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九〇 早朝の決闘

「「いったいな(にゃ)にがおこったのじゃ(にゃ)・・・!???」」


ミケとユーコちゃんの間抜けな声が重なっている。

開始の合図からわずか二十秒、立っていたのはワシ一人。残りの三人は地面に転がっている。

転がっている三人の顔は未だ何が起こったのか分かっていない様子だった。

そして見ていた二人もこの状況に対して把握できていない。


「久しぶりに見たが、相変わらずの切れ味なのぢゃ」


そんな中タマキ一人だけがこの状況を理解して、楽しんでいた。


「ウチもあのころはよう転ばされたのう。あのときはどうなっているのかイマイチ分からんかったが、人がやられるのを見たらよく分かるのぢゃ。なんと美しい技なのぢゃ」


今回ワシがとったのは合気道と柔術を組み合わせた様な技だ。

島に居る時にタマキとの運動の時にやったりしていたやつである。

案の定戦い方まで脳筋でそれぞれ突っ込んできたが、この技は相手の力や動きを利用してひっくり返す・・・・まさに彼女たちにうってつけの技である。


「ミケよ。モリーが最初に教えようとしたのはこういった護身術ぢゃったのぢゃ。お主は成長して魔物を倒せるようになったから、必要無いと判断してしまったが覚えると言うなら教えるのぢゃ。ウチもモリーにしごかれたからの、一応体得はしておるぞ」


この状況に似合わない呑気な勧誘をしているけど、今の状況じゃミケはおろか誰も聞いていないんじゃないかなぁ。


「ワシの勝ちですね。では今回は貸しということで・・・」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!何をした!?」


「何をって、ユーミさんたちを転ばしましたが。土も舐めたでしょう?だからワシの勝ちです」


「し、しかし・・・転ばされた位で負けと認めるわけには・・・」


「はぁ・・・なるほど。ではもう一度チャンスをあげますよ。今度は投げた後付きで」


勝負に納得いかないユーミさんは素早く起き上がると、今度はフェイントを織り交ぜながらかかって来る。

さっきよりかは幾分考えて来たみたいなんだけど、結果は変わらない。

右ストレートを打ってきたところで、その腕を避けながら取り、今度は掴んだまま落とす。さらにそのまま肩口の関節を決め首筋に手刀を添える。


「ね。分かったでしょ。いまは手刀を添えただけだから意識もあるけど、本気で打ったら意識飛ぶからね。さらにこれが短剣とかだったら、死んでるよね」


倒れたままのユーミさんが悔しそうにうなずく。

やれやれ認めてくれたかと思い、決めていた腕を開放してやる。ユーミさんの目はもう戦意を感じられない。

そこに今度は同じく負けを認められていないクミさんとベーアさんが襲いかかって来る。

ユーミさんをとっさに抱きかかえ、バックステップで飛ぶ。今までいた場所に二本の剣が刺さる。

この二人は本物の刃物でくるから危ないなぁ。まあ戦場の機関銃の弾より遅いからなんとかなるけど。

抱えていたユーミさんをおろし、今度はワシの方から二人に向かっていく。

予想外だったのか二人が若干怯んだ。その隙を逃さずまずはベーアさんの懐に飛び込み、腕をとって流れるような隅落とし。離した二本の短剣のうち一本を落してひっくり返っているベーアさんの首横の地面に刺し、もう一本でクミさんと対峙する。

てっきり切り合いに来るかと思ったんだけど、予想外に構えて突進してきた。刺突かぁ。

ならばと短剣を構え刺突してきた切っ先に合わす。手に痺れがくるが、それはお互い様だろう。

この対処法は考えてもいなかったのか、思わず剣から手を離すクミさん。おっとダメだよ、そんな隙を作っちゃあ・・・。

瞬時にこちらも短剣から手をはなし、一歩懐に入りクミさんの右手を捻りあげてから這いつくばうように落とす。落としたのちに短剣を拾い、ベーアさんと同じように首横の地面に刺した。

完全勝利である。

今度は誰からも物言いはつかなかった。ただタマキ以外の皆からワシを見る目が変わった気がするなぁ・・・。


・ ・ ・ ・


「さすがモリー、ウチの旦那ぢゃ。あの護身術がここまで実戦で昇華されるもんなのぢゃのう。ウチももうちょっと魔法に頼らず、実戦をやってみようかの♪」


タマキは終始ご機嫌である。

あのあと勝負を見届けたユーコちゃんから正式に「うちらの完全な負けじゃ」という宣言があり、決闘は終わりを迎えた。

みんなショックだったのか一言もしゃべらない。しゃべっているのは旦那のカッコいい所を見ることのできたタマキただ一人だ。

ミケはともかく、あちらのパーティーはワシのことをただの腕のいい料理人としか見ていなかったからな。当然と言えば当然である。


「・・・・モリー・・・ほんとに凄いんだね・・・筋力、魔力だけじゃにゃく技もあるにゃ・・」


ぽつりとミケがつぶやく。

その目は虚ろで心ここにあらずだ。海を割ったり、砂漠を氷漬けにしたりしたけどそのときと同じ目。ワシがなにかをするたびにこの目をするのはやめてほしいのだが。


「これこそモリーの真骨頂なのぢゃ。今は体が進化のような成長をして、今のミケと同じようにほぼ必要無くなっておるがの。小さい頃は今のように筋力が無かったのぢゃが、その頃でさえウチはころがされっぱなしぢゃった」


なにげに人外認定のようなことを言うタマキ。

しかし言い得て妙である。たしかにこの体は成長というよりは進化と言った方がしっくりくる。

なんだ人が進化って?新人類?いやこの言葉はそういう意味では無かったはずだ。


「護身術として使えるのは間違いないから、覚える気があるのなら教えるよ、ミケ。一つ一つはそんなに難しくはないんだよ。覚えておいて損は無いと思うし・・・」


「そうぢゃ。さっきも言ったがウチも一応教えてもらっておるわけぢゃが、コツさえつかめば人なんてコロンぢゃということがよく分かる。あの感覚はなんともいえんのぢゃ」


「じ、じゃあ・・・今後おねがいしますにゃ」


ミケでもできるということを中心に教えた結果、なんとか目に生気が戻ってきた。

魔物退治だけの旅路は飽きるからな。見る顔も変わらないし。新しいことをしながらのほうがいいし、それが身を守る術なら一石二鳥だ。

あちらのパーティーはこの様子をボーッと眺めていた。どうやらあちらはまだ心がここに戻ってきていないようだった。


「あら?随分と大勢いるわね」


そんな状況を打破したのは、この雰囲気に全くそぐわない普通の声。

ライムさんの御到着だった。

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