九四 立候補には裏がある
「えっと・・・」
その声の主・ユーミさんの立候補にワシはちょっと困った。
だって、ねぇ・・・他の人が付いてきたら玉の中に帰れないじゃん。
「ここからずっと道なりなんぢゃろ?道案内も何もないと思うんぢゃが・・・」
ナイス、タマキ!ナイス、助け舟!
たしかにそうだ。ずっと道なりなら案内なんていらない。
「道案内というよりは、修行・・・なのです。先ほどの会話内容では、さっきの技をミケ殿に教えるのでしょう?それを私にも教えてほしいのです。そちらがこちらと共に来てもらえない以上、ついて行くしか教わる術がありません。その対価として道中の魔物とかは引き受けますがどうですか?」
道案内は口実だったみたいなんだけど、確固たる意志を持ってのお願いである。
・・・これは断りにくいなぁ・・・。
「お主、近衛隊長ぢゃろ?おいそれと国王の傍を離れてよいのかの?」
「大丈夫でしょう。頭・・・いえ、陛下の方が私より強いですし、いざとなったら御自身で先陣に立つような人ですから・・・常々思っていたんですよ。この人に近衛兵なんていらないと」
戦闘で二つ名を持つような国王は国でも指折りで強い方らしい。
直接ユーコちゃんが戦っているのを見ていないけど・・・鉈での戦いかぁ・・・。
某セミが鳴くころとか某学校生活の日々なんかで女の子が鉈持ってやっちゃうシーンとか見たけど、どれも凄まじいんだよなぁ。腹とか裂いたあと「中に誰もいませんよ」っていうのとかね。
「目的地に着けばいなくなりますのでお願いします!その場で転送石使って帰りますので!」
頭が地面につくんじゃないかという深さで腰をくの字に曲げ頭を下げるユーミさん。
必死さはひしひしと伝わってくるけど・・・・。う~ん・・・・。
「うちからも頼むのじゃ。ユーミがここまで真剣にモノを頼むのは珍しいことなのじゃ。さっきの戦いでなにか思うことがあったのかもしれんし、腕はまあお主らにはかなり劣るとはいえ、それなりじゃから足手まといにはならんじゃろうし」
この国の王にまで頭を下げて頼まれたら、もう断れんな。
別に断ったからってなにかあるようには思わないけど、一国の王が一人の家臣の為に頭を下げたのだ。なかなかできることではないだろう。
タマキと見合うと、『しょうがなかろう』って感じでお手上げのポーズをとっていた。
「じゃあ、まあ、しょうがないな・・・。いいですよ。技は教えますが習得できなくても文句をいわないでくださいよ」
「ほ、本当か!恩にきる!そ、それで厚かましいのだが、できれば料理も食べさせてくれると嬉しいのだが・・・・モリー殿の料理もこの機を逃すと食べられそうにないので・・・」
「飯ぐらいなら別に大丈夫ですが・・・」
そう言った途端、道案内を認めた時と同じかそれ以上の喜びを爆発させるユーミさん。
そんなユーミさんにブーイングを浴びせるユーコちゃん。
「おまえっ・・!さてはモリーの料理が目当てじゃったのか!?」
「い、いえっ!そんなことは・・・・・・・・・・・・少しありましたっ!」
「正直じゃのうお前はっ!くそっ、盲点じゃった。お前の向上心にほだされて頭を下げたと言うのに、その裏にはそんなご褒美が隠されておるとはっ・・・!」
ワシの料理がもとで王様と側近が喧嘩してる・・・・そんな凄い物御馳走してないぞ。
めずらしいのかもしれないけど、たかだか家庭料理だ。喧嘩するようなことかね・・・?
不思議そうにその言い争いを見ていると、その表情に気付いたのかタマキがそっと耳打ちする。
「モリーはもうちょっと自分の料理に自信というか矜持をもっていいと思うのぢゃ。そりゃ普通の料理がどんなのかは、昨日の携帯食しか見たこと無いだろうから無理だというのも分かるんぢゃが、おそらくあのロリ王が普段食べておる食事だって、モリーの作る奴より味は落ちるだろうし種類も少ないと思うのぢゃ」
そう言われてもピンと来ないよ。そしてさらっとワシの楽しみを奪うようなことは言わないでよ、タマキ・・・。
言い争いもなんとか終わって(ユーコちゃんも付いて行くとか言いだしたけどさすがにライムさんが中に入って止めた)、準備の段階だ。
ひとまず一旦は首都に戻り準備をしたいと言うユーミさん。そりゃそうだ。王を連れだした事になっているのだろうし、説明だってあるだろう。さらにこの旅で亡くなった方の弔いとかもあるだろうし。一週間はほしいのでこの場で一週間まってくれと申し訳なさそうに言ってきた。
こっちはこっちでこの準備期間には大賛成だ。なにせユーミさんがいる間は玉には戻れないのだ。料理の作りだめとかしたいし、その間でミケに基本的な技を教えるつもりだ。
初心者二人に教えるにしても、片方がある程度知っておいてくれればやり易いしね。
さらにいえば、その間に風呂やらベッドを堪能しておきたい。
ライムさんも調査団はユーミさんと一緒に寄こすと言っていたし一週間ここには誰もこないだろう。まあメイの探知があれは誰かくれば分かるか・・・・おっとちょっと離れたところで玉に入っておかないと玉の出入りを見られる可能性があるな。茂みの向こう、ダンジョンの目の前で玉を使おう。
別れ際仲間の死のショックで声を失っていたクミさんとベーアさんにミケが聖魔法をかけてやって声を取り戻す一幕があり、ライムさんが直々にギルドに戻らないかって熱心な勧誘をしていたけど、断っていた。
いつのまにやら、ミケも規格外の仲間入りに近いところまで来ていたらしい。素晴らしい成長と聖属性魔法である。
転移石を使って消えていくのを見送りながら、タマキが不穏なことを呟いていた。
「一週間後からしばらくおあずけかの。・・・・・モリー今晩からちょっと覚悟しておくのぢゃ」




