八六 男女の理(ことわり)
「先程は助かった。礼を言うのじゃ」
熊の毛皮を取り、年寄り臭い言葉遣いで礼を言いながら、頭を垂れる幼女。
タマキで慣れているとはいえこう背の低い女の子から礼を言われるとなんか変な感じがする。
あのあと目が虚ろだった人はこの幼女の呼びかけに応じるかのように、目に生気を取り戻し感動の御対面ということになった。その後ひとまずキャンプを張っている道外れに移動して経緯を聞いてみる。
彼女たちは猟師の団体で他にも四人ほどお伴を連れていたらしいんだけど、残念ながら二人ほど魔物の犠牲となっていしまったらしい。南無。
それなりに腕に覚えはあるらしいんだけど、道なき道を進んで行った結果迷ってしまい、その最中にひきこさんをはじめそれなりに難敵と出くわし、戦ったり逃げたりしながら現在に至るということだ。道があるのに迷子になっているワシらとはちょっと違ったな。
そしてどうも一キロ圏内にいたのは彼女たちだったらしい。その圏内でひきこさんと追いかけっこをしていたらしい。ということは一キロ以上この人引きずれれていたのか!?よく生きていたな・・・!
「私からも礼を言う。もしあのまま引きずられていたら、生きてはいなかっただろう。そして治療をしてくれたことにも感謝する。引きずられていなくてもあの怪我なら普通は死んでいる」
その引きずられていた人からも礼を言われる。
なんか流れで代表としてワシが礼を受け取ってるんだけど、ワシ自身は何もしてないんだよなぁ・・。
「そういえば名前をまだ名乗って無かったのう。うちはユーコじゃ。見ての通りマタギ、よろしく。それから助けてもらったのがユーミ、あとの二人は剣を持っているのがクミ、弓をもっているのがベーアじゃ。全員熊人族じゃが、そちらのメンバーをみればそう言った他人族とかあんまり気にしておられんようじゃ。いいことじゃ」
たしかにこっちは狐(元魔物)、猫(先祖に魔物有りの可能性)、ワシ(何人族か不明)の普通ではない三人衆だからな。さらに言えばそんな他人族を気にするほど交友関係を築いている人はいない。せいぜい虎のタイガさん、天使のライムさんぐらいである。
「こっちこそよろしくなのぢゃ。ウチはタマキ、回復魔法を使ったのはミケ。で、さっきからお主たちに礼をいわれて戸惑っておるのがモリーぢゃ。ちなみにウチの旦那なのぢゃ」
ここぞとばかりに嫁アピールまでするタマキ。
要ったかね?その紹介。
すると意外なぐらい相手側に反応があった。四人ともびっくりしたような表情を浮かべている。
「タマキとやら、お主もう結婚しておるのか?早すぎではないか?いくつじゃ?」
「ついこの間十一になったかのう。ちなみに旦那は十になったばかりぢゃ」
「見た目通り若いじゃないか!どこでじゃ!?どこで見つけた!?」
「か、頭・・。あまり込み入ったことを聞くのはどうかと思いますが・・・」
「だ、だって旦那じゃぞ!男じゃぞ!お前らだって気になるじゃろう!?」
「そ、それは・・・私たちだって・・・・気にならないと言えば嘘になりますけど・・・」
「だ、だったら、黙って聞いておけばいいじゃないか!久しぶりにみる男だぞ!!」
止めようとしたユーミさんが逆に黙らされてしまった。顎に手をやったり、目を瞑ったり、腕組んだりいろいろ葛藤があったみたいな行動をしてたけど、最終的には言われてみればそうだなみたいな感じで納得していた。他の二人もうんうんと相槌を打っていた。
それにしても久しぶりに見る男って・・・。本当にこの世界男が少ないんだなぁ・・・。
「そ、それでどこじゃ!?」
「位置とか国とかは知らん。どっかの無人島ぢゃ。そこで運命的な出会いをしたのぢゃ」
「う、うんめいてき・・・!」
「それに早い早いっていうのぢゃが、それこそ五年以上の付き合いの後の結婚ぢゃ。その間もずっと好きあっての、な」
「う、う、うらやましいのじゃ~~~っ!!」
ついには泣き崩れてしまったユーコちゃん。
連れの三人は黙ってはいるけど、同じような気持ちなのだろう。目にうっすら光るものが。
号泣しているユーコちゃん、その様子にどうしていいかわからないワシら。
そんな光景で、
「しかし、夫婦そろって冒険者とはめずらしい・・。大体結婚したら男は家庭に隠しておいて、女が働くものなのだが・・・」
ユーミさんがポツリと興味深い事を言った。
男女逆の昭和初期みたいなことを言ったな。男は家庭を守れってか。
それにしても隠しておけとは・・・どういうことだよ。
「あの。それどういう意味ですか?」
「ん?なんだ知らなかったのか。男女とも最初の就職先は冒険者が多いのだが、男は希少価値だからな。パーティーには引く手あまただが、その勧誘は女の下心満載。運よく男がパーティーに入ってくれて伴侶としてゲット出来ても、その女と同じような者ばかりいる稼業は不安でしょうがない。だから男には引退して貰って隠そうとするのさ。だから総じて男の冒険者は未婚の若いのしかいないし、ある程度年食ってるのはよほどのなにかがある場合だよ。一夫多妻とは言ってもやっぱり一人占めしたいものなのさ。そのために女だけが外で働く。ま、ほとんどの場合はバレて女が稼ぎに出ている間に何人も増えているらしいけど」
なんか恐ろしい事を聞いた気分だよ。
『私以外に女が寄り付かないように隠してしまおう』・・・って、ヤンデレかよ。
ワシは本当にタマキで良かったよ。なにせワシと旅する事を前提に結婚してくれたのだからな。
間違っても家に閉じ込められることはないだろう・・・そう信じたい。




