異世界転移したらしい
「こちらのレントゲンをご覧下さい。以前ここに腫瘍があったのを憶えていますか?」
「え、あ、はい、一番大きな末期の……」
「ええ、それです。見ての通り影も形もありません。他の腫瘍もですね、全部異世界転移しています」
「……はあ? 異世界、転移ですか?」
「そうです。異世界転移です。先日子供をかばってぶつかったというトラックがイスズエルフだったんじゃないですか? 他のトラックでも度々起こるのですが、あれだと一発らしいですよ」
「えっと、すみません、そういったことはよく憶えていないもので」
「ははは、つまりですね、運が良かったということですよ。
以前の診断時にもご説明しましたが、この手の腫瘍に転移は付きものでしてね。
転移してしまうからこそ悪性腫瘍というのは怖いのですが、特定の条件下で暴走トラックとぶつかるとですね、稀によく異世界への転移現象がおこるのですよ」
「異世界へですか。……それはつまり?」
「もう腫瘍は全部なくなった、完治した、といっていいでしょう」
「本当ですか!?」
「ええ。本当です。もう大丈夫ですよ」
「やったー! 治った、治ったぞー!」
「ははは、良かったですねぇ。
でもここは病院なので、もう少しお静かにお願いしますね」
「あ、すみません。つい嬉しくて。
――あの、少し疑問に思ったのですが」
「はい、なんでしょう?」
「そんなに簡単に腫瘍が治るのなら、他の同じような患者もトラックにぶつかれば転移して治るんじゃないんですか?」
「ああ、それがですね。先ほども少し触れましたとおり、特定の条件下、というのがくせ者でして。
事故に遭遇するのが全くの偶然であることが絶対の条件で、他にはなんらかの理由で暴走したトラックであることや、致死威力であること、見知らぬ誰かをかばうことなども重要条件であったりと、そうそう狙って出来ることではないのですよ。決して簡単なことなどではないのです」
「はあー、奇跡なんですね」
「そうですね。実に奇跡的なことなのです。轢かれそうになった子供も助かってますし、本当に奇跡ですね」
「でも異世界転移するなら、全身で異世界へ行ってチートや魔法で治すとかも出来たんですかね?」
「あははは、どうなんでしょうね?
私も異世界は詳しくはないのですが、少なくとも『転移』という単語は医学における腫瘍『転移』が最も模範的な使用例でして。
物理的に物が移動する、位置を変えるといった意味合いの場合ですと、医療でも骨折の種類にある『転位』が正しいんじゃないでしょうか?
ですので、全身で異世界に行くのでしたらトラックでの異世界『転移』は無理で、異世界『転位』出来る他の手段が必要になるのでは? と思いますね。
――ああ、ですが伝説のトラック転生でしたらもしかするかもしれませんが」
「なるほどー。
ところでこの全身ギブスはいつとれますか?」
「奇跡的に全て転位骨折で済んでますので、半年もあれば取れると思いますよ。ただ今はまだ麻酔が効いてますが、切れると地獄ですよ」
「トラック事故でも転位は起こるんですねえ」
保険適用されました




