八八 断る理由は焚火の前で
「すぐに返事はしなくて良い、明朝返事を聞かせて欲しい」
言いたい事を簡潔に言ったユーコちゃん一行は、暗い中器用にテントを設営していく。
おお。手慣れているな。早い早い。
「・・・あやつら・・助けて貰った分際で・・・どういう神経をしておるのぢゃ?」
その様子を見ながら呆れたようにつぶやくタマキ。
そうだよな。普通そういう勧誘って自分より下の人に言うもんだし、間違っても助けて貰った側が言うセリフではないな。
ランクを聞いてきたから、冒険者のランクとしてはあっての方が高いのかもしれないけど・・。
「で、どうするにゃ?ボクは別に二人と一緒にゃらどうでもいいにゃ」
「もちろん断るのぢゃろう?ミケの時はウチも気に入ったし、その生い立ちにも同情の余地があったし、なによりミケに意志があった。それにあの地獄のようなウチの訓練を耐えて、今や中堅冒険者にも引けを取らないぐらいにはなっておるぢゃろう。ぢゃないとウチら夫婦の旅に付いて来られんからのう」
「うん、そうだね。ランクとか関係ないし、今のところ三人での旅に不安も不満もない。誰かの下に入るということは考えてないしね」
ワシらの答えは日付をまたぐ事なく、決まってしまった。
・ ・ ・ ・
その晩は久しぶりに寝ずの番である。
ミケとタマキにはテントの中でぐっすり眠って貰っている。
ワシはというと暇だし仕込みぐらいは出来るということで、肉を各種大きさに切ったり、野菜の皮をむいたりと修行中の料理人のように下ごしらえをしている。
向こうの寝ずの番はユーミさんだ。
あっちはこの状況にも慣れたものなんだろう。とくに暇つぶしをすることもなくただ焚き火が消えないように辺りを気にしながら見張っている。
静寂が支配する空間。ワシが野菜を削る音と焚き火のパチパチという音だけが響いている。
「・・・何が不満なのだ?」
静寂を破るは向かいに座るユーミさん。
「失礼ながら先程の会話が少々聞こえてしまった。・・助けられた事には感謝している。助けられたうえで不躾な勧誘だった事は頭はともかく私は理解している。それでも私たちは個々人では皆ランクMを超えているしパーティーのランクだってLだ。先程はランクまでは言ってなかったが、普通なら勧誘されれば少しは悩む事だろう。それを即座に断る方向で・・・何が不満だ?」
予想以上の高ランクの方達だな。その方達はタマキが一発だったひきこさんに手間取っていたけど。
「まず自分と同じような年齢で上下をつける感じはちょっと・・・」
「・・・頭の事を言ってるのか?ああ見えてもう二十が来る歳だぞ」
仲間内でも禁句なのか、一層小さな声で伝えてくる。
え?あれで!?男を見るのが久しぶりって聞いた時より、いきなり勧誘された時より、一番びっくりだよ。
「さ、先程会ったばかりの人にいきなり仲間にしてやるっていわれてもねぇ・・」
「冒険者と言うのは一期一会だ。会った時間はあまり意味を成さないだろう」
「それに、ユーミさんは見れる状況じゃなかったけど、死にそうになっているのを助けたのはミケ、その原因はタマキが一撃・・・ランクはともかく実力とかはうちのメンバーの方が上な気がするんですが・・・」
「だ、だが!冒険者の格ともいえるランクは私らの方が上なのだから・・」
「そっちのスタンスはどうか知りませんが、そもそもワシらの旅のスタンスはランクとか依頼とか、もっといえば生活の為じゃないんですよ。見知らぬ土地を見て回るために辺境を出てきただけなんですよ」
ミケはそのまま辺境ギルドから、ワシらは辺境の無人島から。はるばる出てきたのは旅をするため。それ以外は全てついでだ。
ダンジョンだって、地位や名誉なんて関係ない。ただ中を見たいから潜っているだけだしな。
「・・それは、そちらの総意なのか?」
「う~ん・・。そうなんじゃないですかね。現にワシらは生きて行くだけならば冒険者なんてしなくても大丈夫なぐらいですし、いざとなったら屋台でも引いて移動食堂とかやってもいいし」
その際はタマキは店長、ミケは看板娘だ。
「・・ふむ。なるほど・・一応納得は出来るな。お前の腕で屋台なんか始めたら他の飯屋が迷惑することになるだろうけど、食いぶちはいつでも用意できる。それに今の言い方だと蓄えも十分にあるのか・・・」
「まあ、そうですね。ワシらには運があるみたいなので。現にワシらがここでユーミさんたちに会えたのもダンジョンを発見してしまったからですし・・」
「こ、ここにダンジョンがあるのか!?」
「はい、ありますよ。そのダンジョンを確認しに来るとギルドの方が言うのでここで待機してたんですよ」
「それはいいことを聞いた。明日にでも潜ってみたいのだが、中はどんな感じだった?」
「砂漠と遺跡ですね。あ、でも全属性魔法をつかえないと踏破は無理ですので潜る時は使える人を用意するか帰還の羽を持って行って下さいよ」
「それが判ると言う事は、踏破したのか!?まずよく管理されていないダンジョンに入ろうと思ったな!?」
「その認識がそもそも分からないんですが、ダンジョンがあったら取り敢えず入ってみようってなりません?誰も入った事がなさそうならなおさら面白いんじゃないですか」
「確かに面白いかもしれんが・・・お前達は命が惜しくないのか?」
「ミケはともかくワシら夫婦の共通認識は“人生なんて所詮死ぬまでの暇つぶし”なので興味あればなんでもチャレンジしたいんですよ。惜しいとか惜しくないとか考えた事ないなぁ・・」
「・・・面白い考え方だな。そしてその考え通りに生きようとしてきた結果が今なのか・・・」
話はそれで途切れ、ユーミさんは何かを考え込んでいた。
顎に手をやり、考えを巡らせているようだ。
焚き火の明かりで照らされるその横顔は見とれてしまいそうなぐらい魅力的だ。
この世界に来てから出会った女の人ってみんな可愛かったり、美人なんだよなぁ。
やがて考えが纏まったのか、こっちに向き目を見据えてはっきりと一言言い放ったのだ。
「そちらの考え方は分かったし、この分だと間違いなく勧誘は失敗だろうが、君達をあきらめるのは惜しいし諦めもつかん。どうだろうモリー殿、明朝私と勝負してくれまいか?負けたら君達をあきらめる。勝てば君達は私達のパーディー、どうかな?」
2018/2/10
魔物図鑑 2を投稿しました。(56話57話の間)
魔物図鑑 3を投稿しました。(71話72話の間)
魔物図鑑 4を投稿しました。(82話83話の間)




