやりましょう! 」
「だな 」
「はい! 」
「は、はい 」
「そうだ! 景気付けに円陣を組みますか! 」
「お、いいなそれ 」
「やりましょう! 先輩 」
「ちょっと恥ずかしいです 」
何? どこの熱血ドラマ? そんなのやるの初めて生で見たよ。
みんな肩を並べて、組み、声を出し合う。
「師匠は? 」
いきなり振るなよ…… 視線浴びるだろ。
「やらん、恥ずい、死ぬる 」
誰がやるか! それだけは絶対にやりたくない!
なんでかって? さすがに、肩を組むのはちょっと……
「緋夏、そいつに言ってもやるわけないって 」
「なら、せめて応援の言葉を! 」
「言葉? そうだな…… 何回も何回も言ってるけど、まぁ頑張ってくださいな 」
無責任? そんなわけないだろ、俺には責任なんてないし…… あるのは、サボりの場を守る! と……それからーー
なんでだろ…… 校長との会話を思い出してしまう。
《いつか変わることを考えてる》
《変わってほしいと?》
《さぁ…… どうだろうね》
ーー なんでこんな時に会話がよぎる? さっぱりだな。
「軽っ! もうちょっとなんかほしいです! 」
「軽いのは良いことだぞ? 負けてもいいって思えるからな 」
「師匠…… 空気読んでください 」
「そいつは空気読めないってさ 」
「アンタ最低…… それから最低 」
「ほんとク…… 空気を読むのは大人としての礼儀です 」
えぇ…… 俺なりに空気読んだつもりなんだけどな…… やっぱり読めないみたいです。
「えっと…… そうだな〜…… うーん…… あっ! 美味しいケーキ買ってあげる 」
「アンタねぇ…… 全く 」
「ぷっ!あははは! さすがです師匠! なんか、変なやる気が出てきましたよ 」
「1人につき1ホールで間違いないよな? 」
「私…… モンブランがいいです 」
1人1ホール!? どうしよう…… 破産手続きって、どのくらい時間かかるかな。
「せめて…… ちょい高のカットを2つずつくらいで、許してください 」
「「「「無理!!! 」」」」
「ちょっと、お金下ろしてきていいですか…… 」
向かう先に待つのは、観覧する大勢の生徒達には楽しく映る観劇のような余興。
しかし俺達…… いや、俺にとってはひたすらに長く続く、鬱内容のオペラの舞台を観に行く…… 行かされる感覚だ。
でもまだ俺は、どうせ多いって言っても全校生徒の半分くらいだろ? って思っていた。
だが…… その期待は早々に打ち砕かれることになる。




